2010/09/21

『トロイアの女たち』(文学座アトリエ、2010.9.20 14:00-15:40)

真面目な公演、しかし物足りない。
『トロイアの女たち』 
文学座公演
観劇日: 2010.9.20  14:00-1
劇場: 文学座アトリエ

演出: 松本祐子
原作: エウリピデス
美術: 山形治江
衣装: 宮本宣子
照明: 金英秀
音楽・音響:熊野大輔
制作: 伊藤正道

出演:
倉野章子 (ヘカペ)
吉野実紗 (カッサンドラ)
松岡依都美 (ヘレネ)
石田圭祐 (メラネオス)
塩田朋子 (アンドロマケ)
坂口芳貞 (タルテュビオス)
奥山美代子 (コロス)
藤堂陽子 (コロス)
山本道子(コロス)

☆☆☆ / 5

先日のセゾン劇場における『イリアス』に続くギリシャもの。但、今回はエウリピデスの翻訳をそのまま使ったギリシャ悲劇の上演である。粗筋は末尾に。

ギリシャ悲劇はかなり好きなので、ちゃんと台詞を生かした上演をしていただけただけで、かなり満足した。俳優さんも皆しっかりした訓練を受けていると思うので、台詞もよく分かり、説得力もある。エウリペデスのこの劇は、時代を超えて戦争の残虐に苦しむ女性のことを考えさせる傑作だと痛感した。2007年の秋冬のシーズンには、National TheatreでKatie Mitchell演出で上演され、大好評を博したようだ。残念ながら、私は留学以前で、見ていない。

先日ル・テアトル銀座で見た『イリアス』と比べ、飾り気のないスタジオで、スターも出ず、お金もかかってない公演だが、遙かに満足でき、行った甲斐があった。

一方で、今回の公演、資金とか会場に制約は多いかと思うが、それを考えても不満が幾つかある。台本の面白さで見せてくれるが、どうも単調で、引き込まれない。頭では興味を持って見ているのだが、感動できない。ヘカベの倉野章子以下、手堅い台詞回しだが、演劇学校の先生から手本を見せていただいているような感じと言ったら良いだろうか。コロスの俳優の中には、その人が台詞を言うと一瞬白ける生硬さを感じる人もいた。台詞を大事に言っているな、といちいち観客に意識させるような演技は、台詞が良く聞こえなくて耳をすまさざるを得ないような演技と紙一重ではなかろうか。 また、戦争に叩きのめされた女性達だから、体型は失礼ながら、やや痩せた人で揃えて欲しい。文学座は年中公演をしているのだから、そうでない身体の人を活かせる劇もあるはず。俳優は、演技の巧さだけでなく、身体性がキャストを選ぶ時の大前提と思う。ヘレネは非常に大事な役だが、神々を引きつける高貴さが感じられない。他の役をやった方の中に適役がいたように思う。また、ギリシャの使者で、ギリシャの権威を代表するタルテュビオス(坂口芳貞)がひどく軽いのも、納得できなかった。

台詞を聞かせることに重きを置いている上演と感じたので、それだけ俳優に注文をつけてしまい、それぞれ熱演しておられる俳優さん達には申し訳ない気もするのだが、逆に見れば、それ以外のドキッとするような工夫、意表を突かれるようなビジュアルや音響での驚きがなかったということだろう。

山形治江訳は、わかりやすく、言いやすい日本語だが、詩的味わい、あるいは様式的美に欠けていて、ギリシャ悲劇の訳文としては、私には物足りない。ヘカベなど王族の言葉は、「だ、である」体ではなく、「です、ます」体にして欲しいと思った。

若い人に偏らず、年齢が様々の俳優が出ているのは、新劇劇団らしく良かった。また、女性がこれだけ活躍できる演目も珍しく、好印象。観客もあまり高齢化しておらず、老若男女、色々は人が混じっていて、文学座はまだまだ活気があると感じた。ただ、堅実で伝統を守る公演もあってよいが、イギリスで言えば、Rupert Gooldの演出作品に行った時に感じるように、お馴染みの観客をギョッとさせ、彼らの期待を裏切り、新劇劇団の枠をたたき壊すようなこともやって欲しい。

アフガニスタンやイラクの戦争やテロで今も毎日のように死者が出ている現在の世界である。直接結びつけなくとも、この劇の現代的な意義を否応なく感じさせるような演出はできなかったものか?

粗筋(文学座ホームページから引用):
紀元前、ギリシャとの苛酷な戦争は終わった。
トロイアはスパルタ王メネラウスの軍門に下った。ギリシャ軍の天幕の中には捕虜となった敗軍トロイアの女たちが収容されていた。その中に王妃ヘカベの姿もあった。女たちには奴隷としての運命が待ち受けている。ヘカベの娘カッサンドラ、予言者として評判の高かったカッサンドラも連れ去られて行く。さらに、ヘカベの息子ヘクトルの未亡人アンドラマケとその息子アスティアヌス。幼いアスティアヌスには死が宣告された。夫、息子、娘、そして孫までも・・・。ヘカベの憎しみはヘレネに向けられた。この苛酷な戦いは、ヘレネにその原因があった。メネラウスの后であったへレネは、なんとトロイア王プリアムの息子パリスと駆け落ちしたのである。そして今、のうのうとメネラウスの元に戻ろうとするヘレネ。ヘレネを殺すよう懇願するヘカベ。そこへ孫アスティアヌスの亡骸が・・・。メネラウスはヘレネの要求を拒み、祖国へヘレネを連れ去った。全ての希望を奪い去られたヘカベ。この時、すさまじい音とともに城壁が崩れ落ちた。あとはただ、隷属の日々の待ち受ける敵国へ向かうだけであった。


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