2013/09/09

Ian Rankin, "The Impossible Dead" (2011; Orion Books, 2012) 423 pages


スコットランド独立運動過激派を背景にしたミステリ
Ian Rankin, "The Impossible Dead"
(2011; Orion Books, 2012)  423 pages.

☆☆☆☆ / 5

スコットランドのミステリー作家、Ian Rankinの新しいシリーズ、The Inspector Foxシリーズの第2作目。Rankinはまだまだ若いが(1960年生まれ)最近のインタビューで、これからしばらくお休みを取ると言っているので、このシリーズが今後どうなるか分からないが、既に出た2冊とも読んで見てとても気に入った。今後Rankinが書いてくれるなら、続けて読みたいシリーズになった。

エジンバラ警察で、不祥事などを捜査する部門"Complaints and Conduct"のチーフ、Malcolm Foxは、今回、エジンバラ近隣のFife郡の警察署に勤める3名の刑事の汚職の嫌疑を捜査するために派遣される。この3名は、不祥事を起こした同僚のPaul Carterをかばい、情報を隠しているらしい。この事件の中心にいる刑事Carterは既に逮捕され、公判を待つ間留置されていた。彼を汚職の嫌疑で警察に告発したのは、元刑事でPaul Caterの叔父でもあるAlan Carterであった。FoxがAlanの話を聞いた頃、Paulは突然保釈される。ところが、Paulの保釈のすぐ後で、彼の叔父のAlanは何者かに殺害された。当然、恨みを抱いていると見られる甥のAlanに疑いが及ぶ。しかしそれではあまりにも台本通り、と言う気がしたFoxは、Carterが調べていた80年代のスコットランド独立運動の大物の事故死と何らかの関係があるのではないかと疑い、自分もAlan Carterの調査した後をたどって、過去の記録を洗い、証人達に話を聞き始める。そうすると、スコットランド独立運動の過激な一派に関わった者達の、その後の様々な生き方が明らかになってくる・・・。

事件の捜査中、養護施設に預けてあったFoxの父親が倒れて意識不明になり入院し、彼は忙しい仕事の間を縫って病院に通う。父の看護をめぐって、Foxは、やさしく繊細だが劣等感が強く精神不安定な妹Judeとの関係で苦労する。また、昔、警察の研修会で知り合って一晩を共にした人妻、Evelyn Millsとも再会し、相手が今も好意を抱いていることを知るなど、事件の捜査と並行して、彼のプライベートな生活にも波風が立つ。

2013年の今現在、連合王国ではスコットランドで、Scottish Nationalist Party(スコットランド国民党)が安定した政権を続けており、来年にもスコットランドの独立を国民投票にかけると公約しているが、どうなりますか。

非常に複雑に入り組んだプロットを作り上げ、それが登場人物のキャラクターと深く結びついて展開するのは、Rankinのどの作品にも言える特徴だと思うが、この作品でもその腕は全く鈍っていない。更に、ごく普通の常識人のようでありながら、相当に執念深く相手を追い詰めるMalcolm Foxという人物が大変魅力的。煙草も酒もやらず(彼はかってアル中で、大失敗している)、Millsにも惹かれるが相手の家庭を壊すようなことはしない。同僚のKayeを除いては友だちと呼べる人も無いようだ。真面目な警察官であり勤め人で、周囲の同僚や上司には信頼されているようなんだが、何故か、かなり孤独な男。また新しい作品で出会いたい。このシリーズはまだ日本語では出版されていないようだが(?)、当然翻訳されつつあると思うので、読めるのは時間の問題でしょうね。

Malcolm Foxシリーズ第1作目の"The Complaints"についても感想を書いています。

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