2010/05/11

"The Real Thing" (The Old Vic Theatre, 2010.5.8)

おもしろいけど、つまらない?
"The Real Thing"

The Old Vic Theatre公演
観劇日:2010.5.8 14:30-16:40
劇場:The Old Vic Theatre

演出:Anna Mackmin
脚本:Tom Stoppard
美術:Lez Brotherston
照明:Hugh Vanstone
音響:Simon Baker for Autograph

出演:
Toby Stephens (Henry, a playwright)
Hattie Morahan (Annie, an actor)
Fenella Woolgar (Charlotte, an actor)
Barnaby Kay (Max, an actor)
Tom Austin (Billy, an actor)
Louise Calf (Debbie, Henry and Charlotte's daughter)
Jordan Young (Brodie, an activist & writer)

☆☆☆ / 5

英語で言うと、an extremely clever play about love、というところか。劇の造りはとても知的で興味をそそる。台詞もユーモアに溢れ、会話の「間」が絶妙だ。演技も素晴らしい。ということで、各紙の劇評は絶賛のようだ。しかし、私には関心の持てないテーマ。お話は、夫婦のfidelity / infidelityをめぐるごたごたである。例え一流の役者の演技を楽しめても、こういう話でしばし笑って楽しい思いをしても、ロンドンまで大金を使って出ていく価値ないな、と思った。

HenryとCharlotteはDebbieというティーンエイジャーの娘のいる夫婦。しかし、HenryはAnnie(Maxの妻)という若い女性と不倫関係にあり、Charlotteと別れる。そのCharlotteは、しかし、Henryと結婚していた間、9人もの男と不倫をしていたと、後で彼に言う。Annieは何故か、Brodieという元軍人で、平和主義者に転じて軍律を犯して刑務所に入っている男の法廷活動を一生懸命支援していて、Henryは何かうさんくさいものを感じている。Annieは、Charlotteと別れたHenryと結婚するが、2年ほど経ったころ、舞台で共演したBillyという若い男と不倫を始める。Henryはこのことに非常に苦しむが、AnnieはBillyもHenryも愛していて、自分には必要な人と言う。Charlotteはセックスをその時楽しめれば良いというような考えのようで、Annieは愛情は大切だが、対象はひとりとは限らないようだ。娘のDebbie(15歳くらいだった)は、年上の男と旅行に出ると言い、それが当然という顔をしている。こうしたまわりの女性達の考えとは違い、HenryはCharlotteに対しても、Annieに対しても、本当の愛情においては、fidelityを大事と感じている。彼は古めかしいロマンチストなのだろうか・・・という話。

面白いのは、これが劇作家と俳優からなる劇と言う事だ(ちなみにBrodieも自分の経験を元にシナリオを書いていて、それを添削するようにとHenryはAnnieから頼まれる)。作品の最初は、MaxとCharlotteが夫婦として劇を演じているシーンで始まる。また、BillyとAnnieが知り合うのは、John Fordの『哀れ彼女は娼婦』という劇に共演したからであり、その1シーンを2人が練習しているシーンが劇中劇として演じられる。見ていると、劇作家や俳優達の人間関係と、劇中劇の人間関係が、渾然となって絡み合う。フィクションが現実になり、現実の中には(多くの男と女の関係がそうであるように)様々の嘘や演技が刷り込まれている。人は劇を書いたり演じたりするが、一方で現実生活でも、愛情のシナリオを作り、妻や夫を「演じ」続ける。HenryやAnnie自身も、どこまでが本当でどこからが嘘か分からなくなる。

でも、そもそもこういう不倫のごたごた話自体に興味を持てない私としては、細かい細工をされても分かりにくくなっているだけで、「だからどうなの」という感想。細かく知的な装飾を施すよりも、もっとストレートに、例えば"Private Lives "のような作品のほうが、娯楽作品として楽しめる。この作品は、イギリス的なインテリの気取りが鼻についた。Much Ado about Nothingと感じるのは私だけ・・・?

作品が出たのは1982年。時代背景には、快楽主義的な風潮が頂点に達し、伝統的な結婚制度とか、親子や夫婦関係のモラルが崩れつつあった時代に戸惑う人々の心理もあると思う。

