2010/12/30

"Glass Menagerie" (2010.12.29, Young Vic Theatre)

AmandaとLauraに感動
"Glass Menagerie"



Young Vic公演
観劇日:2010.12.29  19:30-22:10
劇場:Young Vic

演出:Joe Hill-Gibbins
脚本:Tennessee Williams
セット:Jeremy herbert
照明:James Farncombe
音響:Mike Walker
音楽:Dario Marianelli
振付:Arthur Pita



出演:
Leo Bill (Tom Wingfiedl)
Deborah Findlay (Amanda Wingfield)
Sinéad Matthews (Laura Wingfield)
Kyle Soller (Jim, Tom's friend)


☆☆☆☆ / 5

多くの演劇ファン同様、私もテネシー・ウィリアムズが大好きだ。このシンプルな出世作も、本でも映画でも、そして勿論舞台で見られれば尚更、大変面白い。日本では、緑摩子と南果歩が出演した上演(1993年、シアター・コクーン)は大変感動した記憶がある。AmandaとLauraのふたりには、母娘関係のひとつのarchetypeが見られると思う。色々な人が、このような母、このような娘を自分の周囲に、そして自分自身の中に発見するのではないだろうか。

但、Williamsはキャラクターやステージの作り方がしっかり書き込まれているので、上演の個性を強く打ち出すのは難しいのではないだろうか。それ故、俳優の演技力が大事になってくると思う。

ところがこの上演は、しきりとプロダクションの個性を主張する。いや、主張しすぎてしつこく感じた。特に、大変大げさな、誇張されたTomの台詞回しはイライラした。如何に彼が自分の世界にどっぶり浸っているかをしめしているのだろうが。最後の、もっとも感動的でリリカルなモノローグなんか台無しになって、何を言ってるか分からないうちに終わってしまい、ガクッと来た。「終わりよければ」、ではなく、「終わり悪ければ」、である。また、しつこい、説明的な音楽が良くない。LauraとKyleが親しくなっているところで、センチメンタルなピアノ演奏をするなど、安手のテレビ・ドラマみたいな感じになった。ウィリアムズ作品は、そもそもセンチメンタルになりやすい弱点があるので、まずいと思う。余韻とか、叙情が消えて、騒々しいプロダクションになってしまった感じだ。そういうのをぶち壊すのが、この演出家の意図なのだろうか?

しかし、それでも脚本自体の素晴らしさがそうした事を補ってあまりあるし、さらに、Deborah FinlayのAmandaの演技は一級だ。特に、Tomがやって来た時に、まるでLauraではなく、彼女自身が主役になってしまうシーンなど、説得力たっぷり。但、私が見た夜は、彼女は明らかに風邪を引いており、声が枯れてきて、最後にはかなり疲れも見えたのは少し残念だし、可哀想だった。俳優さんにとって、今年のような寒い冬のお仕事は大変だ。Sinéad Matthewsは、Tom同様やや変わったLauraだと感じた。あまり弱々しくなくて、ガラスの動物のようなもろさ、という感じはしない。しかし、足の引きずり方からかなりひどい障害で、口を開くのにいちいち時間がかかり、言葉を絞り出すように話す様子といった特徴に、非常に頑なに自分の世界に閉じこもっていることが強調されていると思う。私はとても良いLauraだと思った。彼女はマイク・リーのお気に入りだそうで、ふたつの映画に出ている。私は、Gate Theatreで上演された、Frank Wedekindの"Lulu"で見たが、その時は劇自体がつまらなくてうんざりしたのだが、今回は劇が一級であり、彼女の実力が発揮されたと思う。

BBC One drama, "Accused" (全6話)

BBC One drama, "Accused" (全6話)

☆☆☆☆ / 5

11月から12月にかけて放送されたJimmy McGovern脚本によるドラマシリーズ(毎回、もう一人別のライターが加わり、2人による共同執筆のようである)。以前にも3話目までみたところで少しこのブログで触れたが、iPlayerでやっと全6話を見終えた。もう1回目は忘れてきてしまったのだが、覚えている印象だけもメモしておく。

内容は、Accused、つまり、告発された人々の話。殺人や殺人未遂等を犯した人を取り上げ、彼らがどうしてそういう事をするに至ったかを、夫婦や親子関係などの家庭生活や、アルコールやギャンブルなどの中毒、仕事のストレス、性、いじめ、その他の多面的な視点から、各回1回完結で取り上げる。

