2010/05/31

"All My Sons" (directed by Davies)の評判が良い!

ウェストエンドのApollo劇場でHoward Davies演出の"All My Sons"が始まった。主演はDavid SuchetとZoe Wanamakerという舞台ファン好みのスター。GuardianのMichael Billingtonは5つ星を付けて、絶賛:". . .  it is time to bring out the superlatives. Not only is the acting tremendous and every visual detail precise, Davies also makes you realise Miller's play is a portrait of a society as well as of a flawed individual."ObserverのSusannah Clappも大変高く評価。オーソドックスな演出らしいが、非の打ち所がない演技のようだ。私は8月に見ることにしているがこの夏一番楽しみな演目となった。

Billingtonによると、Daviesは10年前にもこの劇をNational Theatreで上演しているとのことだ。これは私も見ている。記憶力が極端に悪いので、細かい事は何も覚えていないが、確かCottesloeでの上演だった。大変な衝撃を受けたことは思い出す。

2010/05/30

"The Canterbury Tales" (Rose Theatre, Kingston, 2010.5.29)

見事なアンサンブルで見せる名作の舞台化
"The Canterbury Tales"
Mike Poultonの脚色による

Northern Broadsides / New Vic Theatre公演
観劇日:2010.05.29 14:30-17:30
劇場:Rose Theatre, Kingston

演出、作曲:Conrad Nelson
脚本:Mike Poulton
美術:Lis Evans
照明:Richard G. Jones
人形使い:Lee Threadgold
音楽:Rebekah Hughes
Movement:Matthew Bugg

出演 (以下は巡礼としての配役のみで、皆、テイルの役を複数やっている):
Ishia Bennison (Wife of Bath)
Emily Butterfield (Nun)
Matt Connor (Squire)
Phil Corbitt (Host)
Laura Cox (Prioress)
Andy Cryer (Poet Chaucer)
Michael Hugo (Cook)
Rosie Jenkins (Nun)
Guy Lewis (Clerk of Oxford)
Alan McMahon (Monk)
David Newman (Tavern Boy)
Rob Pickavance (Reeve)
Matthew Rixon (Miller)
Neil Salvage (Knight)
Richard Standing (Yeoman)
Andrew Whitehead (Pardoner)

☆☆☆ ☆ / 5

Northern Broadsidesの"The Canterbury Tales"をKingstonのRose Theatreに見に行ってきた。実に工夫に満ちた見事なアンサンブル劇。「子供のためのシェイクスピア」シリーズみたいな雰囲気だが、原作にはない駄洒落で脇道にそれた笑いを取るような事は一切ない。1回の上演に収まるように、長大な原作を簡略化しなければならないが、しかし、大変オーソドックスで、文豪の原作の内容とスピリットを最大限生かした公演に仕上がったと思う。笑える話、真面目な話、そして未完の話まで入れて、"The Canterbury Tales"全体を伝えようという、3時間を少し超えた野心的舞台。3つ、4つの有名な話を取り上げて、"The Canterbury Tales"の一部を演じるという形ではなく、可笑しいが下卑た話、貴族的な高雅な話、敬虔な話、上手な話や下手な話、退屈な話と魅力的な話等々、様々のお話のバラエティーを見せることで、話と話、語り手と語り手の間の有機的な繋がりを観客の心の中に生まれさせるという、原作の意図を実現しようと努力している。地方のツアー劇団ながら、凄い実力を見せた。Mike Poultonの脚本が素晴らしい。それぞれの話や作品全体のツボをしっかり押さえ、笑いと敬虔のバランスを取っている。言葉も原作を出来るだけ行かし、古い言葉が混じるが、それらの聞き慣れない古さがかえって新鮮に感じる。それぞれの巡礼は、我々観客に向かってしゃべり、観客も同行している巡礼の一人として、様々な人生談を分かち合う場に同席する。そして巡礼達が語るに連れて、他の役者が話を演じる。「語り」を見せる、タブロー・ヴィバン(tableaux vivants)、謂わば生きた紙芝居。

もし欠点を指摘するなら、全体が、観劇としてはやや長すぎる、騎士の話、賄い係の話など、いくらか退屈、などと言えるかも知れない。しかし、観客に受ける笑い話ばかり揃えて、"The Canterbury Tales"は「お色気たっぷりの笑い話集」と思われては、チョーサーを、そして中世人を大変誤解しかねない。真面目な話あってこそ、笑い話も生きる。

俳優は皆大変良かった。但、私が見た28日の公演では、粉屋役の俳優が足を怪我したため、激しい動きが出来ず、多少配役が入れ替わっており、台詞を書いた紙を持った人がたまに出てきたが、チームワークがあまりに良いので、私は全く支障を感じなかった。

脚本のMike Poultonは、4年前のRSCによる"The Canterbury Tales"2部作の脚本も担当しているが、今回は、1回の上演に収めたので、新バージョンだそうである。今回の上演は概して良い劇評を取っているが、RSCの上演の方が更に良かったという評者もいる。私はそちらを見て無くて、大変残念。しかし、今回は行けて、幸運だった。

