2011/05/08

"Kingdom of Earth" (The Print Room, 2011.5.7)

ウィリアムズの個性は豊かだが、説得力には疑問
"Kingdom of Earth" (別名"The Seven Descents of Myrtle")

The Print Room公演
観劇日:2011.5.7  15:00-17:00
劇場:The Print Room

演出:Lucy Bailey
脚本:Tennessee Williams
デザイン:Ruth Sutcliffe
照明:Oliver Fenwick
音響・音楽:Tim Adnitt
Dialect coach:Kara Tsiperas, Kay Welsh

出演:
David Sturzaker (Chicken)
Fiona Glascott (Myrtle)
Joseph Drake (Lot)

☆☆☆(2.5程度) / 5

Tennessee Williamsによる滅多に上演されない作品。滅多に上演されないということは、理由があると思った。彼は随分たくさんの劇を書いているのだなと驚く。この劇のプログラムによるとfull-length playsが38、一幕劇が70もあるとのこと。これからも知らない劇を時々見ることになりそうだ。

パンフレットによるとこの作品が陽の目を見るまでには随分の時間がかかったそうだ。Williamsは1940年にこの作品の原型を着想。まず短編小説として1942年に書かれたが、当時としては刺激の強すぎる作品と見なされて、出版されたのはやっと54年になってから。その後、67年に作者が"The Seven Descents of Myrtle"と題して劇化し1968年にブロードウェイで初演されている。Myrtleは登場人物の女性の名前。名詞としては、"myrtle"とは辞書によると、「ギンバイカ(銀梅花):芳香性の常緑低木でVenusの神木;結婚式の花輪に用いる」。

場面設定は、1960年代のミシシッピ・デルタの寂れた農場。洪水の危険が迫っており、ステージでも開演前から常時、天井から水滴が落ち、水の音が絶えない。病身(多分結核)の若い男Lotは、彼が生まれ育った農場に新婚の妻Myrtleを連れて戻ってくる。しかし、その農場には、彼の片親違いの兄弟で有色人種の血が混じるChickenがひとりで孤立した暮らしをしている。マザコンのLotは母と暮らしたこの農場に、母親の思い出が一杯である。弱々しく、病身で、性的に不能(あるいはホモセクシュアル)、更に異性装愛好者 (transvestite) のLotと、男性的でたくましく、暴力的で、獣の臭いがするようなChickenは対照的である。LotはMyrtleの色気を使ってChickenを籠絡した隙に、家の所有証書を破棄して、この家の所有権を手に入れようと画策するが、Chickenの方も警戒してそう簡単には騙されない。それどころか、MyrtleをLotから性的に奪おうとする。2人の間に入って、Myrtleは右往左往させられるが、彼女はどちらかの男に頼ってしか生きる他ない。迫り来る洪水を背景に、3人の間に、性的な熱気と緊張が高まる。

Lotという名前は旧約聖書において悪徳の為に神に滅ぼされたソドムの町から逃れたLotから取っているのだろう。Lotの妻はソドムから逃れる時に後を振り返って身を滅ぼし、塩の柱にされた。

男達に翻弄されるが、自分の体を使って生き抜こうとするMyrtleは、以前はいかがわしいショー・ガールをしており、その経歴を自分でも美化している。しかし、実は売春婦まがいの事もしていた気配がある。『欲望という名の電車』のブランチ・デュボワそのものだ。また、無知で動物的なChickenにはスタンリー・コワルスキーの影が濃い。そしてマザコンで異性とのセックスは出来ず、どこかから逃亡してきたLotは、Williams自身だろうか。

そうした Williamsらしい、南部のゴシックな空気や性的熱気を持つ作品だが、2時間の上演時間、3人の登場人物だけで同じところを堂々めぐりしているような作品なので、いささか退屈した。3人の俳優の懸命の演技と、Williamsらしさが出ていたことで、そこそこ楽しめたという程度。作者の個性は強くても、劇としては平凡な作品と思う。

セットは、黒い土を小山に盛り上げて(本当の土ではないと思うが)、その上と下で農家の上階と階下を示すという変わったものだったが、私から見ると、黒っぽいだけで効果があったとは思えない。資金不足か、アイデアが貧困なのか。迫り来る洪水、そして旧約聖書の物語が重ねられ、黙示録的イメージをねらっているのではないかとは思ったが、照明も抑えてあり、黒く、暗くて見にくいだけ。セットや照明に充分お金がかけられたら、Williamsらしいゴシックな雰囲気や、叙情的なところも出せたのではないかと思うのだがフリンジでは難しいだろう。

私はあまり感心しなかったが、新聞やウェッブの批評ではかなり好評。Guardian, Telegraph, Independent等では4つ星である。私は自分の鑑賞眼にはまったく自信がない。そもそも英語も分かってないところが多いので、私が大事な事を見損なっているのかも知れないから、ウィリアムズ好きの方は、ロンドンにおられればこの劇に出かけるなり、そうでなければ脚本を読むなどして、自分で判断して下さい。

これは他の劇の感想に関しても同じ。但、私自身が楽しめたかどうか、それは何故か、という率直な意見は書くようにしています。私は劇を見る目が鋭いとは言えないので謙虚さは大事。でも面白かった、つまらなかった、だけとか、自分の感覚の押しつけでは読んでくださる方も気分が悪いかもしれない。特に劇場やスタッフ、俳優の方やそうした方々のファンからすると、けなされれば腹が立つでしょう。どんなに失敗した公演でも、公演まで漕ぎつけるにはもの凄い努力があるわけですからね。(ちなみに、イギリス人が私のブログを読むわけもないですが、日本での公演の感想も書いているわけだし、イギリスの俳優のファンの方も検索エンジンなどを通じて読まれるでしょうから。)だから尚更説明が大事。でもブログはそういつも丁寧に時間をかけて書く分けにもいかないし、評論家のように稿料を貰っているわけでもないし(^_^)。なかなか難しいです。

写真はフリンジの劇場、The Print Roomの入り口。地下鉄Notting Hill Gate駅近くの閑静な住宅街にある。

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