徹底的に憎むべき主人公で、救いようも無い犯罪者とか、職業的犯罪者は出てこない。初犯かそれに類した人で、その人の性格の問題や、環境、たまたま不幸な偶然などが重なって罪に落ちてしまった人が取り上げられる。しかし、その中でも、6話が、大きく分けて3種類に分けられるような気がした。

具体的には、その人の性格の弱さなどが、不運な条件と重なって犯罪に繋がってしまったケース:
1. Willy's Story
4. Liam's Story

もうひとつのタイプは、その人にはあまり、あるいは全く非は無いが、警察の捜査の不備(あるいは警察の腐敗や怠慢)、法や裁判の不備、そして周囲の無理解により、止むにやまれず、自分の人生や命をかけても殺人を犯すところまで追い詰められたケース:
2. Frankie's Story
3. Helen's Story

最後の2話は、本人達にも問題はかなりあったが、周囲の状況も非常に不幸なものであったケース
5. Kenny's Story
6. Alison's Story

2話と3話は、従って、かなり主人公に感情移入してみることが出来、1話と4話は、距離を置いて見る感じであり、5話と6話は、その中間か。ただし、1話と4話にしても、犯罪を犯すに至った子細が丁寧に描かれているので、ただひどい男だな、という印象ではなかった。

特に私は4話がとても記憶に残っている。Liamは慎ましい暮らしの、タクシーの運転手。奥さんは、難病患者であり、自宅介護が必要である。可愛らしく才能豊かな娘がおり、立派な私立学校に入れそうで、親子で面接に出かけたりしている。しかし、彼は、ギャンブル中毒で、いつもお金に困っており、子供が試験に受かってもプレゼントもあげられない。快復の見込みの薄い病気の妻の介護で、気持ちもふさぎがち。そう言う時に、たまたまお客として知り合った美しく若いキャリア・ウーマンに心を奪われる・・・。彼女に近づくために、彼は坂を転げ落ちるように、いかがわしい事を次々とやってしまう。見ていて苦しくなるような、気が滅入るドラマだが、しかし、大変説得力があり、勧善懲悪の犯罪ドラマとは違った面白さ。私は途中で、見たくない、と思って一旦見るのを止めたくらいだが、また見たくなって、iPlayerで最後まで見た。

2話のFrankie's Storyは軍隊における凄まじい虐めと、それを隠蔽する軍隊の体質を描いた作品。非常にパワフルで、エモーショナルなストーリーだ。しかし、この作品は、軍関係者や軍人の家族、そして多くの一般視聴者から非難の声が上がったようである。現在、アフガニスタンに兵士を送り、死傷者も次々と出ている国としては、軍をけなすようなドラマは許せないと思う人がいて当然だろう。しかし、数年前には、イギリス陸軍での重大な虐めの暴力事件も報道されている。軍隊というのは、典型的な縦社会で、職務も、謂わば敵に対する暴力をふるうことを仕事とする人の集まりだけに、こういう問題も起こりやすいのではないか。BBCでは、こうした苦情に対して、これはあくまでフィクションであると、正式に回答している


もうひとつ特に印象に残っているのは、3話のHelen's Story。彼女は真面目な小学校の先生で、彼女自身は問題の無い立派な人格と行いの人。愛する息子がアルバイト先の事故で無惨な死を遂げる。しかし、息子を雇っていた会社に対しては、全く責任が問われず、彼女は警察を動かそうとして、自分の足で事故の起こった背景を調べ始める。この主人公の場合は、視聴者はほぼ100パーセント彼女に寄り添って見ると言う風に物語が作られているので、興味の中心は、警察は彼女にどう対応するか、そして、最終的には、彼女の犯した罪が、陪審員によってどのような判断をされるか、ということである。

最後の回(6話)のAlison's Storyでは、仕事と家庭の板挟みでストレスがたまり、職場でとても同情して親切にしてくれた同僚の男性に惹かれてしまう既婚女性の話。そこまでは彼女にも多少の非はあるのだが、その後の夫の反応がひどい。しかも、警察官の義父が、その夫と一緒になって彼女を迫害し、視聴者の共感はAlisonのほうへ移ってゆく。

犯罪ドラマというと、リアリティーの無い娯楽作品(例えば、ポワロ・シリーズとか、Midsomer Murdersシリーズ)なども多く、それはそれでエンターテイメントとして楽しめるが、このシリーズは、あくまでも人間の煩悩や社会を描いたドラマ。主人公の行動を通して、イギリス社会のかかえる問題点や警察の腐敗、裁判の至らなさなども描かれて、考えさせられる。日本と比較して、イギリスは犯罪の件数も多いようだが、特に一旦火が付くと、暴力が凄まじい。ナイフ犯罪や、喧嘩や襲撃で人が殴り殺されたりする事件が多いという印象だが、そういう事を背景に感じた。