今回の舞台化は、次のような話が選ばれている(順序などで私の記憶違いがあるも知れませんがお許しください):

1 プロローグ
2 騎士の話
3 粉屋の話
4 家扶(荘園差配)の話
5 料理人の話(ひどく下卑た話になりそうで、騎士に無理矢理中断させられる)
6 修道士の話(始まったところで暗転し、インターバルに)

インターバル

6 修道士の話(彼の話が終わろうという時点で後半開始。それまで他の巡礼は退屈してぐっすり居眠り中という設定)
7 免罪符売りの話
8 バースの女房のプロローグと話
9 オックスフォードの神学生の話
10 騎士付き従者(Squire)の話(話がうまく進まず、中断)
11 チョーサーによる、サー・トパスの話(話が下手、悪のりしがちで中断させられる)
12 賄い係(Manciple)の話
13 教区司祭の話(元は長い説教なので、その雰囲気を伝えるエッセンスのみ)
※最後に、全員で賛美歌を合唱(カンタベリー大聖堂到着を示すのか?)


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2010/05/20

"Women Beware Women" (Olivier, National Theatre, 2010.5.19)

陰謀と性欲、物欲、そしてダンス・マカーブル
"Women Beware Women"

National Theatre公演
観劇日:2010.5.19 14:00-17:00
劇場:Olivier, National Theatre

演出:Marianne Elliott
脚本:Thomas Middleton
美術:Lez Brotherston
照明:Neil Austin
音響:Ian Dickinson for Autograph
音楽:Olly Fox
振付:Arthur Pita
衣装 監督:Bushy Westfallen

出演:
Samuel Barnett (Leantio, a modest factor)
Lauren O'Neill (Leantio's newly-wed wife)
Tilly Tremayne (Leantio's mother)
Harriet Walter (Livia, Isabella's aunt)
Raymond Coulthard (Hippolito, Livia's brother)
Vanessa Kirby (Isabella, Livia's & Hippolito's niece)
James Hayes (Fabritio, Isabella's father)
Andrew Woodall (Gardiano, a courtier & guardian of the Ward)
Harry Melling (The Ward, a simpleton, Guardiano's nephew)
Nick Blood (The Ward's servant)
Richard Lintern (Duke of Florence)
Chu Omambala (Cardinal. and the Duke's brother)

☆☆☆☆ / 5

John Websterの作品のような、典型的なスチュアート朝復讐悲劇である。Thomas Middletonの劇を始めて見る機会に恵まれ、幸運だった。キャラクターはWebsterの方が面白く感じたが、特に物欲をクローズアップしている点が面白い。女性が品物のように男達の間で、事実上売り買いされるのだが、その女性達が更に物欲や性欲にまみれていて、男の欲望に女の欲望が塗り重ねられる。『女達よ、同性に気をつけよ』というタイトルの所以である。

ストーリーは2つのプロットが同時進行し、それを繋ぐのが中心人物の、Harriet  Walter演じるLiviaである。まず一方では、慎ましい勤め人のLeantioと彼と結婚したばかりの、身分の高い家の出身のBiancaがいる。Biancaは自分の新しい生活があまりに質素なのに、内心落胆している。そのBiancaにフィレンツェの侯爵が目をつけ、自分のものにしようとする。侯爵の意を迎えたいGuardianoと、彼に助力を依頼されたLiviaは何も知らないLeantioの母を使ってBiancaをLiviaの屋敷におびき寄せ、その母親とLiviaがチェスに興じている間に、別室でBiancaは侯爵にレイプされる。このシーンは、チェスとレイプが同時進行で描かれ、Liviaの動かすチェスのDukeと、彼女に手引きされた実際のDukeが皮肉に重なり合う。商用旅行から帰宅したLeantioはそれを知って半狂乱になるも、侯爵は彼に守備隊の隊長の役を与えると約束し、Leantioは妻と侯爵の関係を黙認することになる。Biancaも当初は嘆き悲しむが、やがて侯爵の愛人としての豊かな暮らしを進んで楽しむようになる。一方、侯爵に妻を奪われて呆然としているLeantioに、Liviaは突如大変引きつけられて、彼を激しく誘惑して自分の愛人とする。しかし、LeantioがBiancaに恨みを抱いているのを知って、侯爵は彼の殺害を画策する。

もうひとつのプロットでは、宮廷人Guardianoが自分のおいで、知恵足らずのWardをFabritioの美しい十代の娘Isabellaと結婚をさせようと、父親と話をつける。Wardはろくに結婚の意味も理解出来ない若者であり、Isabellaはうんざりするが、家長の決定には逆らえない。彼女の叔父のHippolitoはIsabellaに愛情を抱いていて彼がこのことをLiviaに打ち明けると、Liviaは二人の中を取り持つ手助けをする。IsabellaもHippolito相手に肉欲を満たすことに大いに満足し、この道ならぬ関係を続けるためにはWardと形だけの結婚をすることに喜んで同意する。

