2011/04/10

"Mogadishu" (Lyric Hammersmith, 2011.4.2)

無政府状態の戦場と化した学校
"Mogadishu"

A Royal Exchange Theatre (Manchester) Production
観劇日:2011.04.02. 16:30より
劇場:Lyric Hammersmith

演出:Matthew Dunster
脚本:Vivienne Franzmann
セット:Tom Scutt
照明:Philio Gladwell
音響:Ian Dickinson

出演:
Malachi Kirby (Jason, the pupil who accuses the teacher)
Julia Ford (Amanda, the teacher who is accused)
Ian Bartholemew (Chris, the head teacher)
Tara Hodge (Chloe)
Farshid Rokey (Saif)
Tendayi Jembere (Chuggs)
Michael Karim (Firat, a Turkish pupil)
Savannah Gordon-Liburd (Dee, Jason's girlfriend)
Shannon Tarbet (Becky, Julia's daughter)
Fraser Jame (Ben, Jason's father)
Christain Dixon (Peter, Julia's black husband)

☆☆☆☆ / 5

今回の劇、"Mogadishu"は、その名前とは違い、イギリスの荒れた学校を舞台にした劇。ある問題の多い黒人の男の子(Jason、15歳位の設定か)がトルコ人の優等生Firatをいじめており、それを止めに入った女性教師、Juliaを突き飛ばすが、それで自分が処分され、除籍処分になるのを恐れ、まわりにいた子達に嘘の証言をさせて、その女性教師が彼に人種的な暴言を使い、彼に暴力をふるったという話しをでっち上げる。ところが女性教師の方は、子供の内面の良心を信じようとして、校長に彼を処分しないよう、穏便に済ませようとする。そうして女教師がうかうかしている間に、男の子の側は、強面の父親を巻き込んで教師を処分させようとして、役人(children's service)や警察を巻き込む。彼女は仕事を失い、刑事訴追の対象にされ、さらに子供を育てるには不適格な人間との疑いをかけられて、役所から娘の養育権までも奪われかねない事態に発展する。母の働く学校に通う娘にも影響は甚大で、リストカットを繰り返す。ところがこの男の子には幼い頃母親の自殺という悲惨な過去があり、父親との意思の疎通も全く上手く行っていない。結局、口裏を合わせてくれた悪童達とも上手く行かなくなり、彼らは最初の証言を翻す。最後は、教師は学校を辞める事を校長に次げ、また、男の子の自殺で終わる。

非常に面白い劇だった。Mogadishuというのは、ソマリアの首都だが、ソマリアは常時内戦が続き、無政府状態の国。海賊が跋扈する国としても知られいる。つまり、この舞台になっている学校はそういうところなのである。イギリスの一部の教室の酷さがうかがえる。また、教条的なPolitical correctnessが一旦一人歩きをし出すと、一人の良心的な教師を組織としてどんどん追い込んでいる様子が迫力を持って描かれていた。

円形のステージは金網で囲まれ、学校が牢獄であり、またローマの円形競技場のような戦闘の舞台でもあると連想させる。

ハイティーンと思われる(でもそれぞれかなりプロとしての経験があるようなので、実際は20歳以上になっているかも)若い俳優達が大変リアリティーある演技で素晴らしかった。強いて言えば、トルコ人の男の子がステレオタイプ化されていたか。まわりの客も、インターミッションの時、盛んに、面白いと言っていた。それに、テーマがこういうものなので、若い観客が多く、また黒人を中心に非白人の観客も割合いた。黒人やアジア人を主人公に据え、彼らが中心となる劇を打てば、それなりに観客層が広がると実感した。もっとこのような、若い人、有色人種の人が興味を持てる劇が必要だと感じた。

作家のFranzmannは12年間、教師をした経験を持つとのことであり、劇にリアリティーがあるのも分かる。

このLyric Hammersmithは多分2回目に来た。もう10年以上昔、多分ウェブスターの劇を見たような気がする。

(追記)そういえば思い出したことがある。2,3日前、イギリスのある中高等学校で先生たちが何十人か終日ストをした。その原因が、生徒の教室での問題行動(上手い言い方を見つけられない)とそれに対する校長等管理職側の先生へのサポートの乏しさだったと記憶している。もちろん、そういう問題で困っている学校ばかりでもないだろうし、日本でも同様の問題はたくさんあるが、イギリスではかなり大変のようである。日本にやってきているイギリス人の先生の中には、母国の中高校で教師をしていて、ストレスで辞めてしまい、日本に職を求めた人も結構多い、と聞いたことあり。どこの国でも、いつの時代でも、ティーンの子達を教えるのは大変だ。たとえ教え方の上手下手はあったとしても、あの仕事を何十年もやっている先生達には感心する。

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