2010/10/27

"Or You Could Kiss Me" (Cottesloe, National Theatre, 2010.10.26)

リアリスティックな人形劇の試み
"Or You Could Kiss Me"



Handspring Puppet Company公演
観劇日:2010.10.26  19:30-21:10 (no interval)
劇場:Cottesloe, National Theatre

演出:Neil Bartlett
脚本:Neil Bartlett
セット:Rae Smith
照明:Chris Davey
音響:Christopher Shutt
音楽:Marcus Tilt
人形のデザイン:Adrian Kohler

出演:
Basil Jones
Adrian Kohler
Adjoa Andoh
Finn Caldwell
Craig Leo
Tommy Luther
Mervyn Millar
Marcus Tilt
(Adjoa Andohが狂言回し的役割、他の人は人形遣いであるが、同時に台詞も言い、人形とは独立した人物として演技をすることもある。)

☆☆☆/ 5

National Theatreで大好評を博し、ウエストエンドにトランスファーして未だにロングランをしている"War Horse"を作ったのが、Basil JonesとAdrian Kohlerのペアが率いるHandspring Puppet Companyである(私は"War Horse"は見ていない)。日本の文楽は別として、欧米の人形劇というと、子供向けだったり、そのことと少し関係があるが、内容がファンタジックなおとぎ話や昔話であったりすることが多いのではないか。また、"War Horse"のように、動物、あるいは空想上の人や生き物であることも多いだろう。そういう作風からは離れて、この作品はリアリスティックな現代の大人の人生を題材に選んでいる。主人公の2人は、前半生はJonesとKohlerの自伝的要素に基づいているようで、南アフリカ共和国に住むゲイ・カップルである。主な時代と状況は、2030年代、つまり未来、このカップル、Mr AとMr B、のうちBが肺気腫になって命が危なくなって、病院に入院し、致命的病気であると宣告され、病院から追い出されて自宅に戻り、Aに介護をされる。その間、彼らが出会って恋に落ちた60年程前の若き日の想い出がフラッシュバックで挿入される。命が段々枯れていく2人と、今まさに若さの真っ盛りという2人のコントラストが切ない。黒い舞台に浮かび上がる精巧な人形の精密な動き。リアリスティックでありながら、人形であるが故に幻想的でもある。リアリティーのあるアニメのような感じか。あるいは白黒の写真のスライド・ショーをみているようでもあった。

人形は非常に良くできており、かなりリアリステック。動くマネキンと言っても良い。大きさも生身の人間の7、8割くらいの大きさである。しかもお年寄りの人形では、しわとか背中の曲がり具合とか、顔の皮膚が下がっていることとか、そういう事まで丁寧に作ってある。老人のペニスや睾丸も生々しく見えている。セックスも表現される。大体において、ひとつの人形を3人で動かしていた。

生死に関わる大変シリアスな物語であるが、残念ながらかなり退屈だった。私の感情を動かしてくれない。劇評や他の観客の感想もあまりかんばしくない。それは人形劇だから、というより、脚本に力が無いからではないか、あるいは、脚本が人形を見せることを優先して書かれているためではないか、という印象を持った。人形劇でも、かなりシリアスな素材を扱えるのは、文楽を見れば明らか。人形だから出来、人間では出来ない事や、その逆の事を考慮しつつも、人間がやっても人形がやっても、大きな説得力を持てるテキストを使う事が重要ではないかと感じた。

とは言え、人形も人形遣いの技術も素晴らしかった。貴重な試みであり、今後もこうした劇が上演されることを望みたい。

(追記)劇とは直接関係ないが、老齢と病が主題の作品で、そろそろ初老を迎えている私としても、切実な内容だった。私自身、以前は何気なくやっていた日常的な事が出来なくなったり、後で身体が痛んだりする、ごく簡単な作業や外出でも驚くほど疲れる、そういうことが多くなった。例えば先日までの様に、一旦体調を壊すとなかなか戻ってくれない。日常生活も結構大変になってきたなあ。

劇中のゲイ・カップルのいたわり合いが大変印象的。ロンドンの街で見るゲイのカップル、特に年配の人達のむつまじさは、異性のカップルに増して強く細やかな愛情で結ばれているように見えることが多い。彼らは社会的に多くの苦労を乗り越えて来たから、そして結婚という社会制度で縛られることがないので、2人の愛情が唯一の絆であるためだろうか。翻って、自分の性的アイデンティティーを明らかに出来ない日本のほとんどのゲイの人達の不幸も思わざるを得ない。色々困った問題があっても、マイノリティーの人々への寛容度ではイギリスは素晴らしく、日本はかなり閉ざされた国だと感じる。


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