2011/08/19

稲塚監督と大隈記者にお会いしました

8月16日午後、『二重被爆〜語り部山口彊の遺言』のロンドン上映会の前に、日本からはるばる来られた監督の稲塚秀孝さん、及び、朝日新聞長崎支局の大隈崇さんにお会いし、"QI"に関する私の抗議の経緯について、このブログでもご報告した事などをあらためてお話ししました。お二人とも大変誠実はお人柄のようで、熱心さに感銘を受けました。

大隈さんはもともと"QI"の問題がマスコミで話題になったすぐ後にご連絡をいただいて、取材申し込みがあったのですが、東北大震災が起き、それどころではなくなったため、これまで延期されていました。でも、当初の熱意を失わず、今回の上映会を機会に来英されました。日々のニュースに押し流されるであろう新聞の現場で、過去のテーマを忘れずに追い続ける姿勢に感心しました。日本の新聞記事の紙幅は大変短いので、如何にしてその中に言いたい事を含めるか、書きたいことは多いが、大変苦労されるそうです。

稲塚監督については、今回直接お会いするまで、ご自身について何も知らなかったのですが、かってテレビマン・ユニオンに所属されていて、テレビの世界で長い経歴を持っておられます。職業人として、私のような者には想像を絶する大変苦しい経験もしてこられことを、日本放送作家協会のサイトにあったインタビューの記録で知りました。山口さんのドキュメンタリー制作と上映に関する彼の粘り強さも、こうした試練を乗り越えてきた人だからでしょう。主義主張と行動が一致した立派な方とお見受けしました。私はかって大学教員をしていたのですが、研究者には、私自身の自戒も含め、研究内容や言われる事はリベラルでも、学内や学会では自分の研究業績にプラスになることしかしない方は結構おられます。あれで、世の中では著名な学者で通るのか、と思う方もあります(でも、大学者ほど外の仕事で忙しく、また論文等が優れていれば評価されるのは当然ですが)。稲塚監督は、人を大変大事にされる方のようで、そういう華々しいインテリの対極にいるような方とお見受けしました。

稲塚監督は、現在、福島の原発事故周辺の被災者の取材を続けておられます。きっと貴重なドキュメンタリーとして完成されることと思います。それに加えて、"QI"でのあのような山口さんの取り上げ方がどうして起こったのか、追跡しようと思っておられるようです。私は、彼の貴重な時間や、特に独立プロとしての限られた財源を、これ以上あの番組の追跡に割く価値があるのか、疑問に思って、先日監督にもメールでそうお伝えしました。番組の制作者や出演者にとっては、あのエピソードの制作も、我々の苦情の処理も、非常に些細な出来事でしかなかったでしょう。但、BBCとしては、イギリス贔屓な日本人のおかげで、オースティン等の文芸ドラマや"Panorama"のようなドキュメンタリーなどたくさんの番組を輸出し、高額の収入を得ている以上、日本人がBBCへ持つ敬意や好印象を害してはいけないという打算もあって、謝罪したのかと思います。

但、そういう日本人のイギリス文化への偏愛も含め、イギリスという核保有国の広島・長崎への関心/無関心、原爆や原発へのイギリスの国民感情、そして軍事や戦争に関する日本人とは大きく異なる意識は、今後日本の(イギリスは紳士の国!なんて思っている)視聴者にも知らされる必要があると思います。

いずれにせよ、稲塚監督は、山口彊さんの遺言である、海外へのメッセージの広まりを目ざしておられるようですから、"QI"の問題が、彼の今後のお仕事のモーティベーションとなったことは、この事件における不幸中の幸いであったと思いました。今後も彼のなさるお仕事を注目していきたいと思っています。


(8月20日追記)
『二重被爆〜語り部山口彊の遺言』に関連したお知らせ等について書くのも多分これで当分終わりだ。"QI"について報告した時には、もの凄いアクセス数、多数のコメント、コメント以外にもメールなども何通ももらい、びっくりした。私は今回の映画上映について"QI"の時以上に関心を持って考えたり、書いたりした。特に福島原発の大事故が続く中、しかも広島、長崎の原爆投下日、そして敗戦の日と前後した時期に日英で上映会が開かれたのであるから、尚更だった。但、ブログのアクセスは、最近はむしろ減り気味で、コメントもほとんど無く、あまり関心を集めなかったようだ。やはり、広島・長崎の原爆の記憶は薄れているようだ。しかし、私個人にとっては、"QI"のこと、そして福島原発の大事故、更に『二重被爆』2作品のロンドンの上映会を通じ、広島・長崎が、平和を求め続けた戦後日本の原点、日本人のアイデンティティーの欠かすことの出来ない一部だと再認識させられ、私の人生において大変大きな意味を持った半年であった。

2 件のコメント:

  1. 私は気持ちの中には社会派の部分ももっているつもりだけど、今まで何もしてきませんでした。Yoshiさんのおかげで原爆、原発、平和について考えるきっかけをもらい、ありがたいと思います。立教で稲塚監督にお会いしたときにも、監督はこれからもずっとやって行くとおっしゃっていました。すでにもうそう決めておられるように思いました。私も何らかの形で関わることはやめないで行こうと思います。

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  2. おはるさん、コメントをありがとうございます。いつもencouragements、感謝しております。

    もう現役を退いた私と違い、おはるさんは若い方々と社会の話をすることもあるかもしれません。彼らの思考を複眼的にするために頑張って下さい。Yoshi

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