しかし、それぞれの人物は、自分の欲や策謀は棚に上げて、他の者からされた仕打ちには酷く腹を立て、恨みや羨望を抱き続け、それが、侯爵によるLeantio殺害の陰謀をきっかけにして、最後の幕で一気に爆発し、侯爵の兄弟のCardinalを除く全員が殺し合いを繰り広げるという結末になだれ込む。

最後のシーンでは、テキストでは侯爵と、前夫Leantioの死後まだほとんど月日も経たぬBiancaの結婚式が行われ、その出し物の仮面舞踏会の劇(マスク)を隠れ蓑にして殺害が次々と行われることになっている。今回の上演でも、大変スタイリスティックな舞踏と音楽の中で、次々と登場人物が剣や毒で倒れていく。どろどろと血が流れ、流血の惨状となるというような幕切れではなく、Marianne Eliottの演出のデザインは、やや抽象化された、一種の「死の舞踏」(dance macabre)である。黒子達が黒い天使の姿、即ち、悪魔の姿をして現れて、生きる罪人達の手を引いて死へと導くが、これは死の舞踏にアイデアを得たことを示しているだろう。かなりテキストがカットされているようで、私の印象では、演出家はスタイルにこだわりすぎて、最後の惨事のインパクトを軽くしてしまった気がし、やや不満。

ルネサンス・イタリア/イングランド風の衣装や場面設定にしたら充分濃密な雰囲気が出るとは思うが、演出家としては、それでは物足りないのだろう。セットや衣装は現代イタリア風である。しかし、光沢のある黒とそれに差し込む光を基調とした大がかりで豪華なセットと、物憂い退廃的な音楽で、ルネサンス風ではなくとも、十分に魅力的な舞台が出来上がった。回転舞台と音楽を使い、ストーリーをテンポ良く進行する。劇全体があたかもひとつの舞踏のように振り付けされてでもいるかのようであり、その最後が、上記の仮面舞踏会となってなめらかに幕を閉じる。ひとりひとりの役者よりも、その素晴らしいセット(Lez Brotherton)と音楽(Olly Fox)が主役のような印象である。

勿論National Theatreの俳優のアンサンブルは完璧である。各紙の劇評は、特にHarriet WaterのLiviaを絶賛していた。確かに彼女は、2つのプロットの鍵となる重要人物を巧みに演じている。しかし、私は、失礼ながら老人と言って良いHarriet WaterのLiviaが、若々しい、少年のようでさえあるSamuel BarnettのLeantioを愛人にするのはあまりに不自然に思えた。Lauren O'Neill(Bianca)とVanessa Kirby(Isabella)はまだ新人女優と言って良い人達だが、若さ故に自然に放つ身体の輝きが劇を美しく彩る。Richard Linternの傲慢で好色なDukeも説得力がある。Harry Melling演じるWardは、チューダー・インタールードで出てくる甘やかされた放蕩息子のタイプそのままだ。彼の召使いのSordido(小賢しい召使いのタイプ)と共に、古い演劇の伝統の名残りを感じさせた。

見終わって見ると、これまで他の復讐悲劇を見た時ほどの衝撃は感じなかったが、全体が一貫したスタイルで見事に統一されていて、その流麗な美しさが大変印象的な、Marianne Eliottの才気溢れる公演だった。


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2010/05/16

"Glorious 39" Stephen Poliakoff監督作品 (2009)

歴史の中で浮き上がる家族の過去と現在
"Glorious 39"
a film directed by Stephen Poliakoff (2009)

☆☆☆☆ / 5

Director: Stephen Poliakoff
Writer: Stephen Poliakoff

出演:
Romola Garai (Anne Keyes, an adopted daughter of the Keyes)
Bill Nighy (Sir Alexander Keyes)
Julie Christie (Aunt Elizabeth)
David Tennant (Hector Haldnane, MP)
Juno Temple (Celia Keyes)
Eddie Redmayne (Ralph Keyes)
Christopher Lee (Walter Keyes, in his old age)
Charlie Cox (Lawrence, a diplomat and Anne's lover)
Jeremy Northam (Mr Balcombe, a secret agent)

去年公開された当時から見たいと思っていたPoliakoffの新作映画がDVDになったので、早速Amazon.co.ukで購入した。この映画については、見ない前に、以前にこのブログにも書いたことがあるが、私はPoliakoffの大ファンなのである。妻も好きで、彼のDVDはかなり我が家に買って置いてあり、これは新しいコレクション。まだ日本では発売されていない。

今回の作品は、長らくテレビドラマばかり取っていた彼の久々の映画だそうである。いかにも彼らしい作品で、またいかにもイギリスらしい作品。かなり好き嫌いが別れるだろうが、私にはとても面白かった。どこが彼の作品らしいかというと、
1. 豪華なお屋敷での上流階級の人達をめぐるドラマ(嫌みに感じる人もいるだろう)
2. 過去の呪縛が徐々に明らかになって人の運命を劇的に変えるという、「記憶」のドラマ
3. 複雑な家族の過去をたどる、家族のドラマ
4. 人種の問題(Poliakoffはユダヤ人)
5. 時代の流れに翻弄される個人という「歴史」のドラマ
と言うようなところ。どの点も他の点と絡み合って出てくるのだが。

