2016/02/10

【テレビ番組】NHK ETV、ハートネットTV 「待ちわびて—袴田巌死刑囚 姉と生きる今—」

ハートネットTV「待ちわびて—袴田巌死刑囚 姉と生きる今—」 2016年2月9日午後8時放送

最近もETVの福祉番組「ハートネットTV」で、良い企画が続いている。2月9日は、死刑囚だが、2014年3月に刑の執行と拘禁が停止されて、釈放された袴田巌(はかまだ いわお)さんのドキュメントだった。30分の番組だし、福祉の番組であるから、冤罪が生まれた経緯などは触れられず、袴田さんが50年近い死刑囚としての拘禁生活の中で、如何に精神をむしばまれてしまったか、今、どうされているか、を淡々と映していた。

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彼は、いつやって来るともしれぬ死刑におののきながら生きていたが、拘禁生活が20年以上経った頃から、妄想に襲われるようになり、現在に至るまで、支離滅裂な、常識では判断できない言葉を放ちつつ生きておられる。釈放の後、3ヶ月ほど精神病院に入院されたが、その後は自宅で暮らしている。穏やかな人で、お姉さんの暖かい愛情に包まれた、静かな毎日を過ごされているようだ。時々、勝手に出かけて、いつ帰ってくるか分からないところは認知症の人みたいでもあるが、必ず、お姉さんの待つ家に帰ってくる。饅頭や菓子パンが好きらしく、一万円札出して、菓子パンを一度に20個くらい買っているシーンが出てきて、微笑ましかった。そういうことなど、お姉さんは刑務所に入っていた間に出来なかったことを、なるべく彼の思うようにやらせたいと言われている。

このお姉さんが凄い。彼の事を思いつつ亡くなられた母親に代わって、自分が弟の母となって、独身を貫きつつ、彼の冤罪を晴らすために一生を費やし、今は、彼の病んだ心が徐々に快復していくのを待ち続けている。実の母親でもなかなか持てない深い愛情と、強い精神の持ち主である。

それにしても、袴田さんは釈放後も依然として死刑囚である。それは、検察が静岡地裁の判断に不服を唱えて、すぐに即時抗告を行ったからだ。つまり、袴田さんは、理論的には、再度収監され、死刑が執行される可能性させ残されているわけだ。但し、あの高齢で、しかも検察側の論拠は今やずたずたの有様らしいから、まずそういうことは起こらないだろうけれど。検察官達は本当に今でも袴田巌さんが有罪と思っているのだろうか?裁判とは真実を明るみに出して、罪を犯したことが疑いようのない人には罪を償わせ、そうでない人は釈放するべき仕組みであるはず。英語で言うと、"beyond reasonable doubt" ということになるはずだ。ところが、日本の司法では、一旦判断が下されると、検察も裁判所も決して過ちを認めないことが多いように見える。真実が問題ではなく、組織の権威の維持や裁判の勝ち負けを優先しているように見える。その発想は、今になっても、封建時代の「お上」による評定所のようだ。むしろ、捜査や起訴段階での間違いや不十分さを良く検証し、その結果を公開して、今後このようなことが起こらないよう社会の一員として考え努力することこそ、すぐれた組織のすべきことではないだろうか。自浄作用のある組織であると証明することが、市民の尊敬と信頼を生むと思うのだが。

私は近年、中世イングランドの裁判を勉強していて、それが、欠点だらけではあるが、如何に長い歴史と人々の経験の積み重ねから出来た制度か段々分かってきた。イングランドの裁判制度は、基本的に、市民が集まり知恵を出し合って判断するという民主主義の制度の一環として存在し、そのため、陪審員が最も重要な役割を担う。裁判長は法的にわかりにくい点を説明することはあっても、基本的な役割は裁判の司会役にしか過ぎない(その点で、日本の裁判員制度とは大きく異なる)。有罪、無罪を決めるのは別室で相談する市民達である。一方、日本では、長らく市民から遠いところで、職業裁判官、検察官、警察官などの専門家のみによって、犯罪者がベルトコンベヤー式に処理されてきたと言える。日本もやっと裁判員制度が出来て、少しは風通しが良くなることを願いたい。

この番組は、2月16日午後1時5分より再放送があります。

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