芸達者の主役、脇役がたくさん出ていて、その点でも楽しめるシリーズ。主な人としては次のような俳優がいる:
1  Christopher Eccleston
2  Mackenzie Crook, Benjamin Smith
3  Juliet Stephenson, Peter Capaldi
4  Andy Serkis, Judy Wittaker
5  Mac Warren, Andrea Lowe
6  Naomi Harris, Warren Brown

特に2話のJuliet Stephenson、4話のAndy Serkisなど、私には印象深い。

このサイトで、1話から順番に内容の説明がある。


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2010/12/24

イギリスの学生デモ/日本の大学の授業料の安さ


イギリスの学生デモ/日本の大学の授業料の安さ

(以下はしばらく前に書いたまま放っておいた記事で、学生デモについては古いニュースとなりつつあります。でも、それをきっかけに高等教育の費用の問題について、一市民として、また学生として、少し考えてみました。誤解等あれば、ご指摘いただければ幸いです。)

12月11日のロンドンの学生デモは大変な騒ぎになりました。そうなっても当然のような気がします。大量の若い学生、それも一部は入学前の高校生や、それ以外の若者も含んでいるわけですから、アドレナリン旺盛な一部が暴走するのは当然でしょう。また、元々この機会に便乗して、騒動を起こそうという、謂わば武闘派のグループや一種のギャングも幾らかいたようです。荒れた教室や、週末の夜、酒を飲み街角でたむろして騒ぐ若者と同じです。しかし、そういう人も含め、不況になって以来のイギリス社会で若者が感じている閉塞感、将来への不安、を、授業料値上げの問題が刺激したのだと感じます。若者の政治意識の高まりは投票という、政治家に都合良い手段ではなく、直接行動になりがちですね。極端に単純化すると、無関心か直接行動か、というのが若者の政治行動パターンですね。警察に届けたとおりに静かに街角を練り歩き、署名などを提出し、でも結局、警察に引率されて、遠足に来た幼稚園児みたいに解散し、大人しくお家に帰る、そして、法案は無事国会を通過する、というシナリオ通りだと政権側は都合良いでしょうけれど。

今度の大学の授業料値上げは、大学経営者や保守党の政治家から見るとやむを得ぬものでしょうが、消費者である学生やその保護者から見ると、どう見ても極端です。国が大学に交付する予算のうち、直接教育にかけられる予算(teaching grant)は80パーセント削減だそうです。20パーセント残っている分は、理系の実験実習などに使われるのでしょうか。費用のかからない人文社会の学生には援助が完全になくなると報じられています。つまり、国立でありながら独立採算に近づき、経済的には事実上私立大学と同じような状況になる、と非難されています。自分が教えて貰う費用については、完全に自分で払う、ということですね。多分、直接の教育支出以外、つまり、校地の取得、校舎の建設や維持、図書館等の施設の費用、大学全体の事務局の費用などについては、国の財政支出が零になるというわけではないのでしょうが・・・(どこで予算の線引きをするのか、私は知りません)。国庫からかなりの補助金を交付される日本の私立大学(大学によるが、概して、支出の10パーセント強)と比べ、どちらが学生にとっては得な計算になるのでしょう?少なくとも、日本の国公立大学と比べると、自国民の学生にとっては、日本のほうが大変お得です。イギリスの学生の教育には、理系も含め、平均して年7000ポンドかかると言われています。ということは、人文社会の学生はそれより大分安く済んでいるでしょう。授業料が6000ポンドから9000ポンドになると、人文社会の学生は実費以上に支払い、理系の学生の分を援助する計算になる可能性も出て来ますね。

