2013/09/15

"Fishskin Trousers" (Finborough Theatre, 2013.9.7)


中世の伝説と現代を繋ぐモノローグ
"Fishskin Tousers"

Finborough Theatre公演
観劇日:2013.9.7  19:30-20:45
劇場:Finborough Theatre, London

演出:Robert Price
脚本:Elizabeth Kuti
照明:Matt Leventhall
衣装:Felicity Gray

出演:
Jessica Carroll (Mab, a servant in Orford Castle, Suffolk, in 1173)
Brett Brown (Ben, a scientist on Orford Ness, in 1973)
Eva Traynor (Mog, a primary school teacher, at Orford, in 2003)

☆☆☆ / 5

この夏のロンドン滞在中、最後に見た劇。この小さなフリンジの劇場、Finboroughは、私のお気に入りの劇場で、いつもとても興味深い劇をやってくれる。切符の値段も、フル・プライスで15ポンド以下と、大変気軽に見られる。だからその時の演目が自分に合わない劇でも気にならない。今回は、3人の俳優によるモノローグを織り合わせた作品で、英語の理解に大いに難がある私には、かなり理解出来ないところがあったが、それでも楽しめた。

劇全体の土台となっているのはイングランド東部、サフォーク州のオルフォード(Orford)という町を舞台にした中世(12世紀)の伝説。オルフォードの漁師の網にワイルドマン(半獣半人の怪物)がかかった。普通ワイルドマンというと森の住人であるが、このワイルドマンは、海に住む、男性の人魚のようなもの。最初に登場する人物は、12世紀オルフォードに住む召使いの娘Mab。彼女のモノローグで、このワイルドマンが捕まり、オルフォード城の城主の牢に閉じ込められ、拷問にかけられた経緯が語られる。Mabはこの怪物に同情し、密かに彼を連れ出して海へ戻す。

約800年後の1973年、オルフォードの岬(Orford Ness)では、英軍の最先端のレーダーの研究が行われていて、オーストラリア人の若者で、アメリカの大学の研究者であるBenもチームの一員として派遣されていた。彼は大学時代に学生寮のいじめで亡くなった友人を見殺しにしたという深い罪の意識に苦しんでいた。彼はパブの給仕のMabelと知り合って夜の浜辺にデートでかけるが、奇妙な音を絶えず聞く。彼らは舟で海にこぎ出すが、MabelはBenに彼女が通っている学校の美術の授業のために作っている「魚の皮のズボン」(fishskin trousers)を着るように言う。Benは一種のワイルドマンになって海に戻って行くのだろうか・・・。

更にその30年後、小学校の先生のMogは、妻のある男性と関係を持ち、妊娠しており、ひどく悩んで、自殺を考えつつ海辺に出かける。彼女も、海から上ってくる、忘れがたい叫び声を聞く。

3つの時代の3人の若者が、ワイルドマンの伝説によって結びあわさせる。3人の俳優が交互にそれぞれの物語を語り、最初ばらばらに見えた3つの物語が、少しずつ繋がっていく。中世の伝説と現代が幻想的に溶け合う、とても良く出来た劇だ。何も小道具のない裸のステージで、俳優同士の対話もなく、ひたすら言葉の力でじっくりと観客を引き込む。それを支える3人の俳優の演技というか、語りが素晴らしかった。モノローグの劇はあまり好きでは無いが、今回はかなり満足できた。

ちなみに、この劇のベースとなっている伝説は、ネットで調べてみると、12世紀の年代記、"The Chronicles of Ralph of Coggeshall" (1187)に実際に記されているそうだ。ラテン語原典は、Rolls Series, ed., Joseph Stevenson (1875)にあり、また、近々、Harriet Websterによる英訳も付いた新しいエディションが発売されるそうである。オルフォードのワイルドマンについては、こちらが詳しい

Elizabeth Kutiの脚本も発売されている: "Fishskin Trousers" (Nick Hern Books, 2013)。この本には、標題の作品と共に、Kutiによる2本の一幕劇も収録されている。

0 件のコメント:

コメントを投稿