"Musashi"
埼玉芸術劇場、ホリプロ公演
観劇日:2010.5.5 19:15-22:015
劇場:Barbican Theatre
演出:蜷川幸雄
脚本:井上ひさし
美術:中越司
照明:勝柴次朗
音響:井上正弘
音楽:宮川彬良
振付:広崎うらん、花柳錦之助
衣装:小峰リリー
出演:
藤原竜也 (宮本武蔵)
勝地涼 (佐々木小次郎)
鈴木杏 (筆屋乙女)
六平直政 (沢庵宗彭)
吉田鋼太郎 (柳生宗矩)
白石加代子 (木屋まい)
大石継太 (平心)
飯田邦博 (浅川甚兵衛)
堀文明 (浅川官兵衛)
塚本幸男 (忠介)
井面猛志(只野有膳)
(配役はバービカンの英文パンフの通りにしてあります。脇役の俳優さんで、他の日本語サイトのロンドン・NY公演情報に書かれている配役と一部違うところがありましたが、どちらが正確かは分かりません。)
☆☆☆☆ / 5
劇自体は、私にはとても楽しかったが、どうも雰囲気が・・・。やはりコメディーは外国語では難しい、と思い知らされた気がする。最初の1時間くらい、劇場はほとんど静まりかえっていた。私は結構面白いと感じたが、何だかエンジンの温まらないまま先に進んでいく感じがした。特に喜劇は、劇場が楽しい雰囲気にならないと、劇だけ面白くても充分楽しめない。台詞がよく分からない英語の劇でも、まわりが楽しそうにしていると自分も何となく楽しめるのだが、今回は逆になってしまった。日本人の観客が3,4割いて、面白さを感じていたとは思うのだが、日本の劇場の観客とは違う。イギリス人観客に遠慮して、馬鹿笑い出来ないような雰囲気があると感じた(のは私だけか・・・?)。2人3脚ならぬ5人6脚のシーンも、どうもそれ程爆笑という程の笑いは起こらない。観客が、お勉強に来ている感じがした。特に、能のパロディーのような体の使い方、声の出し方から自然ににじみ出る可笑しさがあると思うのだが、それがイギリス人にはあまり伝わっていないのではないか。また、駄洒落などは全然駄目だ。上に字幕が出て、簡単に理解出来るように大変巧みにまとめてあるのだが、本当の台詞の半分以下、3分の1くらいの語数になってしまっており、ユーモアを伝えるところまではいかない。浅川家との対決場面で腕を切られ、その腕がぴくぴく動いたところで爆笑が起こり、そのあたりから、大分観客の雰囲気がほぐれた感じがして、後半はまあまあ盛り上がった。
ストーリーは、宮本武蔵と佐々木小次郎が巌流島で決闘した時、武蔵が医者に声をかけて、小次郎が何とか助かり、その4年後、鎌倉の禅寺の寺開きの参籠禅で再会する。小次郎は復讐の鬼となっていて、この4年間この時のために準備を怠らなかったのだが、3日間の禅の修行を共にするうちに、色々なハプニングが起こって、2人の憎しみや競争意識にも変化が起こってくる、という話。この参籠禅に共に参加したのが、能を舞うのが何より好きという(現代で言えばカラオケ・オヤジ)剣客、柳生宗矩、寺の檀家の木屋まいと筆屋乙女、そして大徳寺の高僧、沢庵宗彭、迎えるのは寺の和尚、平心。この連中が、役も役者も皆、怪物揃いで面白い。特に吉田鋼太郎の柳生宗矩、六平直政の沢庵宗彭、そして言うまでもなく、白石加代子の木屋まいは抜群の表現力。白石のタコ踊りも傑作なんだが、タコは西欧では悪魔になぞらえられる生き物で、タコ踊りの伝統がある日本と違い、観客には戸惑いがあるようで、すぐには可笑しさと結びつかない点も残念。藤原と勝地は、普通の劇やテレビドラマならあまりに可愛い過ぎる武蔵と小次郎だが、そこもパロディーらしくて良い。生きたアニメのヒーローみたいだった。特に藤原の腰を低く落とした構えが、武士として実に様になっていて、稽古の成果をうかがわせた。何しろ、脚本が出来ないので、殺陣などの稽古を念入りにやったそうだから。
井上ひさしの脚本自体が大変良い。特に、18番目の皇位継承者というところは、天皇制の血筋を云々する馬鹿馬鹿しさを皮肉ってあって特に気に入った。皆で5人6脚をするところ、剣術の稽古が体操になってしまうところ、あちこちに作者の平和へのメッセージが笑いと共に散りばめられてあった。
いつものように、蜷川のイメージの豊かさ、そして今回は特に音楽・音響も素晴らしい。9/11以降の世界において、復讐の連鎖を断ち切って欲しいという井上ひさしの最後のメッセージが心に響いた。
