2011/03/17

サラ・パレツキーの講演 (Warterstone's, 2011.3.16 19:00)


日本でもほとんど全ての作品の翻訳が出ていて大変人気の高いクライム・ノベルの作家、サラ・パレツキーの講演がピカデリー・サーカス前の書店Waterstone'sであり、行って来ました。この春ハード・カバー版が出版されたばかりの新作、"Body Work" (Hodder & Stoughton) のプロモーション・イベントです。これも震災が起こる前に切符を買っておいたのですが、良かったと思いました。震災の後にこのイベントを知ったのだったら、とても切符を買う気分にはならなかったでしょう。でも、こういう時こそ、パレツキーのファンとしては、Vic (V. I.) の必死の頑張りを読みなおして、希望を貰いたいですね。

司会の人との対談形式でした。相手の名前は聞き取れなかったのですが、大変手慣れた司会ぶりであったので、批評家かしらと思いました。その対談が45分くらいで、その後15分くらい、パレツキーが会場からの質問に答えてくれました。

パレツキーは以前にBBCのモーニング・ショーに出演したのを見ていたので、どういう感じの人かは知っていました。大変ウィットに富んだ、爽やかな雰囲気を持つ人。彼女は地方政治家の時代から、シカゴを地盤にして活動してきたオバマ大統領に大変親しいことも知られています。そういう話も出ました。オバマさんは静かで地味な人柄で、昔は、親しい人達の間では、奥さんのほうが政治家に向いていると言われていたそうです。そういうパレツキーは、作品を読んだだけでも大変リベラルな人だと分かります。最近は歳をとり、怪我をしたりしてなかなか出来ないでいる、と言っていましたが、社会的な活動もしているようです。

司会者が指摘して話題になