若いレズビアン達の愛と性をめぐるBBCドラマ
Lip Service series one (BBC Three)
脚本:Harriet Braun
出演:
Ruta Gedmintas (Frankie)
Laura Fraser (Cat)
Fiona Button (Tess)
James Antony Pearson (Ed)
Emun Elliot (Jay)
Heather Peace (Sam)
Roxanne McKee (Lou)
前項で「アデル、ブルーは熱い色」の感想を書いたついでに、以前に見たBBC Threeのレスビアンを扱ったドラマ、”Lip Service” (series one)の感想も掲載しておくこ。なお、シリーズ1の後、シリーズ2も放映され(私は見てない)、両シリーズを収録したDVDがAmazon.co.jpで安価で売られている(但、リージョン・コードは日本仕様ではないので注意)。
2010年の秋から冬にかけてBBC Threeで放映されたドラマ。レズビアンの恋愛や性を扱っている点でやや珍しい。男性のゲイの人に関する映像としては"Brokeback Mountains"のような著名な、各賞を総なめにした映像作品もあり(私は見てない)、かなり一般的になってきたという印象だが、レズビアンの人達についての、特に誰でも家庭で見られるテレビドラマというと、かなり少ないだろう。アメリカのドラマでは、「Lの世界」というシリーズが有名らしい。日本でもケーブル・チャンネルで放送されていたようだ。
さて、"Lip Service"であるが、レズビアン・ドラマという前提で一部の人々(レズビアンの視聴者)が楽しむというだけではなく、ヘテロ・セクシュアルの男女でも、誰が見てもかなり面白いドラマだと思う。マイノリティーとしてのレズビアンに対する差別や偏見を告発する社会派ドラマでもない(そういう問題を感じさせる場面はわずかしか出てこない)。女と女、そしてたまに女(バイ・セクシュアル)と男の恋愛やセックス、また、彼女たちの仕事や生い立ちに関する悩みや喜びを扱った、20歳代の女性の生き方を描いたドラマだ。日本で言えば、OLの人達を主人公にした、ちょっとファッショナブルな、洒落たドラマ、というところ。但、主人公達がレズビアンで、またセックス・シーンがテレビ番組としてはかなり強烈な点が異なる。これはBBC Threeというデジタル・チャンネルで、遅い時間帯に放映されたドラマなので、大人だけの視聴を前提としている(DVDは18歳以上指定となっている)。
私が感心したのは、脚本家が、主要なキャラクターを実にはっきり、そして魅力的に作っていて、役者がそれに良く応えて演技できていること。もっとも重要な役の写真家のFrankieは、生い立ちに悩んでおり、家族とは絶縁状態。短気、不安定、そして衝動的な性格だが、芸術家肌。自分の苦しみを、相手を選ばないセックスにぶつけて、心の底では深く愛しているCatとの関係を壊してしまうが、彼女自身がCatなしには生きられない。そのFrankieの恋人で、しっかりした仕事を持つ建築家のCatは、堅実な性格で、少し年長(多分30代)の、(失礼ながら)お顔のしわや厚い白粉が目立ち始めた女性。Frankieに未練はあるが彼女の自己破壊的な性質や行いについて行けず、段々、頼りがいのある警察官のSam(女性)に惹かれていく。もうひとりの主人公Tessは貧乏な役者の玉子。笑えるへまを繰り返す、番組における道化的な存在だ。しかし、愛すべき性格で友人にも男性にも大いに好かれるが、自分は安定したrelationshipが作れず、悩みに悩む。俳優志望であるから、オーディションを受け続けるが、まともな仕事はなかなか見つからず、着ぐるみをつけてアルバイトをするなどお財布も自転車操業で苦しんでいる。
脇役も生き生きと描かれている。女運が悪いレズビアンのTessを密かに、しかし、ひたむきに愛し続ける優しい作家志望の男Ed。その不器用さや体型が、ちょっと"Rev"のTom Hollanderを思い出させるタイプ。TessとEdは、ふたりともとても不器用で、芸術家志望で、なかなか上手く考えられたコンビ。もちろんTessはレズビアンなので、Edにとっては切ないかなわぬ恋である。Catの務める建築事務所での同僚Jayはヘテロ・セクシュアルの男性だが、この3人のレズビアンの、享楽的な遊び友達。でもそろそろ年貢の納め時と思い、フィアンセがいて結婚の準備をしている。しかしプレイポーイの性癖が抜けず、性懲りも無くガールハントを繰り返して、フィアンセを不安にさせる。