2010/08/25

"Danton's Death" (National Theatre, 2010.8.22)

フランス革命後の恐怖政治を描く
"Danton's Death"

National Theatre公演
観劇日:2010.8.22 15:00-16:55
劇場:Olivier, National Theatre

演出:Michael Grandage
脚本:Howard Brenton
原作:Georg Büchner
セット:Christopher Oram
照明:Paule Constable
音響、音楽:Adam Cork
衣装:Stephanie Arditti

出演:
Danton's friends:
Toby Stephens (Georges Danton)
Ashley Zhangazha (Legendre)
Barnaby Kay (Camille Desmoulins)
Gwilym Lee (Lacrois)
Max Bennett (Hérault-Sechelles)

Kirsty Bushell (Julie, Danton's wife)
Rebecca O'Mara (Lucile, Desmoulin's wife)
Eleanor Matsuura (Marion, a prostitute)

Members of the Committee of Public Safety:
Elliot Levey (Robespierre)
Alec Newman (Saint-Just)
Phillip Joseph (Barère)
Chu Omambala (Coolt d'Herbois)

☆☆☆☆ / 5

1835年に出版されたGeorg Büchnerによるフランス革命を扱ったドイツ語の古典的戯曲を、Howard Brenton ("The Romans in Britain"などの著名な劇作家)が翻訳した。1982年にもNational TheatreでPeter Gillの演出で上演されているそうだ。緊迫した台詞劇で、クラシックな歴史劇。私の最も好きなタイプの作品であり、個人的には大変楽しめた。ハンサムでカリスマもあり、芸達者なToby Stephensの熱演も大いに楽しめる。彼のファンには見逃せない公演。

場面設定は、フランス革命後の共和制が段々と恐怖政治に化している時代のパリ。Dantonは、時には売春宿に、時には妻と仲むつまじく、快楽主義的な暮らしを楽しんでいるが、彼の友人のDesmoulinsやLegendreらは、RobespierreやSaint-Justら、Dantonを良く思わない、教条主義的な革命家達の魔の手が革命の英雄Dantonにも及ぶのではないか、と恐れて彼に警告を発している。しかし、Dantonはなかなかそれを本気にしない。Dantonは、Robespierreらが推し進める恐怖政治で次々と市民が処刑されているのに異を唱え、このような状況をやめさせようとRobespierreを説得するが、相手は聞く耳を持たないどころか、Dantonを反革命分子として、裁判にかけ、弾劾することになる。裁判の最初はDantonも発言を許され、その弁舌で陪審員や傍聴者を自分に引き寄せるが、それを嫌ったRobespierreやSaint-JustはDantonらの出席を許さなくなり、また最初から有罪判決を出すのが明白な陪審員を選んで、被告の欠席のまま、死刑の判決が降りる・・・。

Toby StephensのDantonは、豪放磊落な、大変人間くさい革命家。激しく弁舌をふるう一方で、時には過去の自分の行為を後悔し、時には革命の全てを虚しい営みと見て、諦観とともに振り返ったりもする。妻のJulieや売春婦のMarionとのひと時に、特に彼らしい優しさがにじみ出る。

対照的なのが、極めて教条的な革命家のRobespierreとSaint-Just。しかし、BüchnerとBrentonの描くRobespierreは、その潔癖症や頑固な倫理観に、否定的なニュアンスではあるが一種の人間くささが表現され、説得力あるキャラクターになっている。また、RobespierreとDantonはつい最近までは革命の同志として共に苦労した者達であり、Robespierreは旧友を処刑する事への逡巡もかなりある。微妙なニュアンスを含んだ表情と共にRobespierreを演じたElliot Leveyはこの公演一番の名演だろう。そうして躊躇するRobespierreを犬のように吠えて急き立て、群衆を扇動して一気に処刑へと裁判を動かしていくのが、Alec Newman演じるSaint-Justであり、彼のけたたましい弁論も迫力充分。

最後の処刑場のシーンは、あまりにもリアルというか、サーカスのマジックのようで、狐につままれた想いがした。

巨大なオリヴィエのステージに、簡素でクラシックな雰囲気の裁判の場や牢獄がしつらえられるが、この劇にはオリヴィエはちょっと大きすぎ。Lytteltonのほうが良かっただろう。しかし、照明や上方のバルコニーなどを効果的に使い、広いステージを十分に利用しようと工夫されていた。

強いて言えば、これは原作の問題ではあるが、この恐怖政治の時代のエピソードに至る前段がもう少し盛り込まれていると、もっと面白いと思う。この戯曲では、フランス革命についてある程度の予備知識が無いと、唐突に始まるという印象を持つかも知れない。しかし、19世紀初頭に生きたBüchnerにとっては、1789年に勃発したフランス革命は、まだごく最近の出来事だったのだ。Michael Billingtonは、1982年のPeter Gillの公演と比べて、今回は群衆シーンがカットされてしまったことを残念がっていたが、その古い公演を見ていない私としては、今回の公演だけで充分に楽しめた。


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2 件のコメント:

  1. Yoshiさん、こんばんは。
    星4つ♪ 楽しまれたようで良かったですね。

    わたしもロベスピエールの演技がすごいと思いました。

    トビー・スティーヴンスは人間的にスケールの大きい人物を熱演していましたよね。ファンの欲目もありますが。

    こういう骨太な政治劇も、面白いものですね。

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  2. ろきさん、こんにちは。コメントありがとうございます。ろきさんもご覧になったのですね。スティーブンス、お好きだったですね。この劇は、そんなに複雑さはないのですが、シンプルな劇なので、俳優の台詞のデリバリーの素晴らしさで楽しませてくれました。こういう劇になると、俳優の実力が目立ちます。Yoshi

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