ちなみに、日本において高等教育を受けている学生一人当たりにかけられている金額は、先進国の最低レベル、いや世界でまともな大学を要している国の中でも最低レベルとは、統計的に言われています。日本の大学は極端な安売りスーパー状態であり、安かろう悪かろう、という研究・教育内容ではないでしょうか。かけられている税金は少なすぎるし、私学の授業料もかなり安いと思われます。米国の私立大学の授業料は、農村部の小さなリベラル・アーツ・カレッジなどで250万円前後、東部の名門校などで、300万以上かかります。その位の費用をかけないとちゃんとした教育は出来ないと言う事なんだと思います。アメリカの私学の場合は寄付金収入や事業収入の比率が高いにも関わらずこのくらいの授業料は取るわけです。イギリスの大学の急激な授業料値上げ案も、国際的な高等教育の水準に遅れをとりたくないということの現れでもあります。特に英語圏では、若い才能の獲得や研究水準の維持などで、アメリカやオーストラリア、西欧諸国の一流大学との競争に直接さらされます。授業料に大幅に依存する日本の私立大学で、年間授業料が文系で100万円程度で済んでいるのは、国際的には異常なレベルです。日本の大学は、そもそも国際レベルの高等教育の競争の蚊帳の外にあり、脱落しているのを承知で安売りを行っているように見えます。多くの大学では、ちょっときつい言い方をすれば、大学レジャーランドと長年言われているような環境を作り、大量の学生を受け入れ、若者をあまり勉強させずに卒業させ、その代わり、安い授業料しか取らない、という状況でしょう。しかし、産業界同様、東アジアにあり、日本語という言語環境に守られて、一種の研究・教育鎖国状態に置かれていて、国も学生も研究者も低水準の教育・研究でも仕方なし、としているのです。産業界の「ガラパゴス化」と似た状況にあると言えるでしょう。

それでも私は、色々な弊害はあっても日本の大学の授業料が比較的安いのは良いことだとは思います。また、日本国内の経済事情や教育への国の投資等、色々な要素が重なって出来ている授業料の金額であり、やむを得ない面もあります。結果的に、日本の高等教育界の行っている選択は、レベルは低いが、多くの庶民にも手が届く高等教育、ということですね。但、そうした日本の高等教育の特殊性を多くの国民、いや大学関係者さえ十分に自覚していないように見えるのが気になります。結局、若者も他国の大学という選択肢をしっかり考慮しないまま、手近で比較的安価な日本の大学を選んでいるのです。英語圏諸国や、EU諸国の様に、授業料や言語において、互いの高等教育の垣根が低く、競争にさらされている国々と比べ、大学も島国で孤立しています。

(追記)西欧の大陸諸国の大学については、私は全く無知であるので、比較できません。ただ、未だに授業料が無料の国が多いのは知っています。しかし、これは、大陸諸国の税率が日米は勿論、イギリスに比べてもかなり高く、教育・医療・福祉等を通じ、高負担による高レベルのサービスが実現可能なのでしょう。しかしそれにしても、国民の半数以上が大学に行くような時代には、これらの国においてもかなり無理が生じているのではないでしょうか。講義室や図書館に入りきれない学生、少人数授業が少なく、学期末の試験やレポートで成績の全てが決まる日本式の授業形態などの弊害は、やはり起きているように聞いています。一方、これを補うためにフランスでは、エコール・ノルマルなどの少数エリート養成機関や研究だけを行う主として理系の研究所により、大学の不備を補っているのかも知れませんね。


"The Winter's Tale" (Royal Shakespeare Company in London, 2010.12.22)

BBCのコメディー番組、"QI"における被爆者の扱いについて読むためにこのブログに来られた方は、このページをご覧下さい

また、その後に続くふたつのポストで、抗議のメールを送りたいという方へのご案内もあります。

雰囲気溢れるセットと照明、Greg HIcksの名演
"The Winter's Tale"

Royal Shakespeare Company公演
観劇日:2010.12.22  19:15-22:30
劇場:Round House, London

演出:David Farr
脚本:William Shakespeare
セット:Jon Bausor
照明:Jon Clark
音楽:Keith Clouston
音響:Martin Slavin
振付:Arthur Pita
衣装:Janet Bench
人形:Steve Tiplady


出演:
In Sicilia:
Greg Hicks (Leontes, King of Sicilia)
Sam Troughton* (Polixenes, King of Bohemia)
Kelly Hunter (Hermoine, Queen of Leontes)
David Rubin* (Antigonus, a servant of Leontes)
Noma Dumezweni (Paulina, Wife of Antigonus)
John MacKay (Camillo, a courtier of Leontes)

In Bohemia:
Larrington Walker (Old Shepherd )
Guffudd Gryn (Young Shepherd)
Brian Doherty (Autolycus)
Adam Burton* (Florizel, Polixenes's son)
Samantha Young (Perdita, Leontes's lost daughter)
*印の配役は、当初予定の俳優が病気のため、代役。

☆☆☆☆ / 5

若い時、理性が働かず感情に押し流され、大変大きな失敗をしてそれを長く後悔し続ける。しかし、当人は晩年になって人生の機微を学び、またその人にひどく傷つけられた周囲の人々も、彼/彼女の若気の過ちを許す時がやってくる、いや、そう言う時がやってきて、円熟した幸福の時が訪れて欲しい・・・私の様に老境を迎えようとする者ならは時として思うことではないか。"The Winter's Tale"は1616年に亡くなったシェイクスピアが1610年に書いた劇。この劇の執筆後まもなく彼はロンドンでの活動を止めてストラットフォードに残していた家族と合流し、おそらく静かな晩年を過ごして亡くなる。そうした年代にあった彼の胸中を反映していたと思われるメランコリックな作品だ。

この劇を見た夜も、ずっとお腹の具合が悪くて、そわそわしながら見ていた。それにも関わらず、素晴らしい上演で、大変楽しめた。前半が終わる時の仕掛けには、体調が悪くてうとうとしていた私も本当に目が覚めた。後半の始め、七色のライトに照らされた樹にPerditaが登っているシーンも非常にきれいで、印象に残る。しかしその後、後半のババリアで、前半の終わりから引き継いだセットの残骸をそのまま使ってしまったのは、成功していないと思う。あれを使ってみようというコンセプトの意味は何となく理解出来るが、一旦片付けたほうが良かった気がするが・・・。お祭りのダンスはやり過ぎで、それまで保たれていたロマンチックな雰囲気がぶち壊しになり、いただけない。しかし、それを割り引いても、全体的に、セットや照明が大変充実した、"The Winter's Tale"らしいメランコリックな雰囲気溢れる舞台だった。コンスタントに奏でられる生演奏の音楽も効果的。

俳優の演技の良し悪しを判断する眼力は私には無いのだが、しかし、今回は俳優が3人も病気のために代役だったのは、不運だった。特に、ババリア王はDarrell D'Silvaではなく、先日見た舞台でRomeoを演じていたSam Troughtonに変わっていたのは残念だった。彼では終盤が、若すぎる。Greg Hicksは、ふさぎ込んだり怒ったりしている時の演技が、特に良い。”Lear"のコーディリア同様、Perdita役のSamantha Youngが、不思議な、所謂「天然」の雰囲気があって、私にはとても印象的だった。但、TelegraphのCharles Spencerの評では、彼女の台詞は聞いておられないひどさだとのことだ。Autolycusは魅力的な役柄だが、Brian Dohertyはその割には平凡な印象。Old Shepherdを演じたLarrington Walkerの田舎くささがとても良い。PaulinaのNoma Dumezweni、CamilloのJohn Mackayなど、要所を締める実力ある名脇役ぶり。HermoineのKelly HunterはHicksの相手役として、大変説得力ある感動的な演技を見せてくれた。

代役が多いにも関わらず、RSCのアンサンブルの実力を見せてくれ、またセットや照明、音楽なども素晴らしい一級の舞台だった。


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"Romeo and Juliet" (Royal Shakespeare Company in London, 2010.12.11)

BBCのコメディー番組、"QI"における被爆者の扱いについて読むためにこのブログに来られた方は、このページをご覧下さい

また、その後に続くふたつのポストで、抗議のメールを送りたいという方へのご案内もあります。

この夏のRSCの演目の中で最も好評を得た公演
"Romeo and Juliet"

Royal Shakespeare Company公演
観劇日:2010.12.11  13:15-16:15
劇場:Round House, London

演出:Rupert Goold
脚本:William Shakespeare
セット:Tom Scutt
照明:Howard Harrison
音楽・音響:Adam Cork
振付:Giorgina Lamb
衣装:Rachel Dickson
殺陣:Terry King

出演:
David Carr (Prince of Verona)
James Howard (Paris)
Forbes Masson (Friar Laurence)

David Rubin (Lord Montague)
Simone Saunders (Lady Montague)
Sam Troughton (Romeo)
Oliver Ryan (Benvolio)
Jonjo O'Neill (Mercutio)

Richard Katz (Lord Capulet)
Christine Entwisle (Lady Capulet)
Mariah Gale (Juliet)
Joseph Arkley (Tybolt)
Noma Dumezweni (Nurse)

☆☆☆ / 5 (3.5程度)

劇評や見た方の直接の感想を聞くと、この夏のRSCの公演の中では、最も好評を得た演目のようであり、期待して出かけた。しかし、どうもこの劇は私は面白いと思ったことがほとんど無くて、今回もやや退屈した。比較的オーソドックスな演出だが、演出家はRupert Gooldであり、彼らしい新鮮さは感じられた。

