2010/01/17

Susan Hill, "The Vows of Silence" (2008; Vintage, 2009)



刑事Simon Serraillerシリーズ、第4作
Susan Hill, "The Vows of Silence" (2008; Vintage, 2009) 328 pages

☆☆ /5 (又は、2つ半くらい?)


Susan Hillの刑事Simon Serraillerシリーズも4作目になり、固定客もかなりいることだろう。古典的な推理小説ではなく、犯罪を素材にして、サスペンスを盛り上げつつ、人間の心理を掘り下げるのを主眼とした作風がこのシリーズの特徴。一般小説で既に多くの秀作を発表してきたHillの手慣れた人間描写の技が冴えるシリーズ。

今回、Serraillerが住む町、Laffertonは連続狙撃殺人事件に見舞われる。新婚の女性Melanie Drewの銃撃を皮切りに、特に脈絡のないように見える殺人が静かな地方都市で4件も続き、町はパニック状態になる。Serraillerと彼のチームには何ら手がかりがつかめないまま事件は進行し、彼らの焦燥感は募る。更に、Laffertonでは多数の人が集まり、王家の来賓もある大きな行事が迫っており、そこでまた恐ろしい狙撃事件が起こるのではないか、との不安が高まる。

Serrailler個人や彼の一家をめぐるサブプロットもこのシリーズの魅力のひとつ。今回は特に、彼が大変親しくしている姉のCat Deerbon(Catherine)の夫で医師のChrisが癌に冒され、その闘病が事細かに描かれる。また、異性のパートナーを求めつつも、なかなか自分と気持ちの合う人を捜せないSerraillerが、以前つき合いかけていた女性の司祭Jane Fitzroyについても、ある程度の紙幅が割かれる。前作まで、彼ととても気のあっていた部下が出世してヨークシャーに転勤し、その後に来たGraham Whitesideという巡査部長がとんでもない、無礼で愚鈍な男で、Serraillerを悩ませる。狙撃犯自身や彼の犠牲になった人々についてもある程度、バックグラウンドや心理状態の描写がある。更に、Serraillerや彼の姉の一家や狙撃犯ともほとんど関係のない、未亡人のHelenの恋愛、彼女の息子でキリスト教原理主義に夢中になっているTomのエピソードもある(これが何故必要だったのか、分からない)。

という具合に書いていて分かるのだが、これは色々な内容を詰め込みすぎではないだろうか。私は今回この作品に充分感情移入出来なかったが、それは、ある人間やひとつの事件について読者としてコミットする間が与えられる前に次のエピソードに移ってしまい、消化不良になりがちだと感じたから。その中では、Chrisの闘病は、かなり感動的なエピソードではあり、それだけでも読む価値はあった。しかし、その他のエピソードは数を絞り込むか、あるいは小説全体を更に長くして、より詳しく書いたほうが良かったかも知れない。また、Janeのことなど、Serraillerのパートナーに関しては、このシリーズを始めて読む読者には前後の脈絡が分かりにくく、いささか不親切。

Hillは初期の作品以来、人間の孤独、人と人のコミュニケーションの難しさを描くことに秀でている。癌に冒されたChrisと彼を何とか慰めようとするCat、心を通じ合える人を捜しつつも、どうしても見つけられないでいるSerraillerなどの描写に、Hillのそうした才能が光る。そうしたHillの作風には惹かれるので、今回はかなり失望した時もあったが、今後もこのシリーズを読み続けたいと思った。



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