2011/04/16

C. J. Sansom, "Revelation" (2008; Pan Books, 2009)

期待を裏切らないチューダー朝エンターティンメント小説
C. J. Sansom, "Revelation"


(2008; Pan Books, 2009)  629 pages.

☆☆☆☆ / 5

このブログでも何回か取り上げているC. J. Sansomのチューダー朝ミステリ。主人公は法廷弁護士のMatthew Shardlake、そしてワトソン役はいつもの、ユダヤ人の血筋をひいたJack Barak。このShardlakeシリーズでは、"Dussolution", "Dark Fire", "Sovereign"に続く4作目。既に読んだ3冊同様に大変楽しめる。

今回の時代設定は1543年。Henry VIIIが亡くなるのが47年なので、もう晩年であり、作品では直接登場はしないが、王は肥え太り、足に潰瘍が出来て歩くのもままならず、かなり病弱であるらしい。しかし彼はこののち妻となるCatherine Parrに求愛中という体たらくである。政権の中枢を担うのは依然として宗教改革者のThomas Cranmerであるが、王はこの頃はすっかりカトリック的な信仰に逆戻りして、改革を後退させたくないCranmer派の旗色は大変悪く、保守派のロンドン司教、Edmund Bonner、ウィンチェスター司教、Stephen Gardinerらの一派に押されっぱなしである。(この物語はそこまで進まないのであるが、Cranmerはカトリック女王のQueen Maryの時に処刑されることをついつい考えつつ読んでしまう。また、Bishop BonnerはEdward VIの時代、改革派に破れて投獄されるが、Maryの治世で釈放。しかし、Elizabethの時代にまた投獄され、獄死するという変転多き人生をたどる。GardinerもEdwardの時に投獄され、Maryになって釈放されてまた活躍するが、Elizabeth時代到来の前に病死した。)

さて、クライム・ノベルとしては、連続殺人鬼の登場である。どうも、改革派だったがその理想を捨ててしまった人が続けてねらわれているという兆候をMatthewは読み取るが、そうなるとMatthew自身にも当てはまる。実際彼も何度も命を狙われるし、彼の周囲の人々の間でも、親友の弁護士Roger Elliardが無惨な姿で殺害され、またBalakの妻Tomasinも襲われる。更に殺害のパターンは聖書のヨハネ黙示録から取られていることが明らかになる。

娯楽小説の枠組みではあるが、作者Sansomは原理主義的な宗教の非人間性を訴えているのは、後書きを読まなくともあきらか。アメリカ合衆国に見られるキリスト教原理主義は勿論、神と信仰の名の下にテロ行為や戦争を正当化する他の宗教の信者にも当てはまる。また、チューダー朝の事について幾らかでも知っている人には、精神病者を収容していたBedlam監獄や当時の精神医療の話が出てくるのも興味深い。Matthewの親友でムーア人のGuy Malton医師は、彼の徒弟Piersの扱いをめぐりMatthewとの間に決定的な溝が出来てしまうのもひとつの見どころ。また、当時のヨーロッパへの解剖学の知識の導入も言及されている。Matthewの私生活では、亡くなったRogerの未亡人Dorothyとの間にしばし男女の感情が芽生えたり、BarakとTomasinの夫婦喧嘩の仲裁に腐心したりと、サービス満点。彼のこれまでの作品と比べても、他の歴史ミステリと比べても、見劣りのしない秀作だ。

この後、Sansomはこのシリーズをどの時期に進めるのだろうか。プロテスタント王、Edward VIか、カトリック女王Maryか、それとももっと下ってElizabethの治世か。大変楽しみである。

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