標記のドキュメンタリーの再放送を録画して見た。フランスのRoche Productionが今年作った番組。
イタリア、フランス、オランダ、ハンガリーにおける右翼民族主義政党のめざましい台頭を1時間弱で俯瞰してくれる。ひとつひとつの国の状況については、色々と説明不足の点があると思うが、ヨーロッパ全体に共通する問題として民族主義を捉え、そしてオランダやハンガリーなど、日本ではほとんど報道されない国の様子を教えてくれる番組として、大変貴重で、勉強になった。 先日同じシリーズで見た「左折禁止 社会民主主義は退潮しているか」(ドイツTaglicht Media, 2014)とは別の国の別の放送局の制作だが、ふたつが相互補完的になり、大変興味深かった。
こうした事が起こる大きな背景としては、グローバル化と経済不振による生活レベルの低下や失業者の増大がある。そうしたことへの不満が、分かりやすく身近なスケーブゴートとして、移民とEUへの反発に向かっている。更に中東情勢の不安定さから、反イスラム、反アラブへ結びつく。しかし、一旦他民族他文化排除の誘惑に屈した人々は、容易に反ユダヤ、反ロマなどの伝統的な差別も 受け入れるようになる。日本で言う「反日」の論理だ。番組のナレーターが言っているように、反――と唱えることで結びつく逆説のアイデンティティーがそこにはある。「イスラムではない私達の文化と歴史」というわけだ。だからといって、今のヨーロッパ人、とりわけワーキングクラスの人々が特に熱心なキリスト教徒なわけでも、自国・自民族の歴史や文化に深い知識や関心があるわけでも無い。むしろ教会は(少なくともイギリスでは)ガラガラであり、学校では実利的な科目が幅をきかせて、歴史や文学、芸術は二の次にされている国が多いだろう。それまで多数派で自分のアイデンティティーを深く考えることがなかった人々が、EUという国を超えた組織の成立やグローバル化された経済活動で自信を無くしたり、職を脅かされたりして、古い近代的民族国家の枠組に守って貰いたいと思っているようだ。
一方で、伝統的なリベラルで高学歴のミドルクラスの人々も、教育が行き届いてその数が増え、数少ないエリートでは無くなったことや、アジアを含めたグローバル競争の中で、仕事の取り合いになり、生活も苦しく、「ホワイトカラー・ワーキングクラス」という状況に陥っている。従来は、リベラル・ミドル・クラスは、東西の国々で、左翼政党の理論的支柱であり、根強い支持基盤であった。例えば、イギリス労働党の成立にはフェビアン協会が大きな役割を果たしている。しかし今、ホワイトカラー労働者の多くは組合組織の乏しいサービス業に属してミドルクラスから転落しており、ワーキングクラスと共に左翼運動や社会民主主義を支えるという物質的、精神的ゆとりがなくなっている。彼らは急速に左翼を離れ、経済第一主義で大企業の影響下にある政党(イギリスの保守党のような。日本では自民党)や民族主義政党を支持するようになった。
危険なのは、こういう民族主義政党の台頭に影響されて、政権を取っている保守系政党までが政策を変えたり、保守と民族主義の政党が連立したりすること。
興味深く、また恐ろしくもあるのは、民族主義政党は世界で同時に台頭するということ。今のEU諸国や日本もそうだが、第2次大戦前もまさにそうだった。各国で剥き出しの民族主義が敵を求めて徘徊し始めると、戦争の危険が増大する。怖い。
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