2009/10/15

"An Inspector Calls" (2009.10.14 Novello Theatre)


"An Inspector Calls"
観劇日: 2009.10.14 14:30-16:15
劇場: Novello Theatre

☆☆☆/5

演出:Stephen Daldry
脚本:J B Priestley
美術:Ian MacNeil
照明:Rick Fisher
音楽:Stephen Warbeck


出演:
Nicholas Woodeson (Inspector Goole)
Sandra Duncan (Sybil Birling, wife)
David Roper (Arthur Birling, husband)
Marianne Oldham (Sheila Birling, daughter)
Timothy Watson (Gerald Croft, fiancee of Sheila)
Robin Whiting (Eric Birling, son)
Diana Payne-Myers (Edna, a maid of the family)


J P Priestleyのこの戯曲は、半ば現代古典の評価を確立しつつある。高校生の課題図書になるなど、広く読まれ、また繰り返し上演されてきた。日本でも『夜の訪問者』という題名で上演されたそうである。今回のプロダクションは、1992年にNational TheatreでStephen Daldryが上演したプロダクションの再演である。1992年の上演は好評を博し、ウエストエンドにトランスファーしてロングラン。更にブロードウェイにも行ったそうである。私はこのウエストエンドのロングラン中に一度見ている。確か私が始めてイギリスに来た20年くらい前の夏だったと思う。予備知識なく見て、英語が分からない部分もかなりあったが、大いに楽しんだこと、演技や美術のレベルの高さを感じたという想い出が残っている。この劇もひとつのきっかけとなり、イギリスでの観劇が好きになったのだと思う。そう言う意味では、その後の私の人生を変えた劇だ。

ストーリーは、1912年、つまり第一世界大戦直前のイングランドのある夜の数時間に限られる。企業家Birling家では娘Sheilaとその土地の名家の息子Gerald Croftとの間の婚約を祝う内輪のパーティーを行っている。そこに刑事(a police inspector)のGooleが訪ねて来て、色々な質問をする。今夜貧しい若い女性Eva Smithが毒物を飲んで自殺したと刑事は告げる。そしてその女性はかってArthur Birlingの経営する工場の女工だったが、ストライキの指導者の一人であったのでArthurは彼女を解雇していた。それだけではない。話している家に、Birling家の他の者達全員、更にGerald Croftも解雇された後のEva Smithと偶然にも関わり、そして彼女を無惨に見捨てていたことが分かってくる。事実を知らされた彼らの反応は様々。Arthurを始めとして、私には責任はない、普通なら誰でもすることをやっただけ、という者もあれば、娘Sheila Birlingのように強く責任を感じて、自分の生き方を見つめ直そうと思う者もいる。こうしてEva Smithの死へ至る経緯が明らかにされた後、Evaの正体を巡り、思わぬどんでん返しがある・・・。

この劇の主役は、既にしばしば言われているように、Ian MacNeilの素晴らしいセットである。居心地の良い、しかし子供のままごとの家のように狭苦しい家。その家にどう光があてられ、精神的も物理的にもどう変わっていくか、家族の偽りの平和と幸福を象徴しているかが見所である。また、その家を囲んでいるまわりの雰囲気は荒涼としており、Birling家が自分達の幸運に閉じこもり、周囲と調和していないことを示している。また多くの台詞のない群像をしばしば配置することにより、Evaがある一人の女性の悲運だけでなく、彼女の背後にも同様の貧しい庶民が沢山いることを暗示している。

昔この劇で大いに感激した私としては、今回はちょっと拍子抜けした。確かに良くできた劇で、楽しめる。見てない人は是非見て欲しい。しかし、見なおしてみて、非常に図式的に感じた。前回見た時は筋書きも知らず、British Englishに慣れておらず台詞もあまり分からなかったが、今回内容を大体知った上で見ると、物語が小気味よく計算通り進行する良さが感じられる一方で、あまりにも定規で線を引いたような単純さを感じられもした。何度見ても味わいがにじみ出るような劇ではないと思った。

俳優は全員それぞれの役を適切にこなしていたが、特に傑出した印象を受けた人はいない。強いて言えば、Sheilaを演じたMarianne Oldhamは、Sheilaの憎たらしい自己中心的な考えが自省に変わっていく様子を大変上手く演じていたと思う。台詞では、Inspector Gooleはbald and stockyとあったようだ。また、大変威圧的な影響力をBirling家の人々に与えなければいけない役柄である。にもかかわらず、Nicholas Woodesonはミスキャストだと思う。かなり小さな男性で、スーツやコートがだぶついているように見えた。失礼ではあるが、もっと堂々とした体格の人でないとInspector Gooleは演じられない。

ウィークディのウエストエンドのマチネ。しばらく忘れていたが、ひとつ警戒が必要だった。つまり、観客の7,8割は高校生の団体客で、ひそひそしたおしゃべりが絶えることが無かった。また、電話が鳴ったこともあった。違った観客だったら、もっと集中出来て、大分印象が違っていただろう。但、高校生達も、彼らなりの騒々しい反応から見ると、かなり楽しんだようで、この劇の魅力を証明していた。

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