2011/03/25

"The Knot of the Heart" (Almeida Theatre, 2011.3.23)

麻薬中毒の問題と母娘の依存関係
"The Knot of the Heart"

Almeida Theatre公演
観劇日:2010.3.23  19:30-22:00
劇場:Almeida Theatre

演出:Michael Attenborough
脚本:David Eldridge
セット:Peter McKintosh
照明:Tim Mitchell
音響、音楽:Dan Jones
衣装:Yvonne Milnes

出演:
Lisa Dillon (Lucy)
Margot Leicester (Barbara, Lucy's mother)
Abigail Cruttenden (Angela, Lucy's elder sister)
Sohie Stanton (Marina, a counsellor at a drug rehabilitation centre)
Kieran Bew (a nurse, psychiatrist, a TV producer, and other roles of men)

☆☆☆ / 5

主人公Lucyの麻薬中毒、いや麻薬依存を、母親Barbaraとの密接すぎる依存関係と重ね合わせて描く。人間の内なる弱さ、それによって結びつく親子関係を鋭く抉った佳作。俳優の白熱の演技にも注目した。

(以下、劇の筋書きやディテールを書いているので、これから公演を見たり、テキストを読んだりする方は、それをご了解の上で読み進んでください。)

Lucyは20歳代終わりの魅力的な女性で、元はBBCの子供向け番組のプレゼンター(司会者)だった。しかし、3年弱くらい(?)前に麻薬を使っているところを見つかり、解雇された。その後も彼女の麻薬中毒は良くならず、どんどん深みにはまっている。ぼろぼろになっていく娘を、母親のBarbaraは自宅で、必死で世話する。しかし、自分ではどうしても麻薬を買いに行ってしまうLucyは、母から離れてリハビリ施設に入り、中毒から徐々に回復し始め、3週間後には、すっかり生まれ変わったようになって、実家に戻っていく。しかし、母の元に戻ると、また麻薬に手を出すようになり、更には、母親に薬を買ってくるように頼むまでになる。母の干渉が自分にとって良くない結果になっているとは知りつつも、麻薬の奴隷と化している彼女には、母が焼いてくれる世話から逃れられない。

母親のBarbaraは手取り足取りで娘の世話を焼いているが、観客は次第に、彼女の異常なまでの愛情が娘の中毒からの脱出を妨げているのに気づかせられる。才能があり、未来ある娘だが、1人では放っておけないLucyを世話することに、Barbaraは自分自身の存在意義を見いだしている。一方、子供の時から自立心に富み、弁護士として成功を修めている長女のAngelaとは、Barbaraは冷え切った関係で、お互いにほとんど連絡もしない。更にBarbara自身にもアルコール中毒の問題があった・・・。

人間の色々な弱さ、例えば、身体や精神の病気とか障害、麻薬やアルコール、ギャンブルなどの中毒といったものは、家族をひどく苦しめる一方で、特に親子関係において、非常に強固な「絆」の原因ともなり得るだろう。それが病気とか中毒を治す方向に働くこともあるが、場合によっては、相互依存の関係、悪しき甘えの構造を固定化することもあるのではないか。多くの親は、子供が自立して行く時には寂しい思いをし、子供への世話を必要としなくなったことで自分の何か大切な部分を奪われた気がするかもしれない。寂しいだけなら良いが、子供が自立しないように、意識的にか無意識にか、弱いままの状態に置いておこうとする親もいるだろう。この劇のBarbaraは、Lucyの快復を願っているようで、実は自立して自分の元を去っていくのが怖いのである。LucyもBarbaraも、ミドルクラスのプライドが邪魔して、自分達の弱さや中毒の現実を正直に見つめ、自分と向き合うことが出来ないために、Lucyは中毒から脱出できず、Barbaraは娘も自分も救えない。

Lucyを演じたLisa Dillonの麻薬中毒の表現は非常に鬼気迫るものであった。また、Lucyに対し、息の詰まる世話を焼き続けるBarbaraを演じたMargot Leicesterも、見ていてため息をつきたくなる迫力があった。イギリスのミドルクラスの家庭にとっては、かなり陥りやすい落とし穴であり、Almeida Theatreに来る観客には共感を呼ぶ作品だろう。しかし、多くの日本人には、それほど切実には感じられない気がする。

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2 件のコメント:

  1. ライオネル2011年3月25日 13:17

    私、「ジンジャー・ブレッド・レディ」を読んだとき、この気持ちがわからないと思いました。
    お酒に頼らないといけない淋しさって、何だろうと?
    特に大阪のオバちゃんはこういうことに関係なさそうですね。こういう題材の舞台ってやりきれせんね。
    リサ・ディロン、良かったんですね。

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  2. ライオネルさま、

    こちらにもコメントいただき、ありがとうございます。「ジンジャー・ブレッド・レディ」ってニール・サイモンの劇なんですね。知らなかったですが、一度見てみたいです。

    中毒って、それに捕らわれるきっかけは色々あると思いますが、「中毒」であるということは、一旦捕らわれると個人の努力とか意思の力だけでは、なかなか脱出できないんですね。そして家族を巻き込み、夫婦や親子の関係も壊し、仕事も破壊してしまいます。そこが中毒の恐ろしいところです。大阪であろうと、男女や年齢に関係なく、麻薬やその他の薬の中毒は少ないにしても、アルコールとか、ギャンブルなどの中毒で苦しんでいる人、日本人にも多いですね。過食・拒食なども関連した病ではないかと思います。演劇でも取り上げられる価値のある素材と思います。また、若い人の間では色々な中毒性の薬は蔓延しているようで、この劇も他人事ではないかも知れません。

    このテーマでは、フランク・シナトラとキム・ノバク主演の『黄金の腕』という映画が印象的でした。 Yoshi

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