2011/01/09

"An Ideal Husband" (Vaudeville Theatre, 2011.1.4)

最高に楽しくて、しかも人生のお勉強も出来ます!
"An Ideal Husband"



Stanhope Productions & Sweeney Earl Productions公演
観劇日:2011.1.4   19:30-22:10
劇場:Vaudeville Theatre, London

演出:Lindsay Posner
脚本:Oscar Wilde
セット:Stephen Brimson Lewis
照明:Peter Mumford
音響:Gareth Owen
音楽:Matthew Scott

出演:
Samantha Bond (Mrs Laura Cheveley)
Elliot Cowan (Lord Arthur Goring)
Raghael Stirling (Lady Gertrude Chiltern)
Alexander Hanson (Sir Robert Chiltern)
Caroline Blakiston (Lady Markby)
Fiona Button (Mabel Chiltern)
Charles Kay (The Earl of Caversham, Arther's father)
Derek Howard (Mason, a butler)

☆☆☆☆ / 5

(以下、劇の筋書きやディテールを書いているので、これから公演を見たり、テキストを読んだりする方は、それをご了解の上で読み進んでください。 Be warned! 今回は古典なので筋は書いていません。)

楽しくて楽しくて、2時間40分、私の顔はゆるみっぱなし。Wildeって、本当に天才だな、と改めて思った。早死にしたのが残念だ。そのWildeの楽しさを十二分に伝えた公演。いくらか新しい味付けはあるが、基本的にはオーセンティックな演出のコスチューム・ドラマ。ウェストエンドのストレート・プレイが、National TheatreやDonmar、Almeida等の公的補助の厚い劇場(subsidised theatre)と比べて良いところは、こういう古典を、弁解の必要なく、伝統的な演出で普通に上演して、そのテキストの良さを見せてくれることだ。subsidised theatreだと、その存在価値を持つためには、制作側に、埋もれた傑作を発見したり、革新的な味付けをしたりすべきだという意識があるだろう。商業劇場なら、多くの客に喜んで貰えば足りる訳だから、無理にそういう細工をする必要はない。

私は記憶する限りでは(私の記憶はもの凄く悪いのだが)、この劇を劇場で見たことがない。それどころか、イギリスの劇場でWilde作品を見たのは、20年近く前に、多分一度だけ("The Importance of Earnest"だろう)。好きな作家なのに何故だろうかと思うのだが、どうもロンドンではあまりやってくれない。地方劇場の演目では時々見かけるのが・・・。首都では、Wildeを上演するのは流行遅れなのかな。Cowardの客間喜劇(drawing room comedy)は良くあるのに。

ということで、この劇に親しんだのは、 Rupert Everett、Julianne Moore、Cate Blanchettなどが主演した1999年の映画版。あれも実に楽しい作品で、私は映画館とDVDで何度も見ている。
映画版は、原作をかなり変更して、テキストにない要素を多く付け加えている。特に大スターのCate Blanchettを目立たせる為か、 Lady Chilternをクローズアップしている感があったが、この舞台ではSamantha Bond演じるMrs Cheveleyが看板であり、また演技も素晴らしい迫力。彼女は台詞もジェスチャーも上手いし、魅力的だし、貫禄があって、100点満点。映画版では、Rupert Everettが演じたLord Goringはきざな高等遊民。その格好つけ過ぎたコミカルさは、今回のElliot Cowanよりも、Everettのようが一枚も二枚も上で、Wildeの味わいを良く伝えているように思う。Cowanもとても楽しく見せてはくれたが、ちょっと軽すぎるし、現代の若者のような雰囲気がぬぐいきれず、上手に演じてはいるが作った役柄ということが透けて見え、貫禄が足りない。もっと嫌みに感じるくらい誇張した演技できざにふるまって欲しかった。

このプロダクションの特色と思ったことは、意外とシリアスな調子の、熱気を帯びたダイアローグのやりとりが多かったこと。特にRobert Chilternと彼の妻との間の、夫と妻の愛情についての会話は、相当にドラマティックで、喜劇とは思えない雰囲気を作り出したが、おそらく他のプロダクションでは、もっと軽い調子で台詞を言うのではないか。どちらが良いというのではなく、こういう演出もあって良いと思った。Robertはこうしてシリアスに演じられてみると、単に貧しい事務官時代の弱みにつけ込まれただけではなく、かなり性格的に問題のあるキャラクターだということが分かる。一方、Goringはきれい事を言って劇では良い役だが、結局は彼の貴族としての地位と財産に支えられているからこそ、そういう格好良いディレッタントの助っ人が演じられるのである。Lady Chilternの教条的な道徳臭さもはっきり浮き彫りになる。そういう主な人物が持っている明暗の特徴を浮き立たせるのが Mrs Cheveleyの演劇的な役割である。

老貴族Lady Markbyによる、その当時の政治家の夫達に関するウィット溢れるモノローグは、現在ではかなり古びた感じがあり、いくらかカットされても良いかも知れない。しかし、こういうシーンが当時の人々にとってはとても面白かったんだろう。

喜劇としての魅力を特に高めたのは、Fiona Button演じるMabel Chiltern。一貫して軽いキャラクターで、Goringとの丁々発止のやり取りは、実に楽しい。Fiona Buttonは、最近BBC Threeで放映されたばかりのレスビアン達のドラマ、"Lip Service"でも三枚目の役者の玉子を演じて好演していたが、今回の役どころも大変上手くこなしていた。その他の脇役では、Derek Howardのしかめ面をした執事が可笑しい。

装置やコスチュームには原則的に不満は無いが、National TheatreやRSCと比べると、やはり壁が如何にもペンキで塗ったという感じの薄っぺらさが感じられたり、男性のスーツや、一部の女性のドレスが、仕立ては昔のデザインでも、生地の安っぽさが見え見えであったのは残念(今回私が3列目に座っていたので、必要以上によく見えてしまったためだろう。)

Wildeのテキストは、人生に対する素晴らしい警句で溢れていて、じっくり味合うに値する劇だ。軽いタッチではあるが、何と倫理的な芸術家だろう。真面目さとシリアスさが表裏一体となっているところが、何とも言えない魅力! テキストでも映画でも舞台でも、彼の作品に接すると、最終的に感じるのは、Don't take yourself and your life too seriously、と言う気持ちになるね。

英語も比較的分かりやすいし、とにかく良く出来た劇であり公演なので、英語がある程度聞き取れる方なら、日頃台詞劇をご覧にならない方にも大いに勧めたい作品。

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