2010/04/19

"Polar Bears" (Donmar Warehouse, 2010.4.17)

躁鬱病患者とその家族の物語
"Polar Bears"

Donmar Warehouse公演
観劇日:2010.4.17 14:30-16:00 (no interval)
劇場:Donmar Warehouse

演出:Jamie Lloyd
脚本:Mark Haddon
美術:Soutra Gilmour
照明:Jon Clark
音楽、音響:Ben and Max Ringham
衣装:Fizz Jones

出演:
Jodhi May (Kay)
Richard Coyle (John, Kay's husband)
Paul Hilton (Sandy, Kay's brother)
Celia Imrie (Margaret, Kay's mother)
David Leon (Jesus, Kay's lover and mortuary attendant)

☆☆☆ / 5

小説やテレビドラマのシナリオなどで活躍しているMark Haddonの演劇デビュー作だそうである。テーマは非常に重い。躁鬱病患者とその家族の物語。躁鬱病は、英語で、bipolar disorderというそうだ。つまり極端な興奮状態(躁)と極端にふさぎ込む状態(鬱)の2つの極(poles)を言ったり来たりするわけで、そこから"Polar Bears"という題名が着いているのかな。大変考えさせるテーマ、重い題材を冷静に扱っていて、悪くないとは思うのだが、今ひとつ物足りない。何故かインパクトが感じられない。私の英語やその他、内容に関する理解不足もあると思うので、自信はないが・・・。但、Donmarの出演者だけあって、俳優の演技は立派で、その点では大いに満足できた。

劇は夫婦の悲劇的な破局の場面で始まり、その破局への道程をたどりつつ多くのエピソードを積み重ねることで進行する。エピソードの時間が行ったり戻ったりするので、英語の理解に難のある私のような観客にはかなりやっかいで、時々脈絡を見失った。こうした流れは、無理にドラマチックにするよりも、冷静に、時にはコミカルにこの病気を見つめようという作者の意図に沿ったものかも知れない。

主人公のKayの病は遺伝的なもので、父親が同じ病気で自殺をしたことも最初に明らかにされる。兄(あるいは弟)のSandyと母親のMargaretは、そのKayの感情の激しい変化を、ある程度距離を置いて見ている。それが彼ら自身を守るすべかも知れない。特にSandyは非常に世俗的なビジネスマンで、自己中心的にさえ見えるが、Johnの様にKayに徹底的にかかわっていては身が持たないのも確か。夫のJohnは冷静な哲学者。Kayに温かい目を注ぐ一方で、彼女の病気を病気として捉えて、理性的に眺めようとする。しかし、そういう彼にも限界があった。

Kayの躁状態を描いた場面は大変面白い。コミカルだし、Johnがそれに振り回される様子も興味深い。しかし、鬱状態の描写が不十分だし、あまり悲惨さが伝わらない。私としては、小さなエピソードを積み重ねるよりも、もっとひとつひとつのシーンをじっくりと描いて欲しかった。Haddonは何を観客に感じて欲しいのか、何を訴えたいのか、私には良く理解出来なかった。この病気について良く理解してもらいたいのか、それとも、病気はひとつの素材であって、Kayの一家の家庭劇にしたかったのか。どちらも中途半端な気がする。

アメリカン・リアリズムの代表作の幾つかは、精神疾患、あるいはそれに類似した症状を扱っている。しかし、『ガラスの動物園』とか、『夜への長い旅路』など、そうした背景はあっても、主眼はあくまでも家族のドラマであり、その為の背景とか雰囲気作りがしっかり出来ている。今回の劇は、長さも短かく、そういう背景を十分に書き込めて無いと思う。

とは言え、俳優の演技は優れているし、この病気のことを考えさせてくれたので、ロンドンまで出かけた甲斐はあった。

(追記)この劇を見て改めて思ったが、精神疾患に関する我々の(日本人の)認識はまだまだ不十分。勿論、私達が専門的な予備知識を持つことは出来ないが、心の病を持った人を差別しない、職場や学校などで暖かく融通を効かせつつ処遇する、ということは出来るだろう。日本では、病気をかかえた人を迷惑に感じたりし、職場から追い出しかねない環境のところがかなり多いのでは無かろうか。そもそも真夜中までサービス残業をさせるような職場は、心の病人を作り出してしまう。また、病気をかかえた人も、自分でおかしいと思っていても医者に相談してなかったり、職場や学校でも誰にも言えない人も沢山いて(それは職場や学校にも責任があるが)、それがかえって病気を悪くしている場合もあると思う。この問題に関して、社会全体がもっとオープンになる必要があるだろう。


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