2023/03/23

松田隆美先生の最終講義を聴く。

 3月19日はオンラインで、今年度で慶應義塾大学文学部を退職される松田隆美先生の最終講義を視聴した。残念ながら、私は近年の加齢による聴力低下と頭の働きの衰えによる理解力低下で、充分理解出来たとは言えないが、パワーポイントとハンドアウトの和訳されたテキストのおかげで、大体の流れは追うことが出来た。松田先生の広範にして、高度な研究が1時間ほどの講義時間にぎっしり詰まっていた。

講演の題目は「旅のナラティヴと中世英文学研究」。『カンタベリ物語』、『サー・ガウェインと緑の騎士』、『マージェリー・ケンプの書』、『マンデヴィルの旅』などの旅を扱う中英語作品を取り上げつつ、ラテン文学やイタリア文学を引用して、ヨーロッパ全体の思想や文脈から解説された。実際にでかけた旅と、メタファーとしての旅、魂の巡歴としての旅、書物や地図上の旅(あるいは写本自体の移動)など、創造力の中で様々な方角へ拡大再生産され、飛翔する旅や移動を自由自在に説き起こしておられた。ヨーロッパの文学・思想・歴史などについての松田先生の圧倒的な知識には、お話を聴く度にいつも仰天せざるを得ない。

松田先生の学問の基礎には、若い頃からヨーロッパの諸国語(中世のイタリア語やフランス語、そして特にラテン語と現代西欧諸語)を自由自在に読まれる卓越した語学力、そして、欧米の学会水準で研究・教育を維持される能力と大変な努力があるかと思う。慶應義塾の中世文学研究の伝統を受け継ぎつつ、イングランドでも博士号を取得され、世界的な権威者達と研究交流をされてきた。先生の教え子達も、それを受け継ぎ、皆さん国際的に活躍されている。先生は、講演の中で、現在、中世英語英文学研究のすそ野が縮小し、学会会員数も非常に減少していることを嘆いておられた。これは中世英語英文学だけでなく、人文科学全体に言えるので如何ともしがたいが、そうした環境に抵抗し続けて、優秀な後進を育ててこられた松田先生の努力に敬意を表したい。

私は先生に2,3度ご挨拶したことがある程度で、お話をしたことはほぼないと言える。しかし、松田先生は記憶しておられないかもしれないが、一度だけ学会発表の司会をしていただいたことがある。感謝すると共に、大学者に司会をしていただき、私にとって良い思い出となっている。

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