ストーリーは、ヨーロッパで第2次世界大戦が始まる1939年を舞台にしている。大陸ではナチス・ドイツが勢力を拡張しているが、イギリスのチェンバレン政権は、所謂"appeasement"(宥和政策)と呼ばれるナチスとの妥協をする政策をとって、戦争を避けることに躍起になっている。この一時の平和をイギリスの上流階級のKeyes家の人々は田舎の大きな屋敷で満喫している。Keyes家の養女で人気女優のAnne (Romola Galai) が取り仕切って、政府の要人で父親のSir Alexander Keyes (Bill Nighy) の盛大な誕生パーティーが開かれる。しかし、パーティーのディナーの席でも、ナチスとの対応を巡り議論が繰り広げられ、ウィンストン・チャーチルを支持する血気盛んな国会議員のHector Haldane (David Tennant) は、チェンバレンの懐柔策を厳しく批判して、自分はそれに反対して政治活動を続けると明言する。しかし、そのHectorは数日後、不可思議な死を遂げ、自殺と言う事で処理される。一方、Keyes家では政府の秘密のミーティングのレコーディングが発見されるが、Sir Alexanderは覚えがないという。その録音の一部には、政府の諜報機関がappeasementに反対する人々の暗殺をたくらんでいる事を示す証拠があり、Anneは知ってはいけないことを知ってしまった。彼女はその後、常に尾行され、やがて危険に身をさらすことになった・・・。

俳優の顔ぶれが豪華。David TennantとJeremy Northamはほとんど客演という感じで、少ししか出てこないが、それなりにピリッと作品を締める。主演はRomola GaraiとBill Nighyの2人。Romola Galaiはなかなか芸達者。ハリウッド映画のヒロインなどだと、何だか嫌みな輝きを放つ人が多いが、彼女はスターであることを感じさせない、現実味溢れる知的な演技。Bill NighyはAlexanderの隠れた本性を、あの冷たい表情と押し殺したような声で巧みに表現し、はまり役である。他にもJulie ChristieやChristopher Leeなど懐かしい人も出てくる。Anneの兄と妹、Eddie RedmayneとJuno Templeの二面性も印象に残る。 Eddie Redmayneは昨年、Donmar Warehouseの”Red"に出演し、オリヴィエ賞を受賞している注目の若手。こうした俳優をさらっと目立たない役に使って、隅々まで良く出来た映画になった。更に、素晴らしい屋敷、またその近くの廃墟をロケに使っているが、美しい。

単なるスリラーと期待してみると、それ程複雑でもないし、終わりもあっけなくて、大したことないと思う人も多いだろう。しかし、この映画は、基本的に、第二次世界大戦前のAppeasementの時代を、スリラーと家庭劇の枠組でシンボリックに語っているということだと思う。Anneには、ユダヤ人であるPoliakoff自身の思い入れが深いように見える。そう考えつつ、Poliakoffドラマを好きな人が見ると、こたえられない秀作。ひとつひとつのシーンの美しさは、カメラワークに如何に綿密な注意がされているかを感じさせる。またすぐにでも見なおしたい、と思える作品。

これを見て、チェンバレンの宥和政策など、戦争直前のイギリスの歴史について、私ももっと知る必要があると感じた。この映画の中で、Nighy扮するSir Alexander Keyesが,如何に先の大戦(第一次大戦)が過酷なものであり、人々に取り返しのつかないダメージを与えたかを言うシーンが印象に残っている。ナチスの拡張を許してでも戦争を避けたかった、ある一定年齢以上の人々の心には、前の大戦の傷跡が生々しかったのだろうと思わせるシーン。一方で、若い世代の政治家Hectorは、宥和政策に激しく反対するが、このあたりは戦争経験の有る無しという世代間の溝があったのだろうか(最近の日本の若い政治家の危うさを思い出す)。また、監督Poliakoffはユダヤ人であり、彼はユダヤ人虐殺の開始を黙認したチェンバレン政権が許せないという気持ちもあろう。また、戦争が始まる以前から、チェンバレン政権が国内で強引な諜報活動をして反対派を監視し、基本的人権を無視したことも示されている。そう言うことを、何気なく知らせてくれる作品である。近年の歴史家はAppeasementについてどういう評価を下しているのだろうか。この映画は、チェンバレン政府の暗闇の部分を指し示してはいるが、しかし、前述のSir Alexanderのつぶやきのように、けしてそれだけでもない。一概に断罪できるものでもないような気がした。

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2010/05/11

"The Real Thing" (The Old Vic Theatre, 2010.5.8)

おもしろいけど、つまらない?
"The Real Thing"

The Old Vic Theatre公演
観劇日:2010.5.8 14:30-16:40
劇場:The Old Vic Theatre

演出:Anna Mackmin
脚本:Tom Stoppard
美術:Lez Brotherston
照明:Hugh Vanstone
音響:Simon Baker for Autograph

