2014.8.16 19:30-21:50 (1 interval)
☆☆☆/5
演出:James Dacre
脚本:David Eldridge
デザイン:Mike Britton
作曲:Elena Langer
配役:
King Richard the Lion-heart: John Hopkins
Eleanor of Aquitaine: Geraldine Alexander
King Philip of France / Lawrence & other roles: Jolyon Coy
Saladin / Begin: Alexander Siddig
Hugh of Burgundy / Blair & other roles: Philip Correia
Reynald of Chatillon / Carter & other roles: Ignatius Anthony
Conrad of Montferrat & other roles: Peter Bankolé
Reymond of Tripoli / Bush & other roles: Paul Hamilton
Gerald of Ridefort / Napoleon & other roles: Sean Jackson
Balian / Ben Grion & other roles: Sean Murray
King Guy of Jerusalem / Weizmann & other roles: Daniel Rabin
Queen Sibylla / Berengaria of Navarre / Golda Meir: Sirine Saba
Az-Zahir / Faisal & other roles: Satya Bhabha
Imad al-Din & other roles: Kammy Darweish
Al-Afdal / Sadat: Jonathan Bonnici
第3次十字軍を描いたディヴィッド・エルドリッジのオリジナル歴史劇。十字軍と20世紀の中東紛争を絡ませて、中世と現代の二つの時代を比較して西欧と中東イスラム世界の関係の共通点を考えさせようとしている。極めて意欲的で、スケールの大きな作品。中世史に興味のある私には参考になったし面白かったが、演劇としては、歴史の大きな流れを何とか辿るだけで精一杯で、演劇作品としての緊張感や盛り上がりには欠けていた。また、ナショナルのオリヴィエ・シアターなどならもっと面白くできたと思うが、グローブ座という劇場が持つ物理的な制限も大きい。
第3次十字軍は、英仏の王侯貴族が中心になって行われ、イングランドからはリチャード獅子心王が参加した。エルサレムは第1次十字軍によりキリスト教徒の手に下ったが、この時までにはイスラムの英雄サラディンによって奪回されていた。第3次は、そのエルサレムを再度西ヨーロッパのキリスト教徒が奪い取ることをもくろんだ遠征だった。西側は、アクレ(Acre)などパレスチナの重要拠点を落としていくが、フランスやバーガンディーの貴族が徐々に退却し、リチャード王は結局エルサレム攻略を諦め、サラディンと講和を結んで帰国の途に就く。しかし、その帰国の途上、フランスで病死する。劇の前半では、この第3次十字軍の顛末を描く。後半では亡くなったリチャードの魂が遠征を振り返る。その間に挟まれるのは、20世紀の中東紛争の流れ。シオニストのパレスチナ移住からイスラエルの建国、繰り返されるパレスチナ紛争などを、ロレンス、ワイツマン、ベン・グリオン、ビギン、サダト、カーター、ブッシュ、ブレア―、その他数多くの主要人物とともに辿りつつ、それを十字軍と重ね合わせる。これだけのことを2時間ちょっとの劇に収めるのだから、意欲は素晴らしいが、かなり駆け足になり、無理があった。一種の年代記劇としての意義を感じるが、特定の戦いなり事件なりに焦点を合わせて、中世と現代の通底音を探ってみてはどうかと思った。あるいは、前半のストレートな歴史劇を、もっと人物を掘り下げて2時間以上で描けたのではないだろうか。
題材を考えると、男ばかりの戦記ものになっても不思議ではないのだが、男たちの戦いに翻弄される王侯貴族の女性たちに、セリフを多く割り当ててあったのには好感が持てる。特に西欧の中世史においてもっとも重要な人物であるアキテーヌのアリエノールはリチャードに大きな影響を与えた人物として、たくさんの台詞が振られていた。
内面をじっくり掘り下げるような台詞やシーンに乏しくて、残念ながら俳優の実力を十分に発揮できる場面は少ないと思った。シーンによっては、ドラマティック・リーディングみたいな感じになっていた。シェイクスピア時代の作品みたいに韻文であったなら、まったく違った印象になっただろうけれど・・・。
セットはグローブ座であるから工夫はむつかしいのだが、それでもできるだけの事をやっていた。張り出しステージの上にさらに一段高くなった大きな円形のステージを作って、主にその上で演技が行われる。中世劇で時折見られる円形舞台を意識しているのだろうか。ステージ上方の張り出し屋根からは巨大な香炉が下がり、そこから劇場中にお香の香りが流れていたのは雰囲気を作るうえで効果的だった。また、劇の始まりでは、数多くの蝋燭がステージに置かれ、まるでラテン典礼劇のように、修道士の衣装を着た人々が賛美歌らしき歌を歌いつつ行進(procession)をして、劇のトーンを定める。やはり天井からは、大聖堂のように巨大な十字架がロープ(チェーン?)で吊るされていて、ステージで描かれる事件に応じて垂直に近く起こされたり、逆に横に寝かされたりしているのも面白い。細かく注意していなかったが、十字軍の戦況の良し悪しを表しているのだろうか。こうしてみると、少なくともデザイン担当のMike Brittonは中世演劇、特に教会内で行われた典礼劇の上演空間を念頭に置いているように思えた。但、そうだとすれば、演技や台詞の発話も儀式的というか、様式的にすると面白かったと思う。
登場人物と言及される歴史的事件が多いので、中東紛争や十字軍の知識が乏しい人(私もそうだが)には劇の大体の流れを追うのさえ困難と思う。私は脚本を買っておいたので、それを時々のぞいて、その時にしゃべっているのは誰か大体確認できただけも随分助かった。でなければ、全くちんぷんかんぷんのまま終わったかもしれない。
私は、十字軍については、中世史のひとつの事件として、通史の本の記述で読んだくらいなので、ちゃんとした専門家による『十字軍の歴史』みたいな本を一冊ちゃんと読まなきゃと思った。
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