2010/08/24

"King Lear" (Royal Shakespeare Company, 2010.8.20)

力強いリア王とファンタジックなフール
"King Lear"

Royal Shakespeare Company公演
観劇日:2010.8.20  19:15-22:45
劇場:The Courtyard Theatre, Stratford-upon-Avon

演出:David Farr
脚本:William Shakespeare
セット:Jon Bausor
照明:Jon Clark
音響:Christopher Shutt
音楽:Keith Clouston
ムーヴメント:Ann Yee
衣装:Carrie Bayliss

出演:
Greg Hicks (King Lear)
Kathryn Hunter (Fool)
Kelly Hunter (Goneril, the eldest daughter)
Katy Stephens (Regan)
Samantha Young (Cordelia)
John Mackay (Duke of Albany, Goneril's husband)
Clarence Smith (Duke of Cornwall, Regan's husband)
Darrell D'Sylva (Earl of Kent)
Geoffrey Freshwater (Earl of Gloucester)
Charles Aitken (Edmund, Poor Tom)
Tunji Kasim (Edgar)
James Tucker (Oswald, Goneril's stward)

☆☆☆☆ / 5

私にとっては、この公演はリアとフールの劇だった。『リア王』には、他にも、三姉妹、Edgar (Tom)やEdmund、Gloucester、Kentなど注目すべきキャラクターが沢山出るが、Kathryn Hunterのフールは特に目立っていた。彼女の演じるフールは小さくて、中性的で、身軽だ。男とも女とも、大人とも子供とも言えない不思議な存在。時には子犬のように、時には妖精のように背景を動き回る。他の人物が熱弁をふるっている時も、その台詞には関係なく、人間の理屈とは別の世界に住む動物のように、背景をそろそろと動いていて、面白くて目が離せない。嵐の始まったシーンでは、背景に組まれた鉄骨の廃墟の上に登って、あちこちで彼女のシルエットがのぞくのだが、その時頭に被った道化の帽子のために、まるで小さな悪魔の頭のようにも見える。

Greg Hicks演じるリアはオーソドックスな演技だと思う。リアをやる人は、ある程度歳をとっている必要があるが、彼はリアとしてはまだ若いので、かなりの迫力で、台詞も動きもパワー充分。強いて言えば、元気が良すぎ、深みが足りなかったかもしれない。前半娘達に対して怒り狂ったり、嵐のシーンは迫力充分。しかし、最後に力尽きて死んでいくところは、例えばナイジェル・ホーソンが見せたような、生きる意思を使い果たして自然と息絶える、という感じではなく、苦悶の中でもがきつつ死んでいくような印象であった。

この『リア王』で全体的にどうも影が薄いのは、Gloucester親子3人のエピソード。同じ時に見た他の方も言っていたが、EdgarとEdmundが冴えない。特にEdmundが若すぎて、ReganやGonerilを魅了する年齢とは思えなかったし、悪の魅力と言ったものに乏しい。また、Tomのひとり芝居の場面は、どうもキリストの磔刑になぞらえているような振付だったが、空回りして退屈だったし、盲目のGloucesterとのやり取りも充分哀れみを誘わなかった。

David FarrとJon Bausorが設定したセットは、戦争の後の廃墟のような荒れ果てた場所。全体的に黙示録的な雰囲気。聞いたところではFarrはこういうセットを作ることが大変多いそうだ。しかし、現代ではこういうセットは色々な劇で使われるので(最近では"Salome")、いささか陳腐にも見えた。しかし、嵐の場面では大変効果的で、Kathryn Hunterがリアが荒れ狂っている間、その廃墟を飛び回っていたのが記憶に生々しい。

全体としては、HicksとHunterが圧倒的に目立つ、かなり楽しめた公演だった。



「日本ブログ村」のランキングに参加しています。よろしければクリックをお願いします。

にほんブログ村 演劇ブログ 演劇(観劇)へ
にほんブログ村

2 件のコメント:

  1. RSC三昧、素敵ですねえ!

    女性のフールは見たことがありません。
    味のある演技だったようですね。
    冬にロンドンに来るのかな?見てみたいです。
    でもエドモンドがだめなのはちょっと~(笑)。

    それにしても日替りでクレオパトラからフールなど、全然違う人間になってしまう役者さんたちはすごい。

    返信削除
  2. ろきさん、コメントありがとうございます。

    この『リア王』ロンドンに来るそうです。もうインターネットで買えるかも知れません。私ももう一度見たい気もしています。

    Kathryn Hunterは天才的俳優ですね。Yoshi

    返信削除