2011/04/21

"Brontë (Tricycle Theatre, 2011.4.20)

ブロンテ姉妹の生涯と作品を想像力豊かに組み合わせて描く
"Brontë"

Shared Experience公演
観劇日:2011.4.20  14:00-16:10
劇場:Tricycle Theatre

演出:Nancy Meckler
脚本:Polly Teale
セット:Ruth Sutcliffe
照明:Chahine Yavroyan
音響、音楽:Peter Salem
Movement:Liz Ranken
衣装:Yvonne Milnes

出演:
Kristin Atherton (Charlotte Brontë)
Elizabeth Crarer (Emily Brontë)
Flora Nicholson (Anne Brontë)
Mark Edel-Hunt (Branwell Brontë, Heathcliffe, Arthur Huntingdon)
Stephen Finegold (Patrick Brontë, Bell Nicholls, Rochester, Heger)
Frances McNamee (Cathy, Mrs Rochester)

☆☆☆☆ / 5

ブロンテ姉妹の半生を 劇団Shared Experienceの劇作家でディレクターのPolly Tealeがが劇化し、2005年に初演。2010年にはWatermill Theatreで再演され、今回、Tricycleでで3度目の上演。子供の頃のシーンなども挿入されるが、大体において、1845年夏からCharlotteが亡くなった1855年までを描いている。

現実の姉妹、弟のBranwellや父のPatrickの暮らしの中に、『嵐が丘』や『ジェイン・エア』のシーンが時々混ざり、CathyやRochester、Mrs Rochesterなどが登場する。CharotteがJane Eyreになって語ったりするシーンもある。姉妹と彼らの作品の繋がりを強調した脚本である。そうしたことで、やや分かりにくいところもあり、ブロンテや彼女たちの作品についてまったく予備知識がないと難しいかも知れない。私は、幾つかブロンテ姉妹について知らない事を学べて良かった。Emilyはもう一冊小説を書いていたらしいが、多分Charlotteが妹の死後破棄したらしいこと、Charlotteは妹2人の詩をかなり書き直して出版したらしいことなど始めて知った。責任感の強いCharlotte、実際的で社会問題に関心を持ち、自分達よりも更に貧しい人達に同情するAnne、ひたすら自分の世界に沈潜しつつ想像の世界に生きるEmilyと、それぞれの個性が良く表現されていた。CharotteとEmilyは2人とも大変情熱的なところは共通している気がするが、姉はその情熱を倫理観で押し殺し、妹は自分だけの想像の世界だけで開花させる。また、一家の期待を一身に背負いつつ、その圧力に負け、また才能豊かな姉妹に引け目を感じるBranwellの悲劇も大きく扱われていた。『嵐が丘』などは、時代を超越した世界だが、この劇では、鉄道の開通のこと、作家が有名人としてもてはやされたこと、工場労働者の生活苦や労働争議など、姉妹の生きた時代の社会の動きも背景に書き込まれていた点も良かった。

簡素な舞台だが、黒い壁に時折鮮やかな光線を当て、ヨークシャーの気候の明と暗を感じさせた。映像は使わないが、照明の使い方が巧みで、また、若い体力ある俳優達を目まぐるしく、驚くほど激しく動かして、雰囲気としては、コンプリシテなどに共通するものがあった。

ちょっと分かりにくいところがあるので、劇の世界に引き込まれるのに時間がかかる。インターバルで帰った客もいた。しかし、一旦この劇の雰囲気に馴染んでくると面白く、終盤は大変感動的だった。ブロンテ姉妹の作品のファンでなくても大いに楽しめる内容の劇で、演技もしばしば激しく複雑な動きもあるが、熟練していて素晴らしく、大変満足できた。

Shared ExperienceはArt Councilの補助金を完全に打ち切られて、存続が危ぶまれてるとのこと。大変残念である。観客は女性が圧倒的に多かった。ブロンテ作品のファンは脚本を読むだけでも興味を持てるかも知れない:
Polly Teale, "Brontë" (Nick Hern Books, 2005) £9.99


(追記)この劇、Daily TelegraphのCharles Spencerは星2つのみで酷評していました。それはそれぞれ劇評家の意見だから仕方ないのですが、こんな劇を作るようではArt Councilの補助金がなくなって当然、という意味の事を書いているのはかなりむごい。芸術家団体は、まるでカゲロウのように資金的にはひ弱でしょう。劇団がなくなった後、スタッフはどうなるのでしょう。倒れた人を足蹴にするような批評家だと思い、わびしい気持ちになりました。批評家も演劇界で生きる1人ですから、率直な批評とは別に、資金難で苦しんでいる劇団・劇場には暖かい視線を注いで欲しいですね。但、Spencerには彼なりの言い分があるので(公演が少なすぎる、2人の芸術監督は多すぎる、古典の劇化が多くマンネリになっている、云々)、詳しくは直接批評を読んでください。確かにこの劇は取っつきにくい劇ですが、劇評は全体としては好意的なものが多いようです。また3回目の再演に耐え、劇場も満員ということでもそれがうなずけます。

2 件のコメント:

  1. ライオネル2011年4月27日 22:30

    中学生の時に「嵐が丘」を読んでから、エミリー・ブロンテが大好きなんですけど、ブロンテ姉妹のことはなにも知りませんでした。・・・・・・こんな私が見てもわからなかったでしょうが・・・・でも、見てみたい舞台ですね。
    再演を重ねているという事は、共感できる舞台なんでしょうね。
    ひどい舞台なら、席が埋まらないので、再演だってできなかったでしょう。
    完成度が低くても、観客が楽しめる舞台なら、批評家が、そこまでけなすことはないのに・・・・・
    ブロンテ姉妹のことを知って、チャンスがあれば、この舞台に挑戦してみたいです。

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  2. ライオネルさま、

    日本では英文学の人気は徐々に低くなっていますが(というか、外国文学全体かな)、ブロンテとオースティンだけは人気ありますねえ。映画やテレビのおかげも大きいでしょうね。

    テレグラフのスペンサーは実に口が悪いですね。読んで、うんざりする時もありますが、それだけ自分の批評に自信があるんでしょう。彼は酷評が過ぎるかも知れないですが、イギリスの演劇のレベルが高いのは、批評が厳しいからですね。ひどい公演だと徹底的に叩かれますから。一般の演劇愛好者のブログだってレベルが高いし、そのまま新聞に載せられるほどの文章で、真剣に書かれていますので、フリンジの劇など新聞評が少ない時は大変参考になります。日本の批評もどうにかなって欲しいです。日本の新聞での劇評は、短いせいもあるけど、単なる紹介かお世辞ばかり。スペンサーの批評より余程読んでいて頭にきます。
    Yoshi

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