2016/07/12

ルネサンス劇場、カーテン座の発掘

今年の前半が終わったが、この間、私が一番興奮したニュースは、多分カーテン座(The Curtain)の発掘だろう。この劇場は、シェイクスピアの活躍した時代にロンドンにあった屋根のない大型商業劇場(パブリック・プレイハウス)のひとつ。1577年にオープンし、1624年まで使われており、シェイクスピアの属していた宮内大臣一座も使っているので、シェイクスピア作品も多く上演されたと見られ、『ロミオとジュリエット』や『ヘンリー5世』などは明らかにカーテン座でも上演されたそうである。

この劇場はロンドンの旧市街から北東方向の郊外、ショアディッチにあった。ほとんどの他の劇場同様、城壁の外に建てられ、近くには、最初の演劇専用商業劇場であるシアター座(The Theater、1576-96年)もあった。カーテン座の場所は長らく分からなかったようだが、2012年の6月、ロンドン博物館の考古学部門(MOLA)によりその場所が確定され、それ以来発掘が続いていたようである。私も発掘に関して、このブログで以前にも触れている
 
ルネサンス期ロンドンの劇場の場所、シアター座とカーテン座は地図の右上
(Wikipediaより)


発掘が続いているこの地域は、The Stage という名称の総合的な開発地域で、やがて高級アパート、ショッピング街、そして新しい劇場やカーテン座の展示場を含む商業地域となるらしい。

さて、今回の発掘でもっとも衝撃的だった新事実は、これまでカーテン座もグローブやローズ同様、円筒に近い多角形の劇場と推測されており、それを裏付ける当時の絵もあるのだが、発掘してみると、実は長方形であることが分かったのである。シェイクスピアの時代の劇場のうち、屋根がないタイプの大型野外劇場(「パブリック・プレイハウス」と呼ばれる)には次の様な施設がある。年号は開場した年:

シアター座 (The Theater 1576)多角形/円形
カーテン座 (The Curtain 1577)  長方形
ローズ座 (The Rose 1587 ) 多角形/円形(但、改築した後は長方形に近い)
白鳥座 (The Swan 1595 ) 多角形/円形
グローブ座 (The Globe 1599 ) 多角形/円形
フォーチュン座 (The Fortune 1600 ) 長方形
ホープ座 (The Hope 1614 ) 多角形/円形

これまでは、例外的にフォーチュン座が長方形で、その他は基本的に円筒に近い多角形の建物で、カーテン座もその1つだと思われてきた:
 
当時の絵にあるカーテン座(多角形状の建物)(Wikipediaより)


しかし、今回の発掘により、長方形タイプが複数在ったことが分かり、改築後のローズも入れると、3つとなる。イングランドのルネサンス劇場は、基本的に円形で張り出し舞台、という従来からのパターンでは考えられなくなったように思う。また、カーテン座は元々借家の連なりを劇場に改築した建物で、劇場としての使用を終えた後は、また借家にもどされたようだ。ガーディアンの記事を引用すると、’a conversion of an earlier tenement – essentially a block of flats – and was later converted back into a tenement again’ ということだ。考えようによっては、新しくゼロから建築された劇場は円筒形になり、そうでない建物は宿屋劇場(inn-theatres)を含め、長方形になると言う事だろうか。

発掘では、最高で1.5メートル位のレンガを積んだ劇場の壁が発見されており、また、立ち見の観客がいた平土間(pit)の部分は砂利が敷かれているとのこと。他の発掘物としては、陶磁器で出来ている、上演で使われたかも知れない笛の破片、骨で出来た櫛、鉛の代用コイン(飲み物の引換券かも知れないという)、そして財布の金具などがあるそうだ。

なお、カーテン座の「カーテン」は、現代の劇場で使われるようなカーテンから来ている名前ではなく、劇場のそばを通っていた通りの名前、カーテン通り(Curtain Road)に由来するそうだ。更に、この名前は、中世にあった修道院の外壁(これを ‘curtain wall’ と言う)から取られている。

詳しくは、ガーディアン紙の記事を参照。

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