出演:
Toby Stephens (Henry, a playwright)
Hattie Morahan (Annie, an actor)
Fenella Woolgar (Charlotte, an actor)
Barnaby Kay (Max, an actor)
Tom Austin (Billy, an actor)
Louise Calf (Debbie, Henry and Charlotte's daughter)
Jordan Young (Brodie, an activist & writer)

☆☆☆ / 5

英語で言うと、an extremely clever play about love、というところか。劇の造りはとても知的で興味をそそる。台詞もユーモアに溢れ、会話の「間」が絶妙だ。演技も素晴らしい。ということで、各紙の劇評は絶賛のようだ。しかし、私には関心の持てないテーマ。お話は、夫婦のfidelity / infidelityをめぐるごたごたである。例え一流の役者の演技を楽しめても、こういう話でしばし笑って楽しい思いをしても、ロンドンまで大金を使って出ていく価値ないな、と思った。

HenryとCharlotteはDebbieというティーンエイジャーの娘のいる夫婦。しかし、HenryはAnnie(Maxの妻)という若い女性と不倫関係にあり、Charlotteと別れる。そのCharlotteは、しかし、Henryと結婚していた間、9人もの男と不倫をしていたと、後で彼に言う。Annieは何故か、Brodieという元軍人で、平和主義者に転じて軍律を犯して刑務所に入っている男の法廷活動を一生懸命支援していて、Henryは何かうさんくさいものを感じている。Annieは、Charlotteと別れたHenryと結婚するが、2年ほど経ったころ、舞台で共演したBillyという若い男と不倫を始める。Henryはこのことに非常に苦しむが、AnnieはBillyもHenryも愛していて、自分には必要な人と言う。Charlotteはセックスをその時楽しめれば良いというような考えのようで、Annieは愛情は大切だが、対象はひとりとは限らないようだ。娘のDebbie(15歳くらいだった)は、年上の男と旅行に出ると言い、それが当然という顔をしている。こうしたまわりの女性達の考えとは違い、HenryはCharlotteに対しても、Annieに対しても、本当の愛情においては、fidelityを大事と感じている。彼は古めかしいロマンチストなのだろうか・・・という話。

面白いのは、これが劇作家と俳優からなる劇と言う事だ(ちなみにBrodieも自分の経験を元にシナリオを書いていて、それを添削するようにとHenryはAnnieから頼まれる)。作品の最初は、MaxとCharlotteが夫婦として劇を演じているシーンで始まる。また、BillyとAnnieが知り合うのは、John Fordの『哀れ彼女は娼婦』という劇に共演したからであり、その1シーンを2人が練習しているシーンが劇中劇として演じられる。見ていると、劇作家や俳優達の人間関係と、劇中劇の人間関係が、渾然となって絡み合う。フィクションが現実になり、現実の中には(多くの男と女の関係がそうであるように)様々の嘘や演技が刷り込まれている。人は劇を書いたり演じたりするが、一方で現実生活でも、愛情のシナリオを作り、妻や夫を「演じ」続ける。HenryやAnnie自身も、どこまでが本当でどこからが嘘か分からなくなる。

でも、そもそもこういう不倫のごたごた話自体に興味を持てない私としては、細かい細工をされても分かりにくくなっているだけで、「だからどうなの」という感想。細かく知的な装飾を施すよりも、もっとストレートに、例えば"Private Lives "のような作品のほうが、娯楽作品として楽しめる。この作品は、イギリス的なインテリの気取りが鼻についた。Much Ado about Nothingと感じるのは私だけ・・・?

作品が出たのは1982年。時代背景には、快楽主義的な風潮が頂点に達し、伝統的な結婚制度とか、親子や夫婦関係のモラルが崩れつつあった時代に戸惑う人々の心理もあると思う。

俳優は皆秀逸。特にToby Stephensの台詞には聞き惚れる。緩急のある、微妙な話し方が、とても良い。AnnieのHattie Morahanはちょっと先日見たKim Cattrallを思い出させる可愛いくていたずらっぽい感じのする、大抵の男性なら好きになりそうなタイプの俳優。俳優が自分が本来もつ可愛さを最大限に引き出すのも才能だと思う。私は、非常にドライな快楽主義者で、ちょっと歳を取った(40歳くらい)のCharlotteを演じたFenella Woolgarが、敢えて言えば、異性を引きつけるには盛りを過ぎ、それを諦めてはいるけれども少し寂しさも感じる女性(失礼!)を非常に上手く演じていて、とても面白いキャラクターだと思った。ちなみに脚本によると、AnnieはまさにCharlotteがかってそうであり、今はそうではなくなったような女性だそうである。まあ個人的な好みはさておいて、大多数の観客にとっては見て楽しい作品だと思うし、私も俳優の演技には感心した。豊かそうなミドルクラスの人々でいっぱいの劇場では、始終笑い声が上がっていた。

(おまけコメント)Toby Stephensって女性に人気があるなあ。それが良く分かる気がする。たくましい男性的な声や面構えだけど、でもとても繊細な神経を持っていそうな感じもする。ユーモアのセンスも感じさせ、2枚目だけど、2枚目によくある退屈させるような人じゃない雰囲気。また、ちょっと腕白坊主みたいな若々しさもあって、そこも女性心理をくすぐりそうだ。私も好きだ。Donmar Warehouseでの『人形の家』も大変良かった。


