2010/04/27

BBC Oneのドラマ、"Five Daughters"

4月25日から27日まで3晩、1時間ずつ放映された3回連続ドラマ。しばらくiPlayerで見ることが出来る。DVDになることを期待したいが、まだAmazon.co.ukには予約は出ていない。

私がイギリスに来てから見たこちらのドラマで、最も素晴らしいと思った作品。全世界で報道された2006年10月から12月にかけて起こったイプスウィッチ市での連続殺人事件を、事実に基づいて、警察等の関係者、そして特に被害者の家族に取材してドラマ化している。

事件は、街頭に立って売春をしていた女性が続けて5人殺害されるというショッキングなものであるが、このドラマは、事件をセンセーショナルな扱いをするのではなく、それぞれの被害者が何故売春をすることになったか、彼女たちの家族や友人との関係はどうであったかを、繊細な視点で描いている。彼女たちは1人残らずヘロイン等のハード・ドラッグの中毒患者であり、麻薬を買うために街頭に立っていた。ミドルクラスの家族と住んでいた人、家族と定期的に連絡していた人、ボーイフレンド(やはり中毒患者)と同居していた人、大学に行く夢を持っていた人、中毒を抜け出そうとセラピーを始めようとしたところだった人(5人のうち2人が麻薬中毒者のケアをする同じボランティア組織に通い始めていた)、刑務所から出所して美容師として新生活を始めようと張り切っていた人、3人の子供を生んだが、麻薬中毒のために育てられず、里親に出した人・・・皆それぞれ、悲喜こもごものドラマを残して死んでいった。女性達のひとり、アネットは自分の日常について詩を書き残していて、それがところどころに大変効果的に挟まれる(ドラマ中で使われる詩は、脚本家が家族から内容を聞いて、創作しなおしたものだそうであるが)。「売春婦」というレッテルとはかけ離れた、皆、所謂「普通の」若い女性達である。家族に愛され、定期的に連絡を取ったり会ったりしている人もいる。その家族も彼らの問題を分かっている。にもかかわらず、麻薬が彼らを街頭に立たせる。皆、麻薬から逃れたい、家族も何とか娘を救ってやりたいと思っているのだが出来ない。それどころか、連続殺人が始まった後も、彼女たちは次は自分が襲われるのではないかと恐れつつも街頭に立ち続け、結果として被害者が増えていった。その位、ヘロインやコカインの中毒からは逃れられないのである。恐ろしいものだとつくづく思った。先日、朝のニュース番組"Breakfast"にこのドラマのプロデューサーのSusan Hoggと俳優のひとりAisling Loftusが出ていたが、彼らが言っていたのは、このようなドラッグの問題は彼ら個人の周辺でも良く見聞きする普通のことだということである。イギリスの社会の大きな病巣を見る気がした。

またメディアによる家族の二次被害も触れてあった。

エンタテーメントのクライム・ドラマではなく、社会問題をえぐったドキュメンタリー・ドラマであり、また人間ドラマとして、一級の作品。視聴者にこびることなく、こういう特殊な事件でありながら、音楽、照明、カメラワーク、演技その他を見ても、センセーショナルに演出されているところは全くない。家族に密接に取材したのであるから、家族が見ても不満を抱かないようなドラマにしようと思ったのだろう。5人のうち3人の家族は詳しく話をしてくれ、1人の家族はドラマ化に反対せず、1人の家族のみ否定的だったようである。従って、その後者の女性や家族のことはほとんど触れられていない。Susan Hoggもブログで書いているが、麻薬の恐ろしさを伝える番組として、若い人に見て貰いたいドラマである。BBCでなければなかなか出来ない作品。番組のホームページはこちら。日本でもNHKなどで、視聴者の多い時間帯に是非放送して欲しいドラマ。

Director: Philippa Lowthorpe
Executive Producer: Susan Hogg
Producer: Simon Lewis
Writer: Stephen Butchard

主な俳優:
Sarah Lancashire, Anton Lesser, Ian Hart, Jamie Winston, Eva Birthistle, Aisling Loftus, Natalie Press

(追記)あるテレビ評によると、このドラマでは加害者の問題に触れていない、あるいはその他の売春婦の客の問題にも触れていない点が気にかかるとのこと。確かにそうである。また、麻薬を彼女たちに売った売人のことも含め、ドラマで取り上げても良い視点は色々とあるだろうが、このドラマはあくまで本人と家族の内面に迫り、彼女たちの麻薬中毒の問題に集中したところが長所であると思った。それに家族が出来上がったものを見て納得できる作品にならないといけないという制約もある。

私がいつも訪問させていただいているBradford大学、博士課程のTakaoさんのブログでもこのドラマについて詳しくとりあげて下さいましたので、関心のある方はそちらもどうぞ。


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2 件のコメント:

  1. ご紹介ありがとうございます。

    1話から見れるようなので、早速、週末見てみたいと思います。

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  2. Takaoさん、

    エンターティンメントのドラマじゃないので、楽しめるとは言えないかと思いますが、心にしみる作品です。ところで、今週の"Panorama"はイギリスの若者の失業問題を扱っていましたが、これもイギリス社会を知る上でなかなか考えさせられました。 Yoshi

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