2011/05/04

最近の刑事物テレビ・ドラマから("Vera", "Case Sensitive")、その他

ここ1週間くらい、新しいテレビ・ドラマが色々と始まっているが、見たものについて、ちょっと感想を。

"Vera" (ITV)

ITVでは、日曜夜9時のゴールデン時間帯、BBCの主力ドラマと競合するところに持ってきた2時間ドラマが、"Vera"という刑事物。主役は有名な女優Brenda Blethyn。私はこの人を舞台で見ていなくて、記憶にないが、映画の"Atonement"(償い)に出ていたようだ。またマイク・リーの映画にも出ている。場面設定は、イングランド北東に位置するNorthumberland州(中心都市はNewcastle)の田舎。寂寥とした、しかし美しい牧草地や海岸、そして寂れた町並みの光景が素晴らしい。ドラマの内容よりもそちらに引き寄せられたくらいだ。また主役の刑事、Vera Stanhopeを始め、登場人物の北部訛りに地方色が出て心地よい。Veraは、50歳代の刑事だが、もの凄い仕事中毒で、事件のことでいつも頭が一杯(同じITVのRebusの女性版という雰囲気)。それをワトソン役の若い男性刑事Joeが、まるで孝行息子のように心細やかに支えて頑張るところがひとつの魅力。初回のエピソードでは、ジーナ・マッキーが出演。写真は、Blenda Blethyn:


(追記 "Vera"の第2回も見た。主人公のキャラクターも面白いが、景色がきれいでカメラが凝っていて、雰囲気が濃密。景色が主役、と言いたいくらいだった。大いに楽しめた。)

"Case Sensitive" (ITV)

これは単発の前後編からなる刑事ドラマで、5月2-3日に放映され、既に終了。但、ITV Playerで見ることが出来ると思う。主役は、こちらは40歳代の女性刑事DS Charlie Zailer。主演はOlivia Williamsという私は知らない人。地味なキャラクターとして作られている。些細な点だが、ストレートの飾り気のない髪をゴムみたいなもので後ろでくくっているところが、私には妙に印象的。場面設定は分からないが、ロケはBuckinghamshireとのこと。地方色を強調して作られてはいない。犯罪学者なども出て来て、犯罪者の心理分析、そしてアイデンティティー盗難などがドラマのみそだろうか。主人公が最近昇格した女性刑事で、補佐役の腕利き男性刑事DC Simon Waterhouse(演じるのはDarren Boyd)や職場の他の刑事を上手くコントロール出来ずに大変苦しむことなど、男の職場の中での女性刑事に関してよくあるモチーフ。"Vera"では、男達よりもエネルギッシュな、大ベテランの女性刑事にまわりが振り回されててんやわんやという感じだが、こちらはその逆で、まだ管理職としては経験の浅い女性が、男達を操縦するのに大汗をかき泣きそうになる、というドラマ。しかし、"Vera"も"Case Sensitive"も、女性刑事が主人公であることにより、より人間的な柔らかさが加わっている。重要な脇役で、芸達者で毒気のある役がぴったりのRupert Gravesが出ていて、番組を引き締めている。このドラマは今回だけのようだが、パイロットだろうか。シリーズ化してもいい気がする。写真は、Olivia Williams:


この俳優はRSCでの経験も豊かで、現在、West EndのVaudeville TheatreでNeil LaButeの作品"In a Forest Dark and Deep"に出演中。

中高年の、スタイルも良くない女性主人公

"Vera"に主演のBrenda Blethynは、失礼ながら、ややオーバーウェイト気味か。すくなくとも、かっこよさで売る女優でも、年齢でもない。"Case Sensitive"のOlivia Williamsはスタイルは良いが、大変地味な役作りがしてある。日本で女性刑事というと、無茶苦茶若くて格好良く、高下駄のようなハイヒールにデザイナー・スーツ姿という漫画の主人公でなきゃあり得ないようなヒロインも多いが(例えば「アンフェア」の篠原涼子、アメリカの刑事ドラマも似たようなものとの印象)、イギリスの最近のドラマでは、女性刑事はスターではなく普通の警察官という職で働く「社会人」に見える役作りが多い。女性をリアリティーの無いお飾りにしがちな日本のこの手のドラマとの違いが見える。例えば、"Blue Murder”は人気女優のCaroline Quentinを主役にしているが、彼女はお世辞にも格好良いとは言えない:


