2014/05/27

BBCドラマ“The Street” とティモシー・スポール

2006-2009年に放送されたBBCのドラマ・シリーズ"The Street"のボックスセットを昨年夏ロンドンで買ってきて、最近少しずつ見ている。第3シリーズまで、全部で18話あり、今は第2シリーズの2話(通しで言うと第8話)まで見終えた。全体を構想し監修しているのはJimmy McGovern。『心理探偵フィッツ』や"The Accused"(告発された人々)などの名脚本家。傑作との評判は聞いていたが、このドラマシリーズ、最高!下手な映画よりもずっと面白い。ワーキングクラスや、ミドルクラスでも慎ましい方(サービス業など)の普通のイギリス人の暮らし、悩み、葛藤が、センチメンタルにならずに、しかし実に暖かくヒューマンなタッチで描かれている。こんなシチュエーション、ありえない!と思えるようなエピソードもあるが、それもまたユーモラスで楽しい。しかし、貧困、家庭崩壊、犯罪、DV、親子の争い、麻薬、その他、イギリスの街角の至るところにある深刻な問題を真剣に、しかし温かい視線と一筋の希望を織り交ぜて描く。同じ作者の”The Accused”が私の最も好きなイギリスのドラマかなと思っていたが、”The Street”のほうが希望やユーモアもあって、幾らか気楽に見られ、より楽しい。

場所はマンチェスターの住宅地。白人のワーキングクラスやミドルクラスの下の方(Lower Middle Class)の人々が多く住む通り。出てくるのは、タクシー運転手、運輸会社の倉庫係、スーパーの店員、コールセンターのオペレーター、高等学校の先生、等々。借金、麻薬、万引き、家庭内暴力、浮気や夫婦げんか、自殺、移民問題、交通事故、等々に直面した時の慎ましい暮らしの家族の格闘を描く。日本で放送されるイギリスのドラマというと、犯罪ものか、あるいは『ダウントン・アビー』とかジェイン・オースティン原作作品のような古い上流社会を舞台にした時代劇か、いずれにせよ今のイギリス人の大部分の生活とはかけ離れたドラマが多い。その点、”The Street”は現代のイギリス人の庶民感覚満載。普通のイギリス人の良いところ、悪いところ、ださいところ、滑稽なところや愛すべきところが沢山。イギリスの事を知りたいなら、ジェイン・オースティンじゃなくて、これを見なくちゃ、という気がする(勿論、オースティンも欠かせないんですけどね)。NHKは、『シャーロック』など大変人気の出そうなドラマは民放に任せ、こういう地味だが質の高い作品こそ放映して欲しいんだが・・・(NHK、近年はBBCドラマでもスターのでるポピュラーな作品しかやらなくなった気がする)。英語版DVDしか手に入らないのが残念。Jimmy McGovern、いつも凄い。”The Accused”の次はBBC Twoのために”Banished”(追放された人々)というドラマを作っているらしい。これは18世紀にイギリスからオーストラリアに流刑になった人々を描いているそうだ。今年、シドニーとマンチェスターで撮影中のはずである(Wikipedia英語版による)。

さて、”The Street”は毎回一応話が完結しているが、舞台となっているのは同じ通りなので共通する人物が繰り返し出てくる。中でも、今まで見た部分、つまり第2シリーズの途中までで、毎回出てくるシリーズの中心的な人物がティモシー・スポール。稼ぎの少ないタクシー運転手、お人好しで気が弱い。奥さんは口達者で気が強く、いつも尻に敷かれているという役柄。彼は私の最も好きな俳優のひとりだ。そのスポールが今年のカンヌでベスト・アクター賞を受賞して非常に嬉しい!受賞作品は"Mr Turner”。名匠マイク・リーによる風景画の巨匠、ターナーの伝記映画。スポール・ファンで無くても、イギリス文化に関心のある人は必見だ。ガーディアンにスポールのインタビューと映画の紹介があった。

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