俳優は皆秀逸。特にToby Stephensの台詞には聞き惚れる。緩急のある、微妙な話し方が、とても良い。AnnieのHattie Morahanはちょっと先日見たKim Cattrallを思い出させる可愛いくていたずらっぽい感じのする、大抵の男性なら好きになりそうなタイプの俳優。俳優が自分が本来もつ可愛さを最大限に引き出すのも才能だと思う。私は、非常にドライな快楽主義者で、ちょっと歳を取った(40歳くらい)のCharlotteを演じたFenella Woolgarが、敢えて言えば、異性を引きつけるには盛りを過ぎ、それを諦めてはいるけれども少し寂しさも感じる女性(失礼!)を非常に上手く演じていて、とても面白いキャラクターだと思った。ちなみに脚本によると、AnnieはまさにCharlotteがかってそうであり、今はそうではなくなったような女性だそうである。まあ個人的な好みはさておいて、大多数の観客にとっては見て楽しい作品だと思うし、私も俳優の演技には感心した。豊かそうなミドルクラスの人々でいっぱいの劇場では、始終笑い声が上がっていた。

(おまけコメント)Toby Stephensって女性に人気があるなあ。それが良く分かる気がする。たくましい男性的な声や面構えだけど、でもとても繊細な神経を持っていそうな感じもする。ユーモアのセンスも感じさせ、2枚目だけど、2枚目によくある退屈させるような人じゃない雰囲気。また、ちょっと腕白坊主みたいな若々しさもあって、そこも女性心理をくすぐりそうだ。私も好きだ。Donmar Warehouseでの『人形の家』も大変良かった。


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6 件のコメント:

  1. これ、月末にわたしも見に行きます。
    トビーのファンなんです。
    かなり複雑な話のようですね、ついていけるかな。

    >イギリス的なインテリの気取り
    ああ、想像がつくような。
    そんな雰囲気も含めて、俳優陣の演技を楽しみたいです。

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  2. Lokiさま、コメントありがとうございました。また、折角のお出かけなのに、水をかけるような好き勝手な事も書いてしまい、すいません。私個人がこういう素材が苦手なだけで、とても世評は良い作品です。そもそもストッパードの劇ですから、これからも演劇史に残るテキストかも知れませんね。ほとんどのリビューは4つ星以上ついていたと思いますので、きっと楽しまれることと思います。

    トビー・スティーブンス、上手いですね。台詞に耳を傾けさせてくれます。良い観劇となりますようにお祈りします。Yoshi

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  3. ライオネル2010年5月14日 13:06

    感想をアップされるのを楽しみにお待ちしていました!
    舞台写真をみると、トビーが、とっても美しいですよね!

    繰り返しこの戯曲をよみましたが・・・・やっぱり、殆ど理解できませんでした。
    会話としては判っても、結婚経験のない私には、夫婦間の心情は・・・・・苦手です。
    文学座が公演したのを見た時は、年齢的に経験不足で理解力がなかったのかな?ッて思っていましたが、それ+夫婦の心情が判らないからだと思いました。私が見れたとしても、理解できなかったでしょうね。
    トビーはステキだったのですね。

    「青空文庫」に"After the Dace"と”トゥルビン家の人々”の和訳がアップされていましたので、ダウンロードしました。暇な時に読もうと。

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  4. ライオネル様、

    コメントありがとうございます。見てから1週間近く過ぎましたが、今考えると、私はちょっと先入観や第一印象に左右されすぎたかなと反省しています。もっと楽しむつもりで見に行っていれば、☆は4つでもよかったかなあ、と。非常に良くできた劇なんですよね。劇中劇を使い、何がreal thingかを考える過程を描いた劇です。『ハムレット』に似ていますね。ただ、『ハムレット』の劇中劇はとても作りもの臭いのですが、こちらは劇中劇と劇本体の境目が曖昧です。

    構造は凝っていますが、見ようによっては、20世紀末のwell-made playであり、drawing room comedyですね。カワードの作品などと同じ感覚で見られる喜劇です。

    奥さんが、愛人が9人いたとケロッとして言うあたりは、多くの日本人には(私みたいに結婚していても)とても理解出来ないでしょう。本文にも書きましたが、80年代初めの欧米の性道徳の変化を背景にしていると思います。 Yoshi

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  5. はじめまして。Toby Stephens で検索してたどりつきました。膨大なブログに圧倒されています、が、これから読むのが楽しみでドキドキしています。ジェイン・エアのドラマを日本で見て芝居の上手いトビーのファンになりました。本物の舞台を見てみたいなぁ・・なんて夢を見ています。私の英語力ではあらすじを追えず、こちらで紹介してもらったのを見てうれしいです。またお邪魔させてもらいます。

    (Stephen Fryも好きなんです、内容を知れてうれしかったです)

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  6. あきこさま、はじめまして。ご訪問ありがとう存じます。Stephen Fryをご存じと言うことはイギリスにおられるのですか。QIなど彼の番組を見たいんですが、英語のコメディーはとても難しいですね。今度彼はまた何か別の教養番組のプレゼンターをすると聞いたような・・・気がします。

    Stephensは舞台にしょっちゅう出ますから、是非ご覧になって下さい。

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