更に、BBC Oneの昼間の刑事ドラマ、"Missing"の主人公、D S Mary Jane Croftを演じたPauline Quirkeなども同じ:

このドラマは、昼間に放映された低予算番組のようで、実に地味な作りではあったが、脚本が良く出来ていた。何となく斜陽の感がする南部の地方都市(例えばMargateのような)の警察署。そこに勤める行く方不明者捜索係の人々を通し、身近で地道な警察活動や家族問題を描いていて、結構面白い。まさに警察官という地方公務員の話。ペテン師みたいな事に手を染めて警察のごやっかいになる自分の父親やら、部下の若い刑事や職員が職場恋愛で気まずくなって心配したり等、結構くよくよと悩んで、友達にこぼしたりするD S Mary Jane Croftのキャラクター作りも、視聴者の興味をつなぎ止める。再放送された時にiPlayerで見たのがだ、現在は残念ながら見ることは出来ないと思う。なにも太った俳優が良いというわけではないが、日本の刑事物は、ファッション雑誌から切り抜いたマネキンのよな若い女性を刑事にして、あり得ないような活躍をさせるファンタジーばかり。見る気がしない。

BBC Four, "The Killing"

イギリスでは、昨年末(?)から今年にかけてBBC Fourで放映されたデンマークの刑事ドラマ、"The Killing"がちょっとしたブームになり、新聞でも特集記事などが目についた。全部で20回の長編。しかし、その長丁場を、ひとつの少女殺人事件を追う2人の刑事の話で見せるという、普通では考えられない構成になっている。しかし、主人公の刑事達のユニークなキャラクター、事件に関係するコペンハーゲンの政界の込み入った事情、被害者家族のドラマ等々を巧みに組み合わせ、毎回飽きさせずに見せる。英語字幕付きボックスセットが発売されているが、海外ドラマの好きな人で、英語の読める人なら、買って損は無いだろう。私は途中までiPlayerで見たが、放送時からかなり遅れて見始めたので、全部見ないうちに期限切れになってしまい、悔しい思いをしている。しかし、既にかなり見たので、今更ボックスセットを買うのも勿体ないし・・・という気持ち。主人公のSarah Lund(演じるのはSofie Gråbøl)は、ちょっと格好良すぎかも知れないが、食いついたら離れない、何とも凄い刑事。まむしみたいな面構えだ(^_^)。また、いつも上司のルンドに反発する男性刑事のJan Meyer(俳優はSøren Malling)も、強気と弱気が交錯、上司のルンドが示す能力への嫉妬と尊敬、強面の反面で家族への思いがけない気遣いなど、実に人間的で見応えある人物。理性的で強靱な神経を持つLundと、直ぐ感情的になるが根はナイーブな男というMeyerのコンビが、男女の刑事のステレオタイプを壊していて愉快。これだけ面白いドラマだから、待っていれば日本でもどこかのケーブル局などでやるのは確実だろう。原題は、"Forbrydelson"。写真は、"The Killing"におけるSofie Gråbøl。冴えないフィシャーマン・セーターがトレードマーク:


ふてぶてしい面構え、上役や政治家からひどい嫌みを言われても馬耳東風のたくましさ、他人には悩んだり、ほろっとしたりするところを見せない。小さい俳優だが、「強い女」を印象的に演じる。現代女性演じる一種のハードボイルド。

2 件のコメント:

  1. ライオネル2011年5月5日 10:40

    "In a Forest Dark and Deep"のオリビア・ウイリアムズよかったです!うまい人だなって思いました。
    bbcだったと思いますが「ジェイン・オースティンの後悔」というドラマでジェインを演じてましたが、地味だけど、ヨカッタです。
    この刑事物、日本で、放送してほしい!

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  2. ライオネル様、コメントありがとうございます。この劇は、劇評はさえないようですね。テレグラフは確かひとつ星!でも、ウィリアムズは良かったんですね。彼女は、ケンブリッジの英文科を卒業し、Bristol Old Vic Theatre Schoolで演技を勉強。更にRSCのカンパニー・メンバーとして修行を積んでいて、演劇界のエリートですね。私もいつか舞台で見てみたいと思います。

    番組としては、"Vera"、とっても魅力的な主人公を持った面白いドラマです。

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