2015/09/23

『NINAGAWA・マクベス』(シアター・コクーン、2015.9.22)

『NINAGAWA・マクベス』 

主催:ホリプロ
観劇日:2015.9.22   13:30-16:15 (20分の休憩含む)
劇場:Bunkamura シアター・コクーン

演出:蜷川幸雄
原作:ウィリアム・シェイクスピア
翻訳:小田島雄志
美術:妹尾河童
照明:吉井澄雄
音楽:甲斐正人
音響:高橋克司
振付:花柳寿楽
衣裳:辻村寿三郎

出演:
市村正親 (マクベス)
田中祐子 (マクベス夫人)
橋本さとし (バンクォー、マクベスの戦友)
砂原健佑(フリーアンス、バンクォーの息子)
瑳川哲朗 (ダンカン王)
柳楽優弥 (マルカム、ダンカン王の長男)
内田健司(ドナルベーン、ダンカン王の次男)
吉田鋼太郎 (マクダフ、バンクォーの家臣)
長内映里香(マクダフ夫人)
沢竜二 (門番)
中村京蔵(魔女1)
神山大和(魔女2)
清家栄一(魔女3)

☆☆☆ / 5

蜷川幸雄を世界的な演出家として知らしめた傑作舞台の再演。もう何度目の再演だろうか。おそらくこれが最後になるのだろう。私は一度も見たことがなく、今回のチケット代は今の私には高価すぎたが、これが最後の機会になるかもと思って出かけることにした。一度も見たことが無いとは言え、写真とか、リビューとか、他人から聞いた感想などで、断片的なイメージは湧く。それに、蜷川はビジュアル的要素や音楽を繰り返し使うので、その公演がビジュアルに依存すればするほど、どこかで見たような?という感覚に陥るのだが、今回、特にそうだった。全体が蜷川ムードで埋め尽くされている:散る桜、赤い満月、エモーションを掻き立てる音楽、スタイライズされた殺陣・・・。仏壇というプロセニアムに囲まれた紙芝居。商業演劇、あるいは大衆演劇的要素がいっぱいで、日本人にとって親しみやすいチャンバラ・シェイクスピアになったとも言えるだろう。特に、市村正親という俳優はそういう芝居が身についていて、サービス精神たっぷりだ。最後のモノローグが多い場面では、劇場全体の注目を一身に惹きつけるカリスマを持つ。体の動きも、計算されているかのように一瞬一瞬が絵になっている。しかし、逆に言えば、パターン化しており、実に田舎くさい大衆演劇の看板役者風とも言える。圧倒的な熱演と見るか、役に溺れた独りよがりの演技と見るかは、個々の観客の好みだろう。彼の問題点は、滑舌がやや悪いこと。台詞が潰れて聞き取りにくい。モノローグで1人で話すところでは、ゆっくりと言うので分かりやすいが、ダイアローグでは聞きづらく、従って台詞が生きない。

田中祐子のマクベス夫人は、充分に悪女の凄みを感じさせ、台詞のキレも良い。柳楽優弥が演ずるマルカムも、台詞は良く聞き取れ、姿も内面も真っ直ぐな王子を好演していて、印象に残る。バンクォー役の橋本さとしも、声がとおり、台詞回しが良かった。問題は吉田鋼太郎のマクダフ。マクダフがやたらと目立つ『マクベス』になってしまったのは、制作や演出側に、人気急上昇の彼を見に来るファンにサービスしようという意図があるからだろうか。上手いんだが、役柄以上に派手で目立ちすぎ。吉田はまた、台詞の末尾を張り上げる癖があるようだが、そういう日頃さほど気にならないことまで気になってしまった。3人の魔女を女形にしたのは面白い工夫だが、その動機とか必然性は、私には不可解。3人のうち、1人は本当に女形の訓練を受けたような印象だったが、他の人(少なくとも1人)は、女形の台詞になってないのも気になった。

極めて人工的なセットは、観客とステージの距離を広げ、まるで映画のスクリーンを見ているような感じを与えかねない。その距離を縮め、観客とステージの仲達をする者として、芝居見物をする2人の老婆をステージの両脇に置いたが、これは蜷川の他のプロダクション(多分、『ペリクリー ズ』)でも使われていた手法。埼玉ゴールド・シアターの年配者を配したことでリアリティーを増して良かった。

市村、田中、吉田、柳楽などの人気俳優の個性と、それを包む蜷川組の豪華なセットが、それぞれ印象的な舞台。『NINAGAWA・マクベス』を体験して良かったとは思うが、全体としては、私には不満が残った、シェイクスピアの台詞の面白さ、奥深さが、ビジュアルやスターの輝きに圧倒されて、心に響いてこなかったからだ。それとも、私の感受性が乏しいからだろうか?

3回のカーテンコールと、最後にはスタンディング・オベーション。あの熱狂ぶり、もう少し押さえられないのかなあ。マクベスの死を静かにかみしめつつ、運命と人生の不思議に思いを巡らす時間と雰囲気を奪われた気分。

2 件のコメント:

  1. ライオネル2015年9月24日 10:38

    Yoshi様
    今まで、この舞台をご覧になっていなかったのですね!! それがびっくりしました!
    かなり再演していますから。
    今回はキャストが若返りましたね。柳楽は見たい気がします。
    私は、コマキストなので、初演の日生劇場からシンガポール公演も見ています。
    ナショナルシアターで上演された時は、小巻さんが大絶賛!で、ロンドンの新聞にも載りました。(マクベスの津嘉山さんは、ぜんぜん)
    マクベス役が、平幹二郎 → 津嘉山正種(ロンドン・エジンバラ公演)→ 北大路欣也。
    私は北大路さんが、一番すきです。
    市村さんは、四季で「エクウス」を観てから、はまりましたが・・・・結局飽きてしまって、最近はほとんど見ていません。引き付けるのですが、見すぎました。(笑)
    ロンドン・エジンバラ・シンガポール公演には眉子さんが出演していました。

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  2. ライオネルさま、いつもコメントありがとうございます。

    私が良く演劇を見たのはイギリスに居た間だけで、それ以前や以降はあまり見ていません。それに、英米文学の一部としての英米演劇として見るので、芝居の魅力とか演技については、未だに良く分かっていないと思います。他の人から、あの人は上手いとか下手とか言われても、良く分からないことが多いです。栗原小巻も、ステージで見たことないんじゃないかなあ。元々、最も苦手なタイプの俳優で、もし彼女が主演だったら行ってないと思います。すいません (^_^)。

    蜷川も、ビジュアル的なものが先に立つ芝居造りで、最初は苦手だったんです。しかし、今コンスタントにシェイクスピアをやっているのは(小劇場などは除くと)彼くらいなので、シェイクスピアをやってくれると言うだけで感謝しています。長生きして、頑張って欲しいです。今回も、上演のタイプの好き嫌いは別にして、『マクベス』という戯曲に関して、色々と考える良い機会になりました。

    市村正親、今回は納得出来ませんでしたが、『リチャード三世』では素晴らしかった印象が残っています。

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