2014/03/05

"-chester"と"-caster"についてもう一度

前々回から “-chester” と “-caster” のバリエーションについて考えているが、もう一度その続き。

“-chester” という語は古英語の辞書の見出しは “ceaster”であるが、これは古英語のスタンダードとなったウエスト・サクソン方言(イングランド南西部)で、口蓋音(palatal)の「チ」(入力の便宜上カタカナで代用)の後、母音が割れた(breaking)からだろう。元々は、そして他の地域では、”cæster”となるはずで、実際、トロント大学のDictionary of Old English Corpusにはかなりこの綴りで出ている。但、語頭の”c-“が口蓋化せず、”caster”(カスター)という語は無いか検索したら、見つからなかった。しかし、”caster”という例が残ってないにしても、中英語の”Lancaster”等から見て、そういう発音が古英語期にもあったのではないか。Fernand Mosséは、Handbook of Middle Englishで次の様に書いている:

The varieties of pronunciation which were produced in OE after a palatal consonant . . . before “æ” and “e” long and short are reflected in ME.  . . .  corresponding to OE “ceaster”, “caster”, “cester”, we find ME place-names in “-chester”(Manchester, Dorcheser, Lanchester) and “-caster” (Doncaster, Lancaster) . . . . (p. 26)※
確かにウエスト・サクソン綴りの"ceaster"ではなく、"cester"、及び、地名の "-cester" はかなり例がある("Exancester", "Ligcester") 。古英語の"æ"はケント方言とマーシア(中部)の一部の方言で、"e"となるので、その為か。但、Mosséの文によるとまるで 古英語の”caster”の例があるように見えるが見つからない。

より専門的になるが、ドイツの言語学者Richard JordanはHandbook of Middle English Grammar: Phonology, trans. Eugene J. Crook  (The Hague: Mouton, 1974) において次の様に説明している:

In “yet” (gate) . . . “e” is to be explained rather from position between palatal and dental as in “chester” (city) (Ormulum “chesstre” here instead of the expected “*chastre” < undiphthongized “cæster”) . . . . (p. 104)

The “caster” forms < OE ‘cæster” in which “c” was not assibilated before “æ”. In south Lancashire “chester” may be a relic of OE Mercian “cester”. The distribution of “caster” / “chester” then reflects a subdivision of Northumbrian into northern and southern Northumbrian. (p. 105)

ということは、同じ”-chester”の地名でも、地域によってその由来は違うと言う事だろうか?

ところで、ミシガン大学のMiddle English Dictionaryで”chester”を捜してみると、”chestre” という見出しで出ているが、1200年頃のテキスト、”Ormulum” だけと言って良い。その他は古英語の写本と言っても良い古英語から中英語への過渡期のテキストからの例になっている。但、地名の”Chester”と”Chestershire”はかなり出てくる。Oxford English Dictionaryでは"Ormulum"以降では近代の例があるが、それらは、人工的に古風な用語を使ってみたというarchaismだろう。

一方、"chester"が消える13世紀にはフランス語から"city"が借用される。また、古英語からのほぼ同意味の語として、"borough" ("byrig", "burh"その他の綴りで)が今も使い続けられている。

私の手に負えない(笑)このトピック、もうこれで終わりとします。

※ 上のMosséからの引用に"Lanchester"という地名があるが、"Lancaster"を私がタイプミスしたのだろうと思われるかも知れないが、原文通り。LanchesterはCounty Durhamの村だそうだ。ダラムから8マイルほどのところにあり、County Durhamの北部に位置する。人口は4000人ほど。ローマ時代には既に砦 (an auxiliary fort)  があったので、この"-chester"がついた地名もなるほど、とうなずける。

更に余談だが、現代作家でJohn Lanchesterという人がいる。近作の Capital (2012) はロンドンに住む色々な人物の生活を同時進行で描いてあの大都会の魅力を浮き彫りにしようという作品で、ロンドンの好きな私には大変面楽しめた(何故かブログに感想を書きそびれたかな)。ロンドンに関心のある方にはお勧めしたい作品。

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