2014/03/13

最後の審判の絵(カンタベリー大聖堂の写本から)

カンタベリー大聖堂のホームページには、”Picture This”というコーナーがあり、以前にも紹介した。このコーナーでは、大聖堂の図書館が所蔵する中世・近代初期の貴重な写本や刊本を取り上げて、写真付きで解説している。毎月1回更新されて、新しい写本や刊本が付け加わるので、私はそれを楽しみにしている。3月は、14世紀と15世紀の境目、1400年頃に出来た写本、Canterbury Cathedral H/L-3-2、から取られた1枚の彩色挿絵が取り上げられている。

この本は時祷書(A book of hours)。時祷(時課とも言われる)は、カトリック教会や正教会で一日の決まった時間に日課として唱えることを定められた祈り。これらは、朝課(matins, 3 am)、賛歌(lauds, 6 am)、一時課(prime, 9am)、三時課(terce, noon)、六時課(sext, 3 pm)、九時課(nones, 6 pm)、晩課(vespers, 9 pm)、終課(compline, midnight)である。その祈りを記した本がヨーロッパ中世においては、数多く作られた。それらはしばしば素晴らしい挿絵で装飾された豪華本であり、おそらくその中でも最も有名な本が、ランブール兄弟による『ベリー公の豪華時祷書』Les Très Riches Heures du Duc de Berry)だろう。

時祷書は、これらの時祷において唱える祈りを記した本。旧約聖書の雅歌、詩篇、聖者伝の一節、主の祈り、その他が、唱えられる。

さて、今回、カンタベリー大聖堂のホームページで紹介されている本は、『ベリー公の時祷書』のような豪華な本ではないが、それでも随分手が込んだ本だ。サイズは9x7センチとかなり小さい。20枚の彩色挿絵が綴じ込まれており、ホームページで見せてくれたのは、そのうち、「最後の審判」(The Last Judgment)を描いた1枚。頁の挿絵をクリックすると大きくなり、更にカーソルを合わせるとその部分のみが拡大されるので、大きくして見て欲しい。

ご存じのように、「最後の審判」はキリストの死後、復活してまた昇天した後、もう一度、今度は全ての魂を裁いて、永久に地獄と天国に行くよう振り分けるという神による裁判である。この日は、The Doomsday(審判の日)と呼ばれる。これは既に起こったことではなく、これからの未来の出来事であり、(もしそれを信ずるならば)今この地上で生きている我々にとっても大変重要な出来事となる。絵のデザインは、ご覧になれば分かるように、中央に紅の服をまとい、上半身は裸のキリストが描かれている。両手や脇腹に、磔刑の折につけられた傷口が見える。彼の足下にあるのは地球であり、彼が世界の支配者であることを示す。キリストが座っていると考えられる玉座は、伝統的な虹。下にいてキリストを見上げるのは、既に死んだ魂。彼らは最後の審判に出るために、地中からよみがえって来た。これらの魂は、彼らの弱さを示すため、主として裸体で描かれるそうだが、2人は未だに白い死に装束を身に着けている。右から2人目は剃髪をしているので修道士だ。キリストの上に飛んでいるのは2人の天使。左には聖母マリア、右は福音者のヨハネ。マリアとヨハネを左右に描くのは、キリスト磔刑図の決まったデザインでもあるので、この写本の中世の読者は、この絵を見ながら、キリストの磔刑も直ぐに頭に浮かんだことだろう。つまり、キリストが人間の犯した罪の為に払った犠牲と、我々が死後の魂として将来受けなければいけない裁きを常に胸に刻みつつ、祈り、これからの人生を生きよ、というメッセージであろう。

多くの最後の審判の図では、これらの人物に加え、大天使ミカエル(Archangel Michael)が描かれるそうだ。彼は、秤を持ってキリストの裁きの助手を務める。また、その他の聖者が描かれることもある。こちらは、フランドルのロヒール・ファン・デル・ウェイデン( Rogier van der Weyden, 1400?-1464)の「最後の審判」の祭壇画だが、中央で秤を持っているのが大天使ミカエル。

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