2012/04/03

"She Stoops to Conquer" (Olivier, National Theatre, 2012.3.26)

諷刺が効いた18世紀の喜劇
"She Stoope to Conquer"

劇場:Olivier, National Theatre
製作:National Theatre
観劇日・時間:2012.3.26, 19:30-22:00 (1 interval)

脚本:Oliver Goldsmith
演出:Jamie Lloyd
デザイン:Mark Thompson
照明:Neil Austin
音響・音楽:Ben & Max Ringham
衣装:Yvonne Milnes

配役:
Mr Hardcastle: Steve Pemberton
Mrs Hardcastle: Sophie Thompson
Kate Hardcastle, their daughter: Katherine Kelly
Constance Neville: Cush Jumbo
Marlow: Harry Hadden-Paton
Sir Charles Marlow: Timothy Speyer
Hastings: John Heffernan
Landlord / William: Gavin Spokes

☆☆☆☆/5

18世紀の古典的喜劇の珍しい上演。若い売れっ子演出家、Jamie Lloydの演出だが、オーソドックスなコスチュームドラマに仕上げている。観客席からは笑いが絶えなかった。

Mr HardcastleはSir Charles Marlowの親しい友人だが、彼には年頃の娘がいる。一方Sir Charlesにも独身の息子がいた。ふたりは息子と娘を引き合わせ、本人たちの同意があれば結婚させようと一種のお見合いを計画し、Sir Charlesは、息子を田舎にあるHardcastle家に差し向ける。息子のMarlowは、友人のHastingsと共にHardcasle家を訪問する途中に立ち寄った居酒屋で、正体を知らずにMrs Hardcasleの連れ子で放蕩息子のTony Lumpkinに出くわす。いたずら者のTonyは、Hardcastle家の屋敷はまだまだ遠いので今夜行くのは無理、とうそを言って、実際には本当のHardcastle屋敷を、立派な宿屋であると偽って教え、そこに是非一泊してから翌朝Hardcastle家に行くようにとMarlow Juniorに勧める。彼はてっきり宿屋とばかり誤解してHardcastle家を訪れるが、Hardcastle家の人々は、訪問者がMarlowであると知っており、丁重にもてなす。しかし、Mr Hardcastleは、Marlow Juniorのえらく横柄な態度や言葉使いに気を悪くする。Marlow Juniorのほうは、Sir Charlesを宿屋の主人、Kateを自分の見合いの相手ではなく、単なるメードと誤解するが、そのメードに一目ぼれしてしまったから複雑。Marlow Juniorがワーキング・クラスの人々に持つ偏見をHardcastle父娘に露骨に示すあたり、Goldsmithの諷刺の腕が冴える。内気なMarlowは、Miss Hardcastleだと知っていたら、緊張して言葉もでないくらいのはずなのに、相手が田舎宿屋の女中と思い込んでいるから、恥ずかしげもなく露骨に言い寄る。

ロンドンっ子が田舎を訪れたところに笑いが発生するところは、以前、Hytner演出、Simon Russell BealeとFiona Shaw主演でNTでやった"London Assurance"に似ている。

18世紀の雰囲気を十分に伝えるセットとコスチューム。しかし、演技は、デフォルメされ、誇張されたものだ。特にSophie Thompson演じるMrs Hardcastleが素晴らしい。コスチューム・ドラマをデフォルメされた演技でやって笑わせ、年末のパントみたいな感じで、肩の凝らない、誰でも楽しく見られるエンターティメントとなった。

さて、これで渡英期間中に見た劇8本の感想を書き終えた。今回はハズレなし。評判の良いものだけ選んでみるので当然といえば当然だが、それでもロンドンの演劇のレベルの高さにあらためて感心する。一番強い印象を受けたのは"Bingo"かな。私が好む要素が複数あった"Farewell to the Theatre"が同じくらい素晴らしかった。

Ariana Franklin, "The Assassin's Prayer" (Bantam Books, 2010)

中世の女性検屍医アデリアのシリーズ4冊目 
Ariana Franklin, "The Assassin's Prayer"

(Bantam Books, 2010)

☆☆☆ / 5

中世のスカーペッタのような女性検屍医を主人公にしたシリーズ。これは4冊目だそうだ。私はこのシリーズの最初の一冊を読んでいて、ブログにも感想を書いている。鋭い知能と、当時の女性としては並外れた博識を武器に犯罪に立ち向かうところは、修道女フィデルマ・シリーズと似ているが、あちらは法律家、こっちは科学者(医師)である。このAriana Franklinという作家は、良く知られているDiana Normanという歴史小説家の別名だそうだ。

さて今回の作品では、主人公、Adelia Agularは、ヘンリー2世に無理矢理命じられて、王の娘Joannaがシチリアの王Williamに嫁ぐ旅に同行することになる。日本の大名行列と同じく、かなりノンビリしたスピードで、あちこち迂回したり、病人が出て長逗留したりする。更に一行の中から自然に亡くなる人だけでなく、殺害される人まで出て、Adeliaの医学や犯罪捜査、そして検屍の知識も必要とされることになる。また一行の中には、過去にAdeliaが捜査した事件で仲間が死に、Adeliaに八つ当たりの恨みを抱いている者が潜んでいて、”Adeliaの命を付け狙っていることが判明する。

今回の作品では、重要な登場人物として中世の異端、カタリ派の人達が出てくる点が私の興味を引いた。カタリ派については何も知らなかったので、楽しみながらちょっとだけかじった気分になれた。Adeliaと彼の愛人で聖オールバンズの司教Rowleyとの関係も、読んで楽しい。愛人がおり、ハンサムで強く、極めて世俗的で騎士のような司教の存在は、中世西欧らしい。シチリアのノルマン王国が、この頃転機を迎えつつあったというのも勉強になったかな(?)。この王国について、ちゃんとした歴史書を読んでみないと。