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2010/05/07

"Musashi" (Barbican Theatre, 2010.5.5)

楽しい一夜の夢、でも雰囲気が・・・
"Musashi"

埼玉芸術劇場、ホリプロ公演
観劇日:2010.5.5 19:15-22:015
劇場:Barbican Theatre

演出:蜷川幸雄
脚本:井上ひさし
美術:中越司
照明:勝柴次朗
音響:井上正弘
音楽:宮川彬良
振付:広崎うらん、花柳錦之助
衣装:小峰リリー

出演:
藤原竜也 (宮本武蔵)
勝地涼 (佐々木小次郎)
鈴木杏 (筆屋乙女)
六平直政 (沢庵宗彭)
吉田鋼太郎 (柳生宗矩)
白石加代子 (木屋まい)
大石継太 (平心)
飯田邦博 (浅川甚兵衛)
堀文明 (浅川官兵衛)
塚本幸男 (忠介)
井面猛志(只野有膳)
(配役はバービカンの英文パンフの通りにしてあります。脇役の俳優さんで、他の日本語サイトのロンドン・NY公演情報に書かれている配役と一部違うところがありましたが、どちらが正確かは分かりません。)

☆☆☆☆ / 5

劇自体は、私にはとても楽しかったが、どうも雰囲気が・・・。やはりコメディーは外国語では難しい、と思い知らされた気がする。最初の1時間くらい、劇場はほとんど静まりかえっていた。私は結構面白いと感じたが、何だかエンジンの温まらないまま先に進んでいく感じがした。特に喜劇は、劇場が楽しい雰囲気にならないと、劇だけ面白くても充分楽しめない。台詞がよく分からない英語の劇でも、まわりが楽しそうにしていると自分も何となく楽しめるのだが、今回は逆になってしまった。日本人の観客が3,4割いて、面白さを感じていたとは思うのだが、日本の劇場の観客とは違う。イギリス人観客に遠慮して、馬鹿笑い出来ないような雰囲気があると感じた(のは私だけか・・・?)。2人3脚ならぬ5人6脚のシーンも、どうもそれ程爆笑という程の笑いは起こらない。観客が、お勉強に来ている感じがした。特に、能のパロディーのような体の使い方、声の出し方から自然ににじみ出る可笑しさがあると思うのだが、それがイギリス人にはあまり伝わっていないのではないか。また、駄洒落などは全然駄目だ。上に字幕が出て、簡単に理解出来るように大変巧みにまとめてあるのだが、本当の台詞の半分以下、3分の1くらいの語数になってしまっており、ユーモアを伝えるところまではいかない。浅川家との対決場面で腕を切られ、その腕がぴくぴく動いたところで爆笑が起こり、そのあたりから、大分観客の雰囲気がほぐれた感じがして、後半はまあまあ盛り上がった。

ストーリーは、宮本武蔵と佐々木小次郎が巌流島で決闘した時、武蔵が医者に声をかけて、小次郎が何とか助かり、その4年後、鎌倉の禅寺の寺開きの参籠禅で再会する。小次郎は復讐の鬼となっていて、この4年間この時のために準備を怠らなかったのだが、3日間の禅の修行を共にするうちに、色々なハプニングが起こって、2人の憎しみや競争意識にも変化が起こってくる、という話。この参籠禅に共に参加したのが、能を舞うのが何より好きという(現代で言えばカラオケ・オヤジ)剣客、柳生宗矩、寺の檀家の木屋まいと筆屋乙女、そして大徳寺の高僧、沢庵宗彭、迎えるのは寺の和尚、平心。この連中が、役も役者も皆、怪物揃いで面白い。特に吉田鋼太郎の柳生宗矩、六平直政の沢庵宗彭、そして言うまでもなく、白石加代子の木屋まいは抜群の表現力。白石のタコ踊りも傑作なんだが、タコは西欧では悪魔になぞらえられる生き物で、タコ踊りの伝統がある日本と違い、観客には戸惑いがあるようで、すぐには可笑しさと結びつかない点も残念。藤原と勝地は、普通の劇やテレビドラマならあまりに可愛い過ぎる武蔵と小次郎だが、そこもパロディーらしくて良い。生きたアニメのヒーローみたいだった。特に藤原の腰を低く落とした構えが、武士として実に様になっていて、稽古の成果をうかがわせた。何しろ、脚本が出来ないので、殺陣などの稽古を念入りにやったそうだから。

井上ひさしの脚本自体が大変良い。特に、18番目の皇位継承者というところは、天皇制の血筋を云々する馬鹿馬鹿しさを皮肉ってあって特に気に入った。皆で5人6脚をするところ、剣術の稽古が体操になってしまうところ、あちこちに作者の平和へのメッセージが笑いと共に散りばめられてあった。

いつものように、蜷川のイメージの豊かさ、そして今回は特に音楽・音響も素晴らしい。9/11以降の世界において、復讐の連鎖を断ち切って欲しいという井上ひさしの最後のメッセージが心に響いた。

