2013/10/16

ナショナル・シアターの新芸術監督は Rufus Norris



昨日10月15日朝に記者会見があり、National Theatreの新しい芸術監督がRufus Norrisと発表された。着任は2015年4月。既にNTのassociate directorとして活躍している人で、Guardian紙の下馬評でも第一に上がっていた。私は残念ながら彼の演出作品を見たことがないが、イギリスの演劇人の間では非常に良い人選と評価されているようで、Whatsonstage.comのMichael Coveneyなども好意的に受け止めている。彼は俳優の出身。名門演劇学校のRADAを出ているが、多くの著名な演劇人と違い、オックスブリッジ出身ではない。ちなみに、これまでのNTの芸術監督はOlivierを除いて、皆、ケンブリッジ出身らしい。

最近、彼が監督した公演作品としては、NTで"London Road" (2011)や"Amen Corner" (2013)。2004年にAlmeidaで監督したDavid Eldridge作の"Festen"で特に大きな注目を集めたようだ。彼の奥様はTanya Ronderという劇作家で(写真で一緒に写っている方)、Norrisは彼女と幾つか一緒に仕事をしている。

Norrisはミュージカル("Cabaret" 2012)やオペラ("Doctor Dee" 2011)も監督しており、多彩な監督だ。

映画も2本監督しているそうで、カンヌでも上演された"Broken" (2012)は、The Best British Independent Filmという賞を取っている。

舞台の監督としての経歴を見ると、現代劇、新作、海外の劇などが主で、シェイクスピアなどの英国ルネッサンスの古典やカワード、プリーストリー等、イギリスの現代古典などがほとんど見当たらないように見える。シェイクスピアは2002年の修業時代に小さな劇場で"Tempest"をやったことがあるだけのようである(注)。Hytnerはそのレパートリーの広さが素晴らしく、ルネッサンスからビクトリア朝、そして現代劇、新作まで幅広く演出し、しかもほとんどの公演は成功をおさめた。NorrisはNTの芸術監督になるので、自分で何でもこなす必要はないが、NT全体としては、Hytner時代同様、色々な時代とジャンルに挑戦し、新しい演出手法や古典の読み直し、埋もれた作品の掘り起こしなどに挑戦し続けることが期待される。

Norrisの経歴、特に作品については、このサイトが特に詳しい(彼のエージェントのサイト)。

英語版Wikipediaでも項目が設けられているが、なんと昨日の発表後直ぐに、彼の芸術監督就任が書き込まれていたのには驚いた。

なお、Hytnerの退任と同時に、事務方のトップでHytnerを支えてきたExective DirectorのNick Starrも退任する。National Theatreにとっては、こちらの後任人事がどうなるかも、芸術監督同様に重要であるに違いない。HytnerとStarrは、Michael Grandageのように、おそらくWest Endに本拠地を置く劇団を主宰すると見られている。

(注)GuardianのMichael Billington曰わく、NorrisのCVから見る特徴は"the catholicity of taste"だという。この"catholicity"とは、おそらくuniversality、つまり幅広さを示しているのだろう。確かに彼はかなり広いジャンルの作品を監督してきたようだ。しかしそのBillingtonもNorrisのCVにはShakespeareが欠けているとも書いている。それ以外のイギリス演劇の古典も見当たらないようだ。

2 件のコメント:

  1. このニュースを見て、ちょっと不安になりました。
    彼の舞台を見たことがないので。
    「ロンドンロード」は評判もよく、再演されていたようですが・・・・・
    私の好みではないような気もするし。
    どんな、演目を上演するんでようね。

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  2. コメントありがとうございます。丁度パソコンの前に座っていました。

    私は彼の作品を見ていないので良く分かりませんが、Norrisは伝統的な演出家ではなく、かなり革新的な方のようです。ガーディアンのビリントンによる紹介記事では、adventurous choice(冒険的な選択)という見出しがついているように、新しい事をやってくれそうです。でも、NTはそういう事を(も)期待されている、謂わばイギリス演劇界の革新を指導する牽引車なんでしょう。私は彼が古典の演出の実績に乏しいのが気になります。でも色々なAssociate directorsに囲まれて運営するわけですし、彼1人で何でも演出するわけではないですから。

    ビジネス面でHytnerとStarrの時代は大成功したのですが、イギリス演劇界全体としては補助金が減って大変苦しいので、Norrisにとっての大事な使命は、現在の良好な財政を維持して、教育プログラムやお金にならない公演、チケット代のディスカウントなどを続けることができるようにすることでしょう。その為には、War Horseのような商業的に成功する作品の発見とか、企業スポンサーの維持と開拓などでも手腕が問われると思います。

    Hytnerはオリヴィエに肩を並べる成功をした芸術監督と言われているので、その後にくる人は誰でも大変ですね。

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