2011/01/06

"Hamlet" (Olivier, National Theatre, 2011.1.3)

工夫に溢れたディテールと素晴らしいKinnearの主人公
"Hamlet"

National Theatre公演
観劇日:2011.1.3   18:00-21:35
劇場:Olivier, National Theatre

演出:Nicholas Hytner
脚本:William Shakespeare
セット:Vicki Mortimer
照明:Jon Clark
音響:Paul Groothuis
音楽:Alex Baranowski
振付:Fin Walker
衣装:Lynette Mauro

出演:
Rory Kinnear (Hamlet)
James Laurenson (Ghost of Hamlet's father / Player King)
Patrick Malahide (Claudius)
Clare Higgins (Gertrude)
Ruth Negga (Ophelia)
Alex Laipehum (Laertes)
David Calder (Polonius)
Giles Terera (Horatio)
Ferdinand Kingsley (Rosencrantz)
Prasanna Puwanarajah (Guildestern)
Nick Sampson (Osric, a courtier)
Jake Fairbrother (Fortinbras, Norwegian prince)
Matthew Barker (a Norwegian captain)
Marcus Cunnigham (Marcellus, a guard of the castle)
James Pearse (Voltemand, a Danish ambassador to Norway)
Mochael Peavoy (Barnardo)
Saskia Portway (Player Queen)
Victor Power (Raynaldo, Polonius's man)
Michael Sheldon (English Ambassador / Lucianus)
Leo Staar (Priest)
Zara Tempest-Walters (a messenger)

☆☆☆☆ / 5

大きな期待を持って出かけたNicholas Hytner演出、Rory Kinnear主演の"Hamlet"。期待したほどではなかったというのが正直な感想。しかし、色々と面白いディテールがあり、また、Kinnearは才能ある役者であることを証明する演技を見せてくれた。

(以下、劇のディテールをかなり書いているので、これから見る方はくれぐれもご注意! Be warned! )

地味なスーツや無彩色のカジュアル・ウェアといった現代服による公演。白っぽい、自在に移動可能の壁に青白い照明があてられた舞台。この壁を動かして、宮廷の大広間やら、Hamlet、Gertrude、Claudius等の私室などを柔軟に作り上げる、工夫に満ちたセット(Viki Mortimer)。そのモノクロームのセットに豊かな表情を与えてくれる照明も大変巧みに使われていた(Jon Clark)。政治的なドラマで最も才能を発揮するNicholas Hytnerは、今回、現代の全体主義的な国を下敷きにしているように見える。机に置かれたパソコンの古めかしい大きなモニターなどから、10年か20年前に起きた事のようにも見えるが、一方で、背がやや低くてコンパクトな体型で、頭の禿げたClaudiusが妙にプーチンに似ているのは偶然か、意図的か・・・。

宮廷の主な人々には、王や王妃、王子は勿論、Polonius親子に至るまで、常に警備員(シークレット・サービス、諜報部員とも取れる)が影の様に付きそい、警護し、かつ監視している。彼らは耳にイヤホンを入れ、手元のマイクでどこかに常時連絡を取っている。王に批判的な芝居を打った旅芸人達は、上演後に彼らに逮捕される。Opheliaも彼らに連行されて消えてしまうので、彼女も国家権力とそれを操るClaudiusにより闇に葬られたのであろう。Claudiusが台詞を言う時は、しばしば照明のライトが前に置かれ、写真を取ったり、テレビ・カメラで放送したりして、オフィシャルな情報を流す試みがされる。最後にFortinbrasが演説する時も同様である。OpheliaがHamletと話して、それをPoloniusとClaudiusが盗み聴くシーンでは、ドアの陰から聴くのではなく、Opheliaが持っていった本に盗聴器を仕掛けて、盗聴するというしかけ。

Poloniusは如何にも官僚然としている。彼の仕事机はパソコンと書類の山。OpheliaがHamletの事を父に報告するシーンでは、直ぐにペンと紙を取り出してメモ。Claudiusには、警備スタッフに加えて、常にカチッとしたスーツを着てスケジュール帳らしきものを持った秘書の女性が付きそう。王と言うより、大統領である。

先王の幽霊は、うらぶれたレーンコートを着ただけで、何気なく舞台の奥の壁の間から登場。普通の老人だが、照明が巧みに使われ、幽霊だと分かる。先王とPlayer King役のJames Laurensonは声も良く、verse speakingも鮮やかな古典的演技で、見応え、聞き応えがあり、特に変わった仕掛けのない幽霊のシーンだが、出色だ。なお、Player Kingを先王と同じ役者が演じるのは良くあるが、今回更に、劇中劇の中で王を毒殺するLuciusを演じた役者とClaudius役のPatrick Malahideが背格好などよく似ていて、意図的なキャスティングではないかと思わせた。ちなみに、劇中劇が始まる前、Claudius始め、観客達の前を、劇団員のひとりが鏡をかざして一周するのはご愛敬。

RosencrantzとGuildesternは、まさにお仕着せのご学友、という役柄が良く出ていた。

全体主義の警察国家での出来事という設定であるが、登場人物の造形は、肩の力を抜いた演出や演技、我々の身近で見られる人々、という印象である。特にPoloniusとOphelia、Laertesの親子はそう感じた。Opheliaが発狂して花束を配るシーンでは、籠に入った花ではなく、スーパーマーケットのカートを押して出て来て、新聞紙のような紙にくるんだ縫いぐるみ(?)を配って歩く。しかし、そうした人物造形があまりに普通すぎて、悲劇"Hamlet"を見たい私としては、肩すかしを食った感じで、つまらない。Claudius役のPatrick Malahideはどうも焦点の定まらない役作り。王と言うより政治家として演じられているが、それ程腹黒いと言う感じも、逆に罪の意識に苦しんでいるようにも見えない。ベテランClare HigginsのGertrudeは、罪の意識にさいなまれ、傍にウィスキーのグラスをおいている(アルコール中毒という設定か?)。しかし、あまり印象ははっきりしない。ということで、私の目から見ると脇役陣がやや目立たないというか、印象が薄い。もっと徹底的に、暗黒の全体主義国家とそこを支配する冷血な政治家とするとか、如何にもプーチンのロシアを意識するとかしてみたら、面白い気がしたが。

Rory Kinnear演じるHamletは、声が大変良く、なめらかな台詞回し。言葉をひとつひとつ大事にし、細部まで切れよく発音できるのは、天賦の才能だろう。台詞のテンポや強弱を自在に、まるで楽器を演奏するように変えつつ、指揮者のように観客の反応の波動をつかむことが出来る。そういう意味で、Simon Russell-Bealeを思わせる。しかし彼の場合、頻繁に見せる鋭い上目遣いの眼光、急激な表情の変化など、油断ならない人間を演じるのが上手い。根本的には善人であるHamletよりも、むしろ裏表のコントラストが激しい悪役の方が、より一層面白い演技が出来る気がした。また、公演全体の意図からして、普段着のHamletであるので、モノローグにおける荘重さ、哲学的深遠さなどには乏しい。タイプは違うが、David TennantのHamletに似た面がある。とは言え、大変素晴らしいHamletと言えるだろう。

演出の工夫に慣れてきた後半は、OpheliaやLaertesに魅力が感じられず、時々退屈に感じた。また、3時間半近くの上演時間で、台詞のカットがほとんど無いのだろうが、もう少しカットして、スピーディーにして良いのではないか。色々と面白いディテールとKinnearの演技で楽しめたが、期待が大きかっただけに、残念な面もある公演だった。


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