アフガニスタンでアメリカがしてきたこと
"Blood and Gifts"
National Theatre公演
観劇日:2010.11.13 14:15-17:00
劇場:Lyttleton, National Theatre
演出:Haward Davis
脚本:J T Rogers
セット:Ults
照明:Paul Anderson
音響:Paul Arditti
音楽:Marc Teitler
出演:
Lloyd Owen (James Warnock, a CIA operative)
Matthew Marsh (Dmitri Gromov, a Soviet operative)
Adam James (Simon Craig, an MI6 operative)
Demosthenes Chrysan (Abudullah Khan, an Afgan warlord)
Philip Arditti (Saeed, a subordinate of Khan)
Gerald Kyd (Colonel Afride, a Pakistani colonel)
Duncan Bell (Jefferson Birch, an American Senator)
☆☆☆☆ / 5
アメリカの劇作家J T Rogersが、昨年、ロンドンのTricycle Theatreで上演され、好評だった新作劇に加筆して、ナショナルとリンカーン・センター(ニューヨーク)で上演されることになったそうである。1981年から10年間のソビエト軍が侵略した時代のアフガニスタンにおけるCIA、そしてアメリカの果たした役割について描いている。アフガニスタンの戦争が終わっていない今、こういう難しいテーマを、イギリスの左翼劇作家が書いたのならともかく、アメリカ人が正面から批判的に取り上げただけでも、非常に素晴らしいことだ。演出はHoward Davis、演技人も素晴らしく、充実した台詞劇として、演出と演技は申し分ない。ただ、台本の内容は現在のアフガニスタンの戦争に繋がるだけに、ちょっとひっかかるところがある。しかし、日本人も含め世界中の市民ひとりひとりにとって重要な問題を真面目に考えさせてくれるこの作品は、大変価値のある試みであり、色々な劇団にやって欲しい。
主人公のJim WarnockはCIAの現地責任者で、パキスタンとアフガニスタンに駐留して、パキスタン軍の司令官Colonel Afride、そして、アフガニスタンの反ソビエト・ゲリラ(ムジャヒディーンと呼ばれていた)の指導者のひとりAbdullah Khanと交渉し、ソ連軍をアフガニスタンから追い出すことに奔走する。彼の活動がひとつの山場に達するのは、スティンガー・ミサイルをゲリラ軍に供与することをアメリカの政治家に説得する時だ。
パキスタンの軍人も、現地のアフガニスタン人ゲリラの頭も、一筋縄ではいかない。それぞれ計算高く、自分達の都合の良いようにアメリカの武器援助を利用しようとする。CIAの一員である主人公にとっては、最終目的はソビエト軍を追い出し、この地域に"freedom"をもたらすことであり、それに私生活を犠牲にして情熱を注いで休むことがない。色々なプレイヤーの打算がぶつかり合う中で、結局ソ連軍を追い出すという目的は達せられた。CIAもソ連軍も去っていったが、アフガニスタンには平和が訪れることはなく、ゲリラのAbdullah Khanと彼の部下達は、かっての敵と結び、イスラム武闘派となって、新たな戦いに明け暮れる結末。つまり、ソ連とアメリカがかき回した後には、9/11の前のアフガニスタンが残ったわけである。
致命的な問題点があると思われる劇だが、しかし、1つの点だけは素晴らしい。それは、現在のアフガニスタン戦争は、80年代のCIAの介入の延長であり、アフガニスタンをタリバンなどの過激なイスラム化に追いやり、更にアラブの多くの外人部隊が入るきっかけを作り、アルカイダ、そして9/11のテロの土壌を作ってしまったのも、アフガンのゲリラにソビエトと代理戦争をさせたアメリカのアフガン政策の過去がかなりの原因になっていると言うことが、この劇を見てよく分かった。
その一方で、明らかに気になることもある。主人公のCIAの現地チーフWarnockは、あまりにも立派な男に描かれ過ぎている。地域に"freedom"をもたらすという理想を追って頑張ったヒーローみたいにも見えるが、多くのアフガニスタン人からすると、ありがた迷惑、とんでもないことだろう。彼の理想はアメリカの価値観の押しつけだったかもしれない、と劇は指摘しているのは分かる。しかし一方で、Warnockは彼の理想を信じて良心的に頑張った、と肯定的であり、インディアナ・ジョーンズ的な、未開の国で頑張るアメリカン・ヒローの臭いもする。また、アフガニスタン人ゲリラのキャラクターは、アメリカン・ポップスに夢中だったりとコミカルに描かれていたり、ステレオタイプであったりして、血肉が通っていない。あくまでアメリカ人の目から見た現地ゲリラ。私もアフガニスタンについて知っているわけではないけれども、アフガニスタン人の事をよく調べていない、現地でのリサーチが足りない、という感触を持った。全体としては、外国を描いたハリウッド映画等と同じで、良心的ではあっても、現地の人々に寄り添い、欧米の尺度をはみ出した描き方はされていない。あくまでもアメリカのリベラルな作家の視点から自国の果たした役割を検証した劇であり、アフガニスタンの人々の視点が十分には入っていないと感じた。無いものねだりのような気もするが・・・。
既に書いたように、演技人は素晴らしかった。主役のLloyd Owenに加え、イギリス人の諜報部員(MI6)のSimon Craigを演じたAdam Jamesの熱演が大変印象的。老獪なソ連の諜報部員Dmitri Gromovを演じたMatthew Marshも深みある演技。
キャラクターの掘り下げ方が足りない点、アフガニスタン人の視点が弱い点などが気になった台本だが、難しい素材に取り組んだ貴重な現代劇であることに変わりなく、また演技や演出の力量は圧倒的だった。テキスト重視のストレート・プレイをやらせたら、Howard Davisを超える演出家はなかなかいない。
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