カーテンコールでは蜷川さんも出てきて、スタンディング・オベイション。でも、あれは、遠路ご苦労様でした、という観客のねぎらいという気がし、それほど楽しめていない人が多いのではないかと疑った。私は大変楽しい夜だったけど、強いて言えば、勝地涼に不満は無いものの、小栗旬に来て欲しかったな。
関心のある方もいると思うので、今のところ出ているイギリスの批評を紹介すると:
ガーディアン紙のMichael Billingtonは、もともと蜷川びいきで知られるが、今回も4つ星をつけ、"an extraordinary theatrical event"と絶賛。彼は、蜷川の演出だけでなく、井上ひさしの反軍国主義、平和主義のメッセージが効果的に伝えられたことに注目していて、大変ツボを押さえた批評である。
演劇サイトの"What's On Stage"のTheo Bosanquetは、☆3つ。ヴィジュアル・イメージや俳優の演技は楽しめたが、退屈に感じた時も多いようだった。
Times OnlineのSam Marloweも4つ星をつけて、大変褒めている("Alive with wit and beautiful to behold")。ただ、リビューの内容はどちらかというと紹介。
IndependentはMichael Churchで、5つ星の満点。"Never has this great director created such a serenely terrifying, Prospero-style spell, where lighting, music, and spectacle conspire first to frighten, then to steer us into a profoundly philosophical calm."と結んでいて、なるほど良い例えと思った。確かに、大変『テンペスト』的な劇と言えるだろう。
Evening StandardのFiona Mountfordは4つ星。ハリウッド映画にもできる素材で、西洋の観客にも楽しみやすい作品と書いている。
こうしてみると、大変好評だ。但、Billington以外はそれぞれの新聞のメインの書き手ではなく、2番手の批評家じゃないかな。
(追記)最後のところで、寺の石を投げて呪いが消えていくのだったと思うが、あの石、「結界石」って言うんですね。私は常識がなくて、そういうものがあるって知らなかったです。"London Love and Hate"というタイトルのブログで教えていただきました。今回、色々な方のブログを参考にして、自分が沢山大事なところや面白いところを見落としているのに気づきました。その後、新聞評を読んだり、"London Love and Hate"の守屋様のブログを読んだりして、私は静かすぎる感じがしたけれど、イギリス人観客も、伝わらないユーモアもあっても、全体としてはかなり楽しんでいたんだなと分かりました。
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おはようございます。ブログへのコメント、ありがとうございました。
返信削除コメディ・喜劇の類を字幕で理解するのは難しいでしょうね。でも、「ムサシ」自体は蜷川さんの演出もあって、言葉がわからなくても入り込めるように感じました。ロンドンの夕刊紙、イヴニング・スタンダードもかなりほめています。
守屋様、コメントありがとうございました。新聞評を見ても、イギリス人も大変楽しんでいたんですね。Yoshi
返信削除個性的なキャスティングなので、イギリスの観客を魅了したようですね。(ロンドンでは珍しく?)
返信削除藤原竜也さんは、上手いといえないけど、華があるし、一生懸命さが伝わって、いい俳優ですね。
ライオネル様、いつもコメントありがとうございます。またそちらへのコメントで勘違いのことを書いてしまい、すいませんでした。
返信削除そうですか。私はそう思ったことないですが、藤原竜也は下手なんですか。でも私は演技見る目がないから、よく分かりません。そう言えば、台詞は一本調子ですね。でも役者の演技って台詞だけではなく、体の使い方なんかもあるからなあ。次に彼を見る時、よく考えてみます。
他の日にいかれた方のブログでは、日本人が6、7割だったそうです。従って、「イギリスの観客」と言えるかどうか、わかりませんけれど。ただ、批評家は、結果的にとても褒めていて、意外でした。Yoshi