前述のSamは、Frankieとのつき合いで傷ついているCatの前に現れた刑事。Detective Sergeantと言う、平刑事ではなく管理職にある堂々とした貫禄のキャリア・ウーマンで、ベッドのなかでも、Catには最高の人。Tessと一時関係を結んだLouは、Tessを有頂天にした美人で、地元のテレビのニュース番組のアンカー・ウーマン。Tessを愛してはいたが、しかし地域のセレブリティーとしては、レズビアンであることを知られるわけには絶対いかない。また、職場で権力を持つ男性の同僚から好かれ、その好意を断り切れず、関係を持って利用しようとする。と言うわけでTessにとっては薄情な恋人なのだが、Louの目から見ると、男性社会の中で女性としてキャリアを築くだけでも難しいのに、レズビアンだと知られたら大変なのだ。
セックス・シーンはかなり多く、それを見たくないという人には不向き。でも考えてみると、ヘテロ・セクシュアルのセックス・シーンは日本のドラマでさえ、結構出てくるわけだし、性を真面目に扱ったドラマや映画も沢山ある。ところがホモ・セクシュアルの人、特にレズビアンの性を描いた映像は少なく、映画では幾らかあるにしても、テレビ・ドラマではほとんど皆無だ。同性愛者差別とか、啓蒙的な視点とかではなく、普通の恋愛、仕事、セックスなどを描く若者ドラマであり、レズビアンの視聴者が身近なものとして見られるこのドラマは貴重だと思える。きっと20歳以下の、日本人のレズビアンの人が見たら、こんなに自然にレズビアンとして悩み、愛し、仕事をし、つまり普通にレズビアンとして生きる女性を見て、安心したり、自信を感じたり、幸せな気持ちになるんじゃないだろうか。但、私としては、このドラマを「レズビアン・ドラマ」としてあまり強調したくはない。とにかく、魅力的なキャラクターを散りばめ、上手い役者達に支えられた楽しいドラマだから、誰にでも見て欲しいし、出来れば日本語字幕版も出ると良いが、まずあり得ないだろうなあ。
もうひとつの魅力は、このドラマの持つ雰囲気だ。多くの念入りに作られたイギリスのドラマに見られるように、カメラが大変工夫されていて、きれいな映像だ。背景の音楽も大変洒落ている。出てくる人も、建築家、俳優、写真家、テレビ局のプレゼンター、作家の玉子等々、クリエーティブな仕事の人達が多く、女性達の衣服もよく考えられており、全体として、非常にファッショナブルな雰囲気の仕上がり。逆に言うと、そういう風にスタイリッシュに作り過ぎていてリアリティーに欠ける気もするが、まあその雰囲気を楽しめるのもテレビドラマとしては重要な要素かな。
個人的にはこのドラマがグラスゴーを舞台にしている点が特に気に入った。スコットランドの黒っぽい町並みと、女性達の服装がマッチしてスタイリッシュだし、エジンバラだけでなく、グラスゴーのような伝統的な工業都市にもこういうボヘミアンの世界があるんだ、と知ることも出来た。言葉は、CatとJayを演じている2人の俳優はスコットランド出身者で、はっきりしたアクセントがあるが、全体としては、アクセントのためにそれ程分かりづらいということはない。むしろこの2人のアクセントが、地方色をかもし出して良い雰囲気だ。
さて、良いことばかり書いてしまったようだが、6エピソード全部として見ると、長すぎて退屈する時もあり、3人の主人公を扱っているので焦点が定まらない。もっと焦点を絞り3,4回でまとめたほうがインパクトがあるドラマになった気はする。ファッショナブルで人工的な雰囲気は、既に述べたようにリアリティーに欠けると言う面も持つ。同時期に放送されていた、David Tennant主演の"Single Father"の方が、私から見るとかなりレベルが高い。しかし、あまりシリアスに考えず、ヘテロ・セクシュアルであろうとレズビアンであろうと、娯楽作品としてのガールズ・ドラマとして楽しめるシリーズ。
グラスゴーという、もともと工場労働者の多い地方都市で、レズビアンの人達がデートをし、街角で抱き合ったりキスをしたりするシーンがドラマになってイギリスのNHKにあたる公共放送BBCで放映されるーー日本のレズビアンの人にしてみたら何と自由でうらやましい世界と思えることだろう。但、イギリスは日本よりもはるかに暴力的な事件も多い国なので、同性愛者に対する露骨な差別や街頭での暴力も多く、死者も出ていることも忘れてはならない。
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