2011/03/16

"Moment" (Bush Theatre, 2011.3.14)

19年ぶりの家族の再会だが・・・
"Moment"

Tall Tales Theatre Company / Solstice Art Centre公演
観劇日:2010.3.14 19:30-21:30
劇場:Bush Theatre, London

演出:David Horan
脚本:Deirdre Kinahan
セット:Maree Kearns
照明:Moyra Darcy
音響:Alun Smyth
振付:Muirne Bloomer
衣装:Elaine Chapman

出演:
Maeve Fitzgerald (Niamh Lynch)
Will Joseph Irvine (Fin White, Niamh's colleague & boyfriend)
Deirdre Donnelly (Teresa Lynch, mother of the Lynch family)
Ronan Leahy (Nial Lynch)
Rebecca O'Mara (Ruth Pigeon, Nial's newly-wed wife, English)
Kate Nic Chonaonaigh (Ciara Blake, Niamh's sister)
Karl Quinn (Dave Blake, Ciara's husband)
Aela O'Flynn (HIlary Kelly, Niamph's former friend)

☆☆☆☆ / 5

地震のもの凄い被害に加え、原発事故は刻々とより困難になっているように見え、ひとときも落ち着いた気分になれないが、私がやきもきして、じっと一日中テレビを見ていても仕方ないので、既に購入しているチケットを持って、フリンジの劇場に出かけた。フリンジだから仕方ないが、狭い長椅子に東京の満員電車のように座らせられて、2時間でえらく肩が凝ってしまった。

(以下、劇の筋書きやディテールを書いているので、これから公演を見たり、テキストを読んだりする方は、それをご了解の上で読み進んでください。 Be warned! )

小さな劇場だが、ロンドン・フリンジを代表する劇場であるBush、しかし今まで行ったことがなかった。今回優れた作品を見られて幸運だった。アイルランドの新進劇作家Deirdre Kinahanによる新作で、新聞の劇評では大変褒めてある。上演しているのもアイルランド東部のCounty Meath(ミース県)の劇団であり、Kinahan自身がArtistic directorである。

ストーリーの枠組みはシンプル。A family reunion、19年ぶりの家族の集まりである。Lynch家は母親 (Teresa) と娘が2人 (Niamh, Ciara)、そして、長く家に寄りつかなかった息子のNialからなる。Nialはイギリス人の女性Ruthと結婚したばかり。成功しつつある画家だ。自分は不本意だったのだが、夫の家族と知り合いになりたいというRuthの懇願に負けて、19年も留守にしていた実家を訪れる。母のTeresaは彼を待ちわびてそわそわしているが、娘2人はかなり複雑だ。Niamhは今更Nialが会いに来ること自体おかしいと思っているし、表面は冷静なCiaraにも色々な思いはありそうだ。Niamhがそれ程の長い間家をあけていたのは、彼が10代の子供の頃、大変重大な犯罪を犯して刑務所に入り、家族も大変苦しみ、父親はその為に死んで(自殺か?)しまったからである。

もう一度息子を受け入れて、家族仲良くひとときを過ごしたい、そして夫の残した遺産も彼に渡したいというTeresa、しかし心身共に弱っているTeresaを長年世話し続けてきた娘達、特にNiamhは、自分達の苦労が母に認められていないこと、母が一方的に息子を許してしまおうとすることにやりきれない気持ちを抱く。

犯罪が絡むシリアスな内容ではあるが、非常にテンポが良く、絶妙のタイミングの会話が続き、かなりの笑いを誘う。日頃からカンパニーとして一体となって演技をしている人達ならではの一糸乱れぬ会話劇で、大変楽しめる。演技も素晴らしい。姉妹と弟、母親の関係に加え、更に配偶者やパートナーが加わって、人間関係の多様さが、もつれた糸を見るような面白さ。アイルランド英語での「渡る世間は鬼ばかり」のような赴きがある。

Niamhが中心人物で、彼女と、母親のTeresa、息子のNialの関係が軸になるが、プラクティカルな性格のCiara、遠慮がちながら何とか皆のわだかまりをやわらげようと奔走するDave、一家に溶け込みたいRuthやFinなど、それぞれがパートナーとの関係の長さや深さに応じて、色々な色合いを持つ態度を示している点が面白い。

会話の絶妙さで魅了してくれたが、ちょっと残念と言えることがあるとすれば、Nialの犯罪自体が、劇全体とそれ程有機的に組み合わさっておらず、やや唐突な気がした。人間関係の面白さに加え、この犯罪が観客をぐっと掴めたら、大変な傑作になっただろうと惜しまれる。しかし、実に上手い劇作家だ。

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