カーテンコールでは蜷川さんも出てきて、スタンディング・オベイション。でも、あれは、遠路ご苦労様でした、という観客のねぎらいという気がし、それほど楽しめていない人が多いのではないかと疑った。私は大変楽しい夜だったけど、強いて言えば、勝地涼に不満は無いものの、小栗旬に来て欲しかったな。

関心のある方もいると思うので、今のところ出ているイギリスの批評を紹介すると:

ガーディアン紙のMichael Billingtonは、もともと蜷川びいきで知られるが、今回も4つ星をつけ、"an extraordinary theatrical event"と絶賛。彼は、蜷川の演出だけでなく、井上ひさしの反軍国主義、平和主義のメッセージが効果的に伝えられたことに注目していて、大変ツボを押さえた批評である。

演劇サイトの"What's On Stage"のTheo Bosanquetは、☆3つ。ヴィジュアル・イメージや俳優の演技は楽しめたが、退屈に感じた時も多いようだった。

Times OnlineのSam Marloweも4つ星をつけて、大変褒めている("Alive with wit and beautiful to behold")。ただ、リビューの内容はどちらかというと紹介。

IndependentはMichael Churchで、5つ星の満点。"Never has this great director created such a serenely terrifying, Prospero-style spell, where lighting, music, and spectacle conspire first to frighten, then to steer us into a profoundly philosophical calm."と結んでいて、なるほど良い例えと思った。確かに、大変『テンペスト』的な劇と言えるだろう。

Evening StandardのFiona Mountfordは4つ星。ハリウッド映画にもできる素材で、西洋の観客にも楽しみやすい作品と書いている。

こうしてみると、大変好評だ。但、Billington以外はそれぞれの新聞のメインの書き手ではなく、2番手の批評家じゃないかな。

(追記)最後のところで、寺の石を投げて呪いが消えていくのだったと思うが、あの石、「結界石」って言うんですね。私は常識がなくて、そういうものがあるって知らなかったです。"London Love and Hate"というタイトルのブログで教えていただきました。今回、色々な方のブログを参考にして、自分が沢山大事なところや面白いところを見落としているのに気づきました。その後、新聞評を読んだり、"London Love and Hate"の守屋様のブログを読んだりして、私は静かすぎる感じがしたけれど、イギリス人観客も、伝わらないユーモアもあっても、全体としてはかなり楽しんでいたんだなと分かりました。


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2010/05/02

"Ruined" (Almeida Theatre, 2010.5.1)

戦争の陰で生きる女性達の苦しみを描く
"Ruined"

Almeida Theatre公演
観劇日:2010.5.1 15:00-17:30
劇場:Almeida Theatre

演出:Indhu Rubasingham
脚本:Lynn Nottage
美術:Robert Jones
照明:Oliver Fenwick
音響:Christopher Shutt
作曲:Dominic Kanza
音楽:Akintayo Akinbode
振付:Coral Messam

出演:
Jenny Jules (Mama Nadi)
Lucian Msamati (Christian)
Pippa Bennett-Warner (Sophie)
Michelle Asante (Salima)
Kehinde Fadipe (Josephine)
Steve Toussaint (Commander Osembenga)
Okezie Morro (Jerome Kisembe)
Silas Carson (Mr Harari, a white trader)

☆☆☆☆☆ / 5

最近、良い劇に出会うことが多くて幸運!DonmarやAlmeidaでははずれはほとんどないが、この作品は中でも特に良い。アメリカで既に大成功し、2009年のピューリッツア賞に輝いた脚本である。

アメリカ人女性劇作家Lynn Nottageの発想はアフリカ、コンゴ民主共和国で続いている内戦の戦場を舞台に、現代版の『肝っ玉母さんとその子供達』(ベルトルト・ブレヒト)を書くことだったそうである。それで、実際にコンゴに行って戦争に遭遇した女性たちを取材して彼女が感じたのは、ブレヒトの作品では女性の苦しみが十分に取り上げられていないと言う事。それで、Nottageは、ブレヒト作品を出発点としつつ、戦争における女性の苦難、特にレイプの被害に注目したこの作品を書き上げた。標題の"Ruined"は、激しい性暴力を受け、肉体的にも取り返しのつかない傷害を負った人々を指すとのこと。公演パンフレットを和訳して引用すると、

「こうした多くの女性は恐るべき傷害を受けている。多くの場合、彼女たちは長期にわたり、女性器や肛門の傷に苦しみ続ける。こうした傷は、しばしば命を脅かすほどひどく、また、将来にわたって、妊娠や出産で問題を起こし、出血や潰瘍、重篤な感染症を伴うひどい裂傷などを引き起こす。こうした性暴力による酷い病気や傷害をかかえた女性やレイプの被害にあった女性は、特にコンゴ民主共和国の内戦に関連しては、"Ruined"と呼ばれている。」 (Amnesty InternationalのHeather Harveyによる)

