St Dunstan's Church, Canterbury
"Abraham & Isaac"
Friends of St Dunstan's Church公演
観劇日:2010.6.5 18:00-19:00 (講演を含む)
上演場所:St Dunstan's Church, Canterbury
演出:Ken Pickering
脚本:Ken Pickering (based on the Brome "Abraham and Issac"
美術:Helga Wood
制作:Dr Joanna Labon (School of Arts, University of Kent)
音楽:Kathryn Bennetts, Heather Greer
Sue Mullaley, John Perfect
出演:
John Binfield (God)
Alice Taylor (Angel)
Mark Bateson (Abraham)
Johnny Allain-Labon (Isaac)
Augustine Allain-Labon (a ram)
中世ミステリープレイの"Abraham & Isaac"をカンタベリーの教区教会、聖ダンスタン教会に見に行ってきた。最近まで私が住んでいたフラットから10分程度のところにあるが、今日ははるばるロンドンから出かけた。
主演のAbrahamを演じたのは、Dr Mark Bateson。カンタベリー大聖堂の図書館にあるケント州の公文書館の専門職員さんであり、ケント大学の非常勤講師でもある。私は2001年に古文書の書体学の授業で教わったことがある。今回の上演で使われたのは、Brome写本の"Abraham & Isaac"。これは、イースト・アングリア地方、サフォーク州にあるBrome Hallというところに保存されていた(今はアメリカにある)Brome写本に入っていた。このBrome写本は色々な文章を集めたCommonplace Bookと呼ばれる、謂わば書き物を何でも詰め込むスクラップ・ブックのような種類の写本だそうである。一方、St Dunstan's Churchの記録によると、1491年に"booke of Abraam and Isaacke"という本がこの教会にあったと言う(プログラムによる)。また、カンタベリーとBrome Hallには人的繋がりがあったそうで、そのいささか細い関係を縁に、この劇を上演することにしたようだ。もしかしたら、Brome "Abraham & Isaac"はカンタベリーで生まれたのかも知れない・・・。
"Abraham and Isaac"のお話は、旧約聖書のエピソードの中でも、カインとアベル、ノアの大洪水などと並び、日本人でも知っている人は多いかも知れない。神がAbrahamの信仰を試すために、愛する息子Isaacを生け贄に捧げることを命じるが、Abrahamが涙ながらにそれを実行しようという時に、神に命じられた天使が現れて、Abrahamに剣をおさめさせ、Abrahamは代わりに子羊を神に捧げることになる、というお話である。英語の中世劇でもポピュラーなエピソードで、6つのバージョンが残っている。
父が神に命じられたとは言え、我が子を殺すのであるから、非常にエモーショナルなエピソード。罪なくして殺されそうになるIsaacはキリストの予示(prefiguration)である。Brome版の"Abraham and Isaac"は他のバージョンに比べても、非常に強く感情に訴える作品として知られる。そこには居ない母親に何度も言及するのもその特徴のひとつ。今回の上演も、Bateson先生は大変感情を込めた表現をしておられた。しかし、Isaac役の男の子は台詞を言うのが精一杯で、二人の間にハーモニーが生まれなかったのはやや残念。もう少し年長の子を使えば良かったのでは無いかと思う。まあ、しかしそう言うあら探しを言うべき公演ではない。教会をいっぱいにした沢山の地元の人々の温かい視線に包まれた、楽しく和やかで、心温まる一時だった。
プロデューサーで、最初に解説もされたJoanna Labonさんは、ケント大学の英文科の先生だった。子役の二人は名前からしておそらく彼女の息子さん達だろう。
(追記)カンタベリーにミステリープレイがあった可能性について(劇のプログラムより、):
Who knows whether Christopher Marlowe saw such [mystery] plays when he was a Canterbury schoolboy? Perhaps, but no evidence remains of a cycle of plays here. However, one 'booke of Abraam and Isaacke' is recorded as having been placed in a wooden chest in St Dunstan's Church in 1491, by a guild connected with the church called 'The Schaft'. This 'booke' was mislaid, searched for and then found again – it is the inspiration for our play, Abaraham & Isaac.
ロンドンからはるばるこの劇を見に来た日本人若手研究者のsaebouさん(ブログのハンドルネーム)に教会でお会いした。豊富な知識と熱心さに感心させられた。
開演30分前のSt Dunstan内部です。青いシャツを着た方がAbrahamを演じられたDr Mark Batesonです。
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