最初の殺陣やその後のアクション・シーンは、火や煙などを使って迫力があり、歴史的なコスチューム劇と、近未来SFのような、たとえば『ブレード・ランナー』的雰囲気を組み合わせ、迫力ある音響と共に、観客の注意を釘付けにする。ほとんどの人が黒い服、黒の背景、そしてRound Houseの黒い壁ーイタリアの都市国家の明るさではなく、まるで『マクベス』のスコットランドや、『ハムレット』のエルシノアのような不吉な幕開けだ。但、主役の2人だけがトレーナー、ジーンズ、バスケット・シューズなどの、現代の若者のカジュアル・ウェア。またふたりは美男美女でない庶民的な風采の若者、台詞もうたいあげないであっさりしていて、他のキャラクターとのコントラストが際立っていた。若い観客には大変身近に感じるかもしれない。しかし、彼ら2人自身は魅力に乏しく、悲劇のヒーロー・ヒロインに見えない。私には、彼らが台詞を言うシーンは退屈で、眠くなった。また、台詞の美しさで聞かせるシーンがほどんどない。むしろ、強い方言などをそのまま使わせて、シェイクスピアの台詞を身近にする(あるいは壊す)ように意図している感じがある(それが悪いと言うわけではないが)。下品なマキューシオと犬みたいなベンボリオのコンビの個性が際だっていて、印象的。キャピュレットは暴力的で、妻や娘に恐れられる家長。全体的に暴力が印象的なプロダクションだ。レディー・キャピュレットが最初に現れた時、妙に生々しい印象を与える。あたかも彼女自身がこれから男を誘惑しかねないような雰囲気。他のプロダクションでのコンベンショナルな母親像とは大変異なっていた。Friar LaurenceとNurseもしっかり個性が出ていて良かった。

最後、恋人達が亡くなった後に親たちやプリンスが現れた時、今度は彼らが現代服を纏っていて、世界が変わってしまったのを感じさせる。まるで、ハムレットが死んだ後にやって来たフォーティンブラスのように。

概して、コスチュームとかアクションとか、ステージ作りが目立った公演だった。

ロミオの俳優、Sam Traughtonは、名優David Traughtonの息子だそうだ。

ちなみに、BillingtonやSpencerは主役の2人の演技を絶賛している。Billingtonはこの夏に聞いたStanley Wellsとの対談でも、この公演をかなり褒めていたが、私は大して楽しめず残念。私の鑑賞眼が鈍いこともあると思うし、またそもそも、こういう若者の恋愛劇に内容として興味が持てないことも一因だろう。

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抗議のメール送信のお礼、及び再度のお願い

(BBCからQIでの山口さんの扱いについて正式の謝罪が出されましたので、私達の抗議の当面の目的は達成されたと思います。従って、これ以上抗議送付のお願いはいたしません。しかし、前後の経緯について調べてみたいと思われる方がおられるかも知れませんので、これらのページは、当面、このままにしておきます。)

前回、前々回のポストで、BBCの番組"QI"において、広島と長崎で2度の被爆をされた山口彊(つとむ)さんを冗談の種にした非礼と無理解について書きました。私の呼びかけに賛同され、抗議のメール等をBBCへお送り下さった方、ご協力ありがとうございました。こういう事は、多くの方がメール送ることで反応が違ってくると思いますので、まだの方で賛同される方は是非お願い致します。なお、前々回のビデオのついたポストを加筆修正し、ビデオの内容について簡単な説明をつけておきました。

また、英語が苦手でメールを送ることが出来ないと言う方がおられるかも知れないので、以下に簡単に要領をご説明します。

苦情の宛先はこちらです。手順をお知らせします。
1 真ん中より左のコラムの大きな青い字"Make a Complaint"の下の、"Email: send your complaint"をクリックすると新しい画面が開きます。
2 プルダウン・メニューの一番下の"Make a complaint" を選びます。
3 Nextをクリックすると新しいプルダウン・メニューが開きます。
4 以降、プルダウン・メニューで、順番にカテゴリー、視聴した場所、チャンネル等を選ぶ様になっています。Television--Outside UK--BBC Twoと選んでいき、Programme Title(番組名)は"QI"、そして放送されたのは2010年12月18日、イギリス式の順番では日本と逆の、18/12/2010です。苦情の種類はOffenseで良いと思います。Summary(要旨)は空欄でも構いません。苦情の本文は、もし英語の大変苦手な方は、例として次のような文を、ある程度単語を変えて書いていただけると幸いです:

As a Japanese citizen, I am deeply offended by this progamme, which used the extreme misfortune of the victim of the two atomic bombs, Mr Tsutomu Yamaguchi,  as a source of joke.