更に、パンフレットによると、コンゴなどアフリカの紛争地域では、レイプが地域住民の士気をくじくのに効果的として、政府軍や反政府軍の作戦として組織的に行われているとのことだ。

また、この作品は、こうしたアフリカの内戦の背後には、日本などのアジア諸国を含め、先進国が先端的な工業製品を作るために必要な貴重な鉱物(スズ、タングステン、タンタルム、金など)を内戦を行っている政府や国内の反乱軍が資金集めのために奪い合っている状況があることも教えてくれる。映画『ブラッド・ダイヤモンド』でも取り上げられた問題である。この舞台でも、唯一の白人Mr Harariは、政府軍であろうと反乱軍であろうと、取引をする商人だ。

物語は、コンゴの戦場に近い場所で酒場を営むMama Nadiの店を舞台にしている。彼女は女ひとり、気丈に荒っぽい兵隊達を相手にしつつ、10人の女性をホステスとしてかかえて、商売に励んでいる。お店の常連、Mr Harari同様、彼女にとって、政府軍も反乱軍も関係なく、お金を落としてくれる客なら誰でも良い。彼女の店に物資を運び、かつ彼女自身にご執心の中年男Christianも常連だが、ある日、彼は自分の姪のSophieとその友達Salimaを、店で雇ってくれるようにと連れてくる。2人とも、戦争で兵士に襲われてレイプされ、しかしその為に家族からはRuinedとの烙印を押され、行き場がない者達だ。Sophieは体に酷い傷を負っているらしく、男に触られるだけで激しい拒否反応を示す。Mama Nadiは、商品としては使い物にならないSophieを雇うことを非常に渋るが、仲の良いChristianに説き伏せられる。更に、金の亡者のように見える彼女だが、内心は何とか自分の店の若い娘達を守りたいと必死なのである。

女性達は客に酒を飲ませ、極めてセクシュアルな踊りを踊り、歌を歌い、そして時々、酒場の裏へ客の兵士達と消えていく。Salimaのように酷いレイプにあっていながらも、売春行為をして生きて行かざるを得ない女性達の姿が大変悲しい。やがて戦況は急を告げ、反乱軍と政府軍が店のある地域で交戦。店にも森から銃撃の音が聞こえてくる。ChristianはMama Nadiに一緒にキンシャサに逃げて商売を出直そうと誘うが、Mama Nadiは自分の娘達を置き去りには出来ないと客の来なくなった店に留まる。やがて、反乱軍兵士が店を訪れ、その後、政府軍の司令官Osembengaが反乱軍をかくまったとMama Nadiを恫喝する。司令官はSophieを抱こうとするが、Sophieは激しく反発して彼を非常に怒らせてしまった。Mama Nadiのビジネスは勿論、自分や店の娘達の命も危なくなる・・・。

粗筋だけ見ると、非常に陰惨なお話のようにも見えるが、とにかく賑やかな劇で、楽しいシーンがいっぱい。アフリカのジャングルのトタン屋根の酒場。カラフルなセットと衣装や照明。生の音楽に合わせて、Sophieが歌い、JosephineやSalimaが体を激しくくねらせて踊る。テンポの良い会話を、役者の演技力が支え、ユーモアもたっぷり。それぞれのキャラクターも個性が良く出ていて、魅力的。特に美人のMama Nadi(Jenney Jules)と臆病だが気の良いChristian (Lucian Musamati) の丁々発止のやり取りは楽しめる。Mama Nadiに破局が訪れた後、最後の幕切れは希望を抱かせる(ここはアメリカ人の作品らしい?)エンディングで、ほっとする。

Jenny Julesは、ほっそりした体ながら、口をへの字に曲げて、啖呵を切ると,迫力満点。複雑なキャラクターを名演。Lucian Musamatiはしばらく前にBBCで放映されたドラマ、"The No. 1 Lady's Detective Agency"でやっていた役柄とそっくりだが、あのドラマでと同様、ちょっと強い女性をサポートする役柄がうまい!大変表情豊かな俳優だ。酒場の女性達を演じた俳優も皆それぞれに魅力的。また、Commander Osambengaを演じたSteve Toussaintは堂々とした体躯で、恐ろしさを良く伝えていた。

上記のように、セットや照明、音楽、振付などが、劇の効果を格段に高めていて、裏方の力を強く感じさせた。演出のIndhu Rubasinghamは名前からしてインド系の人だろうか。まだ大変若い人だが、大きな才能を感じさせ、注目株!今後の演出作品に期待したい。

(追記)先週まで3回シリーズでBBCで"Welcome to Lagos"というドキュメンタリーをやった。ナイジェリアのスラムに住む貧しいがたくましい庶民の暮らしを、肯定的に明るく描いた作品。アフリカに少しでも興味のある人には、いやアフリカの事を知らない私なんかには特に勉強にもなるし、第一、見て楽しいドキュメント。イギリスに住んでおられる方には、iPlayerでご覧になることをお勧めできます!ナイジェリアって、マスコミでは不安な政情、腐敗した政権、民族対立などが伝えられることがほとんどだが、こんな素敵な人達が住んでいるんだ、と思わせる。


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