"Women Beware Women"
National Theatre公演
観劇日:2010.5.19 14:00-17:00
劇場:Olivier, National Theatre
演出:Marianne Elliott
脚本:Thomas Middleton
美術:Lez Brotherston
照明:Neil Austin
音響:Ian Dickinson for Autograph
音楽:Olly Fox
振付:Arthur Pita
衣装 監督:Bushy Westfallen
出演:
Samuel Barnett (Leantio, a modest factor)
Lauren O'Neill (Leantio's newly-wed wife)
Tilly Tremayne (Leantio's mother)
Harriet Walter (Livia, Isabella's aunt)
Raymond Coulthard (Hippolito, Livia's brother)
Vanessa Kirby (Isabella, Livia's & Hippolito's niece)
James Hayes (Fabritio, Isabella's father)
Andrew Woodall (Gardiano, a courtier & guardian of the Ward)
Harry Melling (The Ward, a simpleton, Guardiano's nephew)
Nick Blood (The Ward's servant)
Richard Lintern (Duke of Florence)
Chu Omambala (Cardinal. and the Duke's brother)
☆☆☆☆ / 5
John Websterの作品のような、典型的なスチュアート朝復讐悲劇である。Thomas Middletonの劇を始めて見る機会に恵まれ、幸運だった。キャラクターはWebsterの方が面白く感じたが、特に物欲をクローズアップしている点が面白い。女性が品物のように男達の間で、事実上売り買いされるのだが、その女性達が更に物欲や性欲にまみれていて、男の欲望に女の欲望が塗り重ねられる。『女達よ、同性に気をつけよ』というタイトルの所以である。
ストーリーは2つのプロットが同時進行し、それを繋ぐのが中心人物の、Harriet Walter演じるLiviaである。まず一方では、慎ましい勤め人のLeantioと彼と結婚したばかりの、身分の高い家の出身のBiancaがいる。Biancaは自分の新しい生活があまりに質素なのに、内心落胆している。そのBiancaにフィレンツェの侯爵が目をつけ、自分のものにしようとする。侯爵の意を迎えたいGuardianoと、彼に助力を依頼されたLiviaは何も知らないLeantioの母を使ってBiancaをLiviaの屋敷におびき寄せ、その母親とLiviaがチェスに興じている間に、別室でBiancaは侯爵にレイプされる。このシーンは、チェスとレイプが同時進行で描かれ、Liviaの動かすチェスのDukeと、彼女に手引きされた実際のDukeが皮肉に重なり合う。商用旅行から帰宅したLeantioはそれを知って半狂乱になるも、侯爵は彼に守備隊の隊長の役を与えると約束し、Leantioは妻と侯爵の関係を黙認することになる。Biancaも当初は嘆き悲しむが、やがて侯爵の愛人としての豊かな暮らしを進んで楽しむようになる。一方、侯爵に妻を奪われて呆然としているLeantioに、Liviaは突如大変引きつけられて、彼を激しく誘惑して自分の愛人とする。しかし、LeantioがBiancaに恨みを抱いているのを知って、侯爵は彼の殺害を画策する。
もうひとつのプロットでは、宮廷人Guardianoが自分のおいで、知恵足らずのWardをFabritioの美しい十代の娘Isabellaと結婚をさせようと、父親と話をつける。Wardはろくに結婚の意味も理解出来ない若者であり、Isabellaはうんざりするが、家長の決定には逆らえない。彼女の叔父のHippolitoはIsabellaに愛情を抱いていて彼がこのことをLiviaに打ち明けると、Liviaは二人の中を取り持つ手助けをする。IsabellaもHippolito相手に肉欲を満たすことに大いに満足し、この道ならぬ関係を続けるためにはWardと形だけの結婚をすることに喜んで同意する。
しかし、それぞれの人物は、自分の欲や策謀は棚に上げて、他の者からされた仕打ちには酷く腹を立て、恨みや羨望を抱き続け、それが、侯爵によるLeantio殺害の陰謀をきっかけにして、最後の幕で一気に爆発し、侯爵の兄弟のCardinalを除く全員が殺し合いを繰り広げるという結末になだれ込む。
最後のシーンでは、テキストでは侯爵と、前夫Leantioの死後まだほとんど月日も経たぬBiancaの結婚式が行われ、その出し物の仮面舞踏会の劇(マスク)を隠れ蓑にして殺害が次々と行われることになっている。今回の上演でも、大変スタイリスティックな舞踏と音楽の中で、次々と登場人物が剣や毒で倒れていく。どろどろと血が流れ、流血の惨状となるというような幕切れではなく、Marianne Eliottの演出のデザインは、やや抽象化された、一種の「死の舞踏」(dance macabre)である。黒子達が黒い天使の姿、即ち、悪魔の姿をして現れて、生きる罪人達の手を引いて死へと導くが、これは死の舞踏にアイデアを得たことを示しているだろう。かなりテキストがカットされているようで、私の印象では、演出家はスタイルにこだわりすぎて、最後の惨事のインパクトを軽くしてしまった気がし、やや不満。
ルネサンス・イタリア/イングランド風の衣装や場面設定にしたら充分濃密な雰囲気が出るとは思うが、演出家としては、それでは物足りないのだろう。セットや衣装は現代イタリア風である。しかし、光沢のある黒とそれに差し込む光を基調とした大がかりで豪華なセットと、物憂い退廃的な音楽で、ルネサンス風ではなくとも、十分に魅力的な舞台が出来上がった。回転舞台と音楽を使い、ストーリーをテンポ良く進行する。劇全体があたかもひとつの舞踏のように振り付けされてでもいるかのようであり、その最後が、上記の仮面舞踏会となってなめらかに幕を閉じる。ひとりひとりの役者よりも、その素晴らしいセット(Lez Brotherton)と音楽(Olly Fox)が主役のような印象である。
勿論National Theatreの俳優のアンサンブルは完璧である。各紙の劇評は、特にHarriet WaterのLiviaを絶賛していた。確かに彼女は、2つのプロットの鍵となる重要人物を巧みに演じている。しかし、私は、失礼ながら老人と言って良いHarriet WaterのLiviaが、若々しい、少年のようでさえあるSamuel BarnettのLeantioを愛人にするのはあまりに不自然に思えた。Lauren O'Neill(Bianca)とVanessa Kirby(Isabella)はまだ新人女優と言って良い人達だが、若さ故に自然に放つ身体の輝きが劇を美しく彩る。Richard Linternの傲慢で好色なDukeも説得力がある。Harry Melling演じるWardは、チューダー・インタールードで出てくる甘やかされた放蕩息子のタイプそのままだ。彼の召使いのSordido(小賢しい召使いのタイプ)と共に、古い演劇の伝統の名残りを感じさせた。
見終わって見ると、これまで他の復讐悲劇を見た時ほどの衝撃は感じなかったが、全体が一貫したスタイルで見事に統一されていて、その流麗な美しさが大変印象的な、Marianne Eliottの才気溢れる公演だった。
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初めて寄らせて頂きます、私もロンドン在住の芝居Loverです。
返信削除私は明後日観に行くのでどんなかな、と検索していました。
シェイクスピアもそうですが、演出で本当に大きく違いますね。私はミドルトンのようなドロドロ劇はドロドロなほうが好きなんですが・・・
カンタベリーにお住まいで中世を研究なんて素敵ですね。また寄らせていただきます。
まや様、
返信削除ご訪問、ありがとうございます。芝居好きで、ロンドンに住んでいると、天国ですね!
この公演、大変個性の強い、良く計算されたものでした。せっかくナショナルでやるのですから、演出家としては、ただオーソドックスなだけの演出は許されないでしょうね。きっと楽しまれると思います。ただ、私はシェイクスピアのように筋がほぼ頭に入っているのは良いですが、こういう見たこと無いのは台詞を追うのが大変でした。でもこちらにお住まいなので、英語の聞き取りは大丈夫なんでしょうね。
では今後もどうかよろしくお願いします。Yoshi