2010/05/16

"Glorious 39" Stephen Poliakoff監督作品 (2009)

歴史の中で浮き上がる家族の過去と現在
"Glorious 39"
a film directed by Stephen Poliakoff (2009)

☆☆☆☆ / 5

Director: Stephen Poliakoff
Writer: Stephen Poliakoff

出演:
Romola Garai (Anne Keyes, an adopted daughter of the Keyes)
Bill Nighy (Sir Alexander Keyes)
Julie Christie (Aunt Elizabeth)
David Tennant (Hector Haldnane, MP)
Juno Temple (Celia Keyes)
Eddie Redmayne (Ralph Keyes)
Christopher Lee (Walter Keyes, in his old age)
Charlie Cox (Lawrence, a diplomat and Anne's lover)
Jeremy Northam (Mr Balcombe, a secret agent)

去年公開された当時から見たいと思っていたPoliakoffの新作映画がDVDになったので、早速Amazon.co.ukで購入した。この映画については、見ない前に、以前にこのブログにも書いたことがあるが、私はPoliakoffの大ファンなのである。妻も好きで、彼のDVDはかなり我が家に買って置いてあり、これは新しいコレクション。まだ日本では発売されていない。

今回の作品は、長らくテレビドラマばかり取っていた彼の久々の映画だそうである。いかにも彼らしい作品で、またいかにもイギリスらしい作品。かなり好き嫌いが別れるだろうが、私にはとても面白かった。どこが彼の作品らしいかというと、
1. 豪華なお屋敷での上流階級の人達をめぐるドラマ(嫌みに感じる人もいるだろう)
2. 過去の呪縛が徐々に明らかになって人の運命を劇的に変えるという、「記憶」のドラマ
3. 複雑な家族の過去をたどる、家族のドラマ
4. 人種の問題(Poliakoffはユダヤ人)
5. 時代の流れに翻弄される個人という「歴史」のドラマ
と言うようなところ。どの点も他の点と絡み合って出てくるのだが。

ストーリーは、ヨーロッパで第2次世界大戦が始まる1939年を舞台にしている。大陸ではナチス・ドイツが勢力を拡張しているが、イギリスのチェンバレン政権は、所謂"appeasement"(宥和政策)と呼ばれるナチスとの妥協をする政策をとって、戦争を避けることに躍起になっている。この一時の平和をイギリスの上流階級のKeyes家の人々は田舎の大きな屋敷で満喫している。Keyes家の養女で人気女優のAnne (Romola Galai) が取り仕切って、政府の要人で父親のSir Alexander Keyes (Bill Nighy) の盛大な誕生パーティーが開かれる。しかし、パーティーのディナーの席でも、ナチスとの対応を巡り議論が繰り広げられ、ウィンストン・チャーチルを支持する血気盛んな国会議員のHector Haldane (David Tennant) は、チェンバレンの懐柔策を厳しく批判して、自分はそれに反対して政治活動を続けると明言する。しかし、そのHectorは数日後、不可思議な死を遂げ、自殺と言う事で処理される。一方、Keyes家では政府の秘密のミーティングのレコーディングが発見されるが、Sir Alexanderは覚えがないという。その録音の一部には、政府の諜報機関がappeasementに反対する人々の暗殺をたくらんでいる事を示す証拠があり、Anneは知ってはいけないことを知ってしまった。彼女はその後、常に尾行され、やがて危険に身をさらすことになった・・・。

俳優の顔ぶれが豪華。David TennantとJeremy Northamはほとんど客演という感じで、少ししか出てこないが、それなりにピリッと作品を締める。主演はRomola GaraiとBill Nighyの2人。Romola Galaiはなかなか芸達者。ハリウッド映画のヒロインなどだと、何だか嫌みな輝きを放つ人が多いが、彼女はスターであることを感じさせない、現実味溢れる知的な演技。Bill NighyはAlexanderの隠れた本性を、あの冷たい表情と押し殺したような声で巧みに表現し、はまり役である。他にもJulie ChristieやChristopher Leeなど懐かしい人も出てくる。Anneの兄と妹、Eddie RedmayneとJuno Templeの二面性も印象に残る。 Eddie Redmayneは昨年、Donmar Warehouseの”Red"に出演し、オリヴィエ賞を受賞している注目の若手。こうした俳優をさらっと目立たない役に使って、隅々まで良く出来た映画になった。更に、素晴らしい屋敷、またその近くの廃墟をロケに使っているが、美しい。

単なるスリラーと期待してみると、それ程複雑でもないし、終わりもあっけなくて、大したことないと思う人も多いだろう。しかし、この映画は、基本的に、第二次世界大戦前のAppeasementの時代を、スリラーと家庭劇の枠組でシンボリックに語っているということだと思う。Anneには、ユダヤ人であるPoliakoff自身の思い入れが深いように見える。そう考えつつ、Poliakoffドラマを好きな人が見ると、こたえられない秀作。ひとつひとつのシーンの美しさは、カメラワークに如何に綿密な注意がされているかを感じさせる。またすぐにでも見なおしたい、と思える作品。

これを見て、チェンバレンの宥和政策など、戦争直前のイギリスの歴史について、私ももっと知る必要があると感じた。この映画の中で、Nighy扮するSir Alexander Keyesが,如何に先の大戦(第一次大戦)が過酷なものであり、人々に取り返しのつかないダメージを与えたかを言うシーンが印象に残っている。ナチスの拡張を許してでも戦争を避けたかった、ある一定年齢以上の人々の心には、前の大戦の傷跡が生々しかったのだろうと思わせるシーン。一方で、若い世代の政治家Hectorは、宥和政策に激しく反対するが、このあたりは戦争経験の有る無しという世代間の溝があったのだろうか(最近の日本の若い政治家の危うさを思い出す)。また、監督Poliakoffはユダヤ人であり、彼はユダヤ人虐殺の開始を黙認したチェンバレン政権が許せないという気持ちもあろう。また、戦争が始まる以前から、チェンバレン政権が国内で強引な諜報活動をして反対派を監視し、基本的人権を無視したことも示されている。そう言うことを、何気なく知らせてくれる作品である。近年の歴史家はAppeasementについてどういう評価を下しているのだろうか。この映画は、チェンバレン政府の暗闇の部分を指し示してはいるが、しかし、前述のSir Alexanderのつぶやきのように、けしてそれだけでもない。一概に断罪できるものでもないような気がした。

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2 件のコメント:

  1. ライオネル2010年5月17日 21:35

    豪華な顔ぶれですね~
    日本で公開されれ場いいですが・・・・・みたいです。

    昨日、wowowで録画したドラマをみたんですけど・・・・チャーチルをテレビドラマ化したものでした。
    第2次世界大戦の決断をするチャーチルと妻の話です。
    ”Into the Storm ”という題名で、ブレンダン・グリッソムがチャーチルを演じています。
    私は余りチャーチルの事を知らなかったので、観てよかったとおもいました。

    そして"Glorious 39"も観れば、この時代が少しは判るかも知れませんね。

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  2. ライオネル様、コメントありがとうございます。

    出演者は豪華ですよね。でもその割に話題にならず、あまり当たらなかったのではないかと思います。映画でも、テレビドラマでも、両大戦間のイギリスを扱ったものって、雰囲気が良いです。そして、時代そのものが、繁栄から大恐慌へ、そして第一次大戦後の歓びと平和から、不安の時代、そして戦争の影へと続くとても面白い時代ですね。この映画のタイトル、”Glorious 39”のGloriousも、大英帝国の最後の繁栄、貴族的社会の栄華の残照を表しているようです。 Yoshi

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