上記の意味は、「私は、原爆被害者の山口つとむさんの大変な不幸を冗談の種にしたこの番組に、日本人として、大変傷つけられました。」

以上、よろしくお願い致します。このことは、詰まるところ、イギリス人やBBCの問題である以上に、私達個々の日本人が、原爆という大量破壊兵器をどう考えるかということだと思います。

(追記)ブログをお休み中のはずが、この件で3回書くことになりました。しかし、一市民としての意見を、こうして色々な人に考えていただく場所があったことは良かったと思います。昨日劇を見に行ったりしておりますので、また改めて観劇の感想などでブログを再開したいと思います。

2010/12/21

QIにおける被爆者の心ない扱いについて(お願いも兼ねて)

(BBCからQIでの山口さんの扱いについて正式の謝罪が出されましたので、私達の抗議の当面の目的は達成されたと思います。従って、これ以上抗議送付のお願いはいたしません。しかし、前後の経緯について調べてみたいと思われる方がおられるかも知れませんので、これらのページは、当面、このままにしておきます。)

昨日のポストの続きですが、人気コメディー番組QIで被爆者を無神経に扱った件について、私はBBCに苦情を送りました。しかし私一人の声ではどうにもなりません。今後の為にも、同様に思われた方がおられたら、BBCに苦情を送りましょう。簡単な英語でも、間違いがあっても、充分です。要は日本人としてこのような被爆者の扱いに非常に傷ついた、ということを一人でも多くの日本人が伝える事だと思います。苦情を送るのはこのページからです。残念ながら、コメントを送る前の手順が、英語を読めないと分からないのですが、コメント本文は簡単でも良いと思います。英語を書くことがほとんどない方は、1,2行でも結構でしょう。"As a Japanese citizen, I am very offended by this programme."というような一言でも、たくさんの人が送れば、担当者が反省するきっかけになると思います。英語を日常使われない方の為に、次のポストで、より詳しい苦情の送り方についても書きました。

BBCでは苦情には返事をくれることになっているので、誰からも読まれないで放って置かれることは無いものと思います。担当者が、そういう見方もあるのか、と考える機会になってほしいと思っています。なお、私はこの他にこのような番組があって、私としては大変問題だと思ったことを、在英日本大使館、朝日新聞、日本被団協に伝えました。

また、私は現在Twitterをやっていないのですが、もしアカウントをお持ちの方で、私と同様に感じられた方は、TwitterでこのビデオのURLを流していただければありがたく存じます。少なくとも、文化相互理解の問題として、多くの方が考える機会になればと思います。

一般論として、イギリスでは王室を始め、どのようなことでもジョークの種にし、笑い飛ばすのが伝統であり、そうした「お笑い」に目くじらを立てるのは野暮なことと見なされると思います。イギリス人にこのことを話せば、「何でも笑い飛ばすのがイギリスのコメディの文化だ」という返答が帰ってくるかも知れません。しかし、どの国や文化にも、笑いの種に出来ないこと、してはならないことはあります。9/11とか、アウシュビッツ、ドレスデンの大爆撃などについて、イギリスのお笑い番組でネタにするでしょうか?あるいは、日本人が7/7のロンドン・テロの被害者とか、アフガニスタンで重傷を負ったイギリス兵の不運な偶然について、お笑い番組で取り上げ、笑い転げたら、イギリス人はどう思うでしょうか。今回の事は、東洋の、非西洋人、しかも通常何の文句も言わない日本人のことであるから、お笑い番組で取り上げることが出来るのだと思います。NHKのバラエティー番組で被爆者を取り上げて笑いの種にしてはならないでしょう。日本で許されないものは、欧米でもちゃんと抗議しないといけないと思います。まして、世界的に影響力のある公共放送のBBCですから。イギリスではこういう事は認められるかどうかが問題ではなく、詰まるところは日本人がこういう事を看過するかどうか、という私達自身の問題でもあると思えます。

2010/12/20

被爆者をコメディー番組で無神経に扱ったBBC

(BBCからQIでの山口さんの扱いについて正式の謝罪が出されましたので、私達の抗議の当面の目的は達成されたと思います。従って、これ以上抗議送付のお願いはいたしません。しかし、前後の経緯について調べてみたいと思われる方がおられるかも知れませんので、これらのページは、当面、このままにしておきます。)


今ブログは休止中のはずだが、これだけは書いておく。


12月18日夜、BBCの大変人気のあるコメディー番組“QI”を見ていたら,広島と長崎の原爆で二重被爆をした山口彊(つとむ)さん取り上げ、笑いの種にするシーンがあって絶句した。You-Tubeに既に載っている。これを載せたのはBBC自身であるから驚く(BBCがyou-tubeに載せた動画は削除されたので、他の方がアップロードして下さったものに差し替えました):






コメディーなので、言葉の上で、冗談の内容を理解するのが難しいが、面白いとしているのは、山口さんが広島と長崎の両方で原爆に遭うという、途方もない、世界一の不幸者(the unluckiest man in the world)であること。更にそのような二重の不運に遭ったにも関わらず生存でき、93歳まで長生きした、つまり非常に幸運な人(!)かもしれないと言っている。また、広島原爆があった直ぐその後に、長崎まで鉄道で行くことが出来たという当時の日本の鉄道の優秀さを自国の情けない鉄道事情に比較して笑ってもいる。従って、特に悪意のある冗談でも、日本人や被爆者を馬鹿にしているわけでもない。しかし、そもそも原爆という非人道的な大量破壊兵器の犠牲者をこのようなコメディーで取り上げること自体、許し難いことだと思う。まるで他の星で起こった出来事を語っているようだ。


山口さんは今年亡くなられたそうだ。Independent紙が詳しい記事を書いている。


この後に書いたポストもこのトピックに関連していますので、是非ご覧下さい。

2010/12/07

BBC FourでRupert Gooldの"Macbeth"放映、その他

今日はBBCの事について3つの話題。

GooldとStuartの"Macbeth"、テレビで放送

Chichester Festival Theatreで大変評判になり、ウェストエンドやブロードウェイでも公演したRupert Goold演出、Patrick Stuart , Kate Fleetwood主演の"Macbeth"が、12月12日日曜日午後7時半よりBBC Four(無料デジタル・チャンネル)で放映される。私は残念ながらアナログ・テレビしかないので、見られないが、近々iPlayerでも見られるものと期待している。当然ながら、これはDVD化されるだろうし、これだけ有名なプロダクションだから、日本語字幕版も出て欲しいものだ。

BBCの発表はこちら

BBCのUView Boxとは?

5日朝のAndrew Marr ShowでBBC会長のMark Thompsonが語ったところでは、来年中頃、BBCはUView Boxと呼ばれる機械を発売するそうだ。これはテレビとBroadband Internetをつなぐ機械のようであり、BBC iPlayerの内容、つまり過去の番組やその他のBBCの持つリソースをテレビでも視聴できるようにする機械らしい。値段は100-200ポンドの間とのこと。

BBC iPlayerが海外でも有料で利用可能?

BBC iPlayerはイギリス国内においてBBCの番組が放送された後、一定の期間パソコンでも視聴できるソフトウェアである。これは国内の視聴者料金を払っている人、例えば私(^_^)、の為のサービスであり、現在のところ海外では利用できない。しかし、Mark Thompsonによると、来年半ばから、海外向けのiPlayer、Global iPlayer、が利用可能になるそうである。最初は、アメリカで始められ、iPad用のバージョンかららしい(Wikipediaによる)。ただし、勿論それには無料というわけにはいかない。例えばドラマの1エピソードのついて最高で10ポンド(約1300円)程度の視聴料金を予定しているようだ。勿論日本語字幕などは付かないだろう。従って、料金設定にもよるが、余程イギリスのドラマやドキュメンタリーが好きな人や、仕事上、イギリスのエンターティンメントや文化情報等を必要とする人々以外には、あまり縁のないものとなるかも知れない。普通のドラマを英語で見るだけであれば、英語版DVDをAmazonなどで取り寄せた方が安く上がるだろう。主に、北米やオセアニアの英語国民向け商品と考えられる。英語版Wikipediaの'BBC iPlayer'の項を見ていただければ、末尾のほうに簡単な説明あり(見出しは、'Overseas Availability')。

放送ビジネスの国際化

Global iPlayerの登場について聞いていて思ったのであるが、長い目で見れば、世界のテレビ局、特に英語圏(そしてスペイン語、フランス語、アラビア語等も)のテレビ局は、これから一層世界全体の視聴者に向けてビジネスをするようになるのではないか。丁度、CNNやBBC、アルジャジーラ等がニュース局として世界中で商売しているような状況が、ドラマやドキュメンタリー、教養番組その他を含むテレビ番組全体で起こってくるのだろうと思える。こういう状況の中、圧倒的に日本語中心の日本のテレビ局は他国のテレビ局と比べ、ビジネスとしては大きな差がつくことになるだろう。丁度、携帯電話市場と同様の「ガラパゴス化」と言える。また、国際語を通じて、広い視野を持てる他の国々の人々と違い、常に翻訳に頼っている日本人の視聴者の多くは、政治や経済、学問、文化面で、今まで以上に国際的な常識から取り残されるだろうという気がしている。

(追記)上記の"Macbeth"は12月12日の放送後、iPlayerで見られるようになっている。


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