2011/07/19

St Cuthbert Gospel(7世紀末)の行方は?



現在大英図書館にて委託保管されているSt Cuthbert Gospel(別名Stonyhurst Gospel)はアングロ・サクソン時代のラテン語聖書で、現存する中では、ヨーロッパ中世において、最も早く作られた書物だそうである。リンディスファーン修道院の院長で、司教でもあったSt Cuthbertが使っていた聖書だと言われる。しかし現在のオーナーは大英図書館、つまりイギリス国家ではなく、イギリスのイエズス会 (The Society of Jesus) で、まもなく売りに出すとのこと。その前に大英図書館に買い取るかどうかの相談があり、その値段が9百万ポンド(11億円以上)!現在625万ポンドほど都合がついたようであるが、まだ275万ポンド不足しているとのこと。巨額であるが、大丈夫なのだろうか。大英図書館は、こういう大口の寄付をする色々な団体や個人と話し合いをしているらしい。もし大英図書館の手に入れば、ロンドンの大英図書館に半年、ダラムの世界遺産サイトに半年、保管・展示されるとのことである。

この本は、アングロ・サクソン時代に北イングランドにあったノーサンバーランド王国に住んでいたキリスト教の聖者、St Cuthbertの遺体と共に698年頃にリンディスファーンの修道院に埋められた。その後、バイキングの来襲を避けるためにダラム大聖堂に移設されたらしい。アングロ・サクソン時代が終わり、ノルマン朝になった1104年にこの大聖堂で発見された。

私は不勉強で、この聖書についてこれまで知らなかったが、7世紀の書物が美しい表紙も含め、これほど完全な状態で残存していることに大変驚く。大きさは8.9センチx13センチ。表紙は赤い光沢のあるレザーで、文様が刻まれている。この装丁 (binding) は、ヨーロッパ最古のものであるとのこと。

St Cuthbert (c. 635-687)はノーサンブリアに生まれ、Melrose, Ripon, Lindisfarneなどの修道院で活動した。リンディスファーンの修道院長、及び685年には司教となった。禁欲的な生活と、奇跡を起こしたことで知られている。698年には聖者とされている。中世のイングランドにおいて最も強い信仰を集めた、人気のある聖者のひとり。

以下はSt Cuthbert Gospelの1ページと、St Cuthbertの肖像:




Wikipediaの解説 "Stonyhurst Bible"

BBCウェブサイトのニュースより(British Libraryの学芸員によるビデオ解説あり)

6 件のコメント:

  1. こんばんわ。

     7世紀の本を、素手で持っていることが信じられません。

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  2. 守屋さま、

    確かにそうですね。私もちょっと疑問に思いました。稀覯本、特にこういう写本の場合、図書館や公文書館では手袋をして扱う規定になっています。British Libraryでももちろんそうでしょう。従って、上の写真は撮影の時の例外だと思います。但、外からくるリーダーには手袋を義務づけていても、内部の人は意外にめんどくさくて、じっくり読むのではなく、ちょっと出し入れしたりする時は素手で触ったりする例は他のアーカイブで見ています。中世写本の紙は羊皮紙、つまり皮ですので、普通大変丈夫で、酸性紙などと違い、インクは日光などに当てると霞みますが、紙自体はそう簡単には劣化しないと思います。Yoshi

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  3. BLのLibrarianは厳しく以前私が写本を閲覧したときは、手で直接触る時間が長いと注意されたり、顔を近づけすぎると息がかかると言われたりしました。字が小さいから仕方ないのよね。ところで、イギリスのように国宝級の古書や美術品がたくさんあるのはうやらましいけど、金持ちの国に流出しないように資金集めを頻繁にやるのも、かなり大変だなと感じます。

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  4. おはるさん、コメントありがとうございます。この前もBBCの教養番組"Medieval Luxury" で司会者の歴史学者や出演した学芸員が貴重な写本を素手で扱っていて、驚きました。テレビ番組の収録だと特別扱いなんでしょうねえ。でも良くないと思います。

    イギリスは国内のものだけでなく、海外の美術品も含め、色々集めて博物館や美術館を充実させ、それを上手く公開したり貸し出したりして、観光客や研究者、学生などを沢山集めています。イギリスは今や文化・教育を観光と絡めて一大産業にして、製造業や金融に次ぐ産業にしていますね。こういうものを国内に置いておくのも、全体としては、投資しただけの見返りはあると思います。そう言う点、日本は学ぶべき点は多いですね。Yoshi

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  5. 通りすがりのものです失礼いたします。

    <現存する中では、ヨーロッパ中世において、最も早く作られた書物だそうである。

    ちょっと注釈が必要かと思いました。本文と表紙装幀がつながって残っているものではヨーロッパ最古という事です。
    イギリスのナショナル遺産基金が半額負担し、その他募金に応じる団体がいくつか、あとは国民の募金です(ナショナルトラストみたいです)

    素手の問題ですが、手をきれいにしていれば問題ないかと思います。正倉院の文書を扱う方々も素手と、直接セミナーで聞き間々した。手袋ですべったりするより安全という考えです。
    (実は明日、勉強会で、この福音書の綴じを再現する事になっています)

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  6. ycomさま、

    コメントありがとうございます。専門に勉強されている方からコメントをいただき、嬉しく思いました。ご出席になる「勉強会」なるものがどういう会なのか、日本でか、英国でか、好奇心をかりたてられました(^_^)。

    私は書物史を勉強していないのですが、写本、ないし、単に綴っただけのコーディクスはもっと古いものがあるのでしょうね。これもCuthbert本人が使ったものとすると相当に古いとは思いますが、他のアングロ・サクソンの写本、あるいはゴート語の聖書など、もっと古いものはどのくらいなのか、そのうち調べてみたいです。ykomさん、特に古い写本など、ご存じでしたら教えて下さい。

    先日図書館で1900年頃出版の本を借りたら、酸性のページで、ボロボロ崩れそうになり、扱いに大変気を遣いました。一方で、私の数少ない体験では、羊皮紙の紙は、中世のものでも非常に丈夫な感じが致しました。しかし、インキは霞みやすいでしょうね。手の脂や汚れ以上に、人が読む時の光線が大問題なんじゃないか、と思いました。普通、アーカイブの読書室は太陽光のほとんど入らない薄暗い部屋とは思いますが。 Yoshi

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