2011/02/24

Alison Weir, "Lancaster and York: The War of the Roses" (1995; Vintage, 2009)

人物中心に語る薔薇戦争
Alison Weir, "Lancaster and York: The War of the Roses"
(1995; Vintage, 2009) 462 pages.



☆☆☆☆ / 5

薔薇戦争というと、私はシェイクスピアの一連の歴史劇を思い出すのだが、ヘンリー6世とか、彼の母親のマーガレットなど、カラフルなキャラクターが沢山いても、大変込み入っていて、分かりづらくなる。その薔薇戦争の通史。アカデミックな本ではなく、所謂"a popular history"であるが、歴史小説ではなく、学者が書いた本と言っても良い、かなり堅実な本であり、論文に引用したりは出来ないけれど、イングランド史の門外漢が、あまり苦労せずにこの戦争の概要を掴むのには都合の良い本かと思う。とは言え、大変細かい字でぎっしり活字を詰め込んでも462ページという長編。寝る前に少しずつ読んでいたから、段々それまで読んだところを忘れてしまう。それ程、薔薇戦争が入り組んでいると言うことかも知れない。この本で、特定の戦いとか、人物について、部分的に読んでも役立つだろう。

歴史を書くのには色々なやり方があると思う。20世紀後半、特に最後の四半世紀以降は、社会史に関する研究が歴史学の中心になった感があり、それに伴い、通史なども、政治の動きに加え、細かな社会的背景を述べることが多くなった。この本は、そうした昨今の本とは違い、あくまでも薔薇戦争の主役となった王侯貴族、とりわけ、Henry VI、Margaret of Anjou、そしてRichard, Duke of YorkやWarwick the Kingmakerなどのカラフルな人物を詳しく描き、戦争をこうした王族や大貴族の人格的な衝突の面からクローズアップしている。その筆致は大変精力的で、緊迫感が持続しており、架空の会話などを使って脚色していないにもかかわらず、まるで歴史小説のようにも読める。年代記などの同時代やチューダー期の第一次資料の証言を巧みに挿入していることで、そうした効果が高められている。

もうひとつ、この本の分かりやすい特徴としては、薔薇戦争を実際の戦闘の始まりから記述するのではなく、その源を詳しく書き込んでくれたこと。詰まるところ、薔薇戦争の種は、Edward IIIの長男Black Princeの息子がRichard IIになった後、Richardの家系から王が出ずに、Edward IIIの他の息子、3男のJohn of Gaunt, Duke of Lancaster(ランカスター家)と4男のEdmund Langley, Duke of York(ヨーク家)の系統から王が出るようになったことにある。長子相続に基づいて王となったRichard IIの悪政もあり、ランカスター家のHenry Bolingbrokeが王権を簒奪してHenry IVとなるわけだが、そこから王位継承を争う口実が生まれてきたわけである。Henry IVが、王位を略奪したことにより、その後、他の王位と血縁で繋がる者達にも、我こそは、という口実を与えてしまったわけだ。

社会史的な描写はほとんど無いので、戦争中の庶民の暮らしとか、当時の文化などについてはこの本ではほとんど分からない。しかし、その分、歴史を変えた王侯貴族中心の記述になっていて、作者の想像に基づいた脚色はないにもかかわらず、謂わばNHKの大河ドラマで戦国武将の争いを見ているようなドラマチックな雰囲気がかもし出されていて、飽きさせない。ネイティブ・スピーカーや、私より読解力があってかなり早く読める読者だと、相当に面白い本と言えるだろう。しかし、私の様にゆっくりとしか読めないと、読了するにはある程度辛抱は要った。

Alison Wierの本は、旧ブログでもう一冊感想を書いています:  'Katherine Swynford' (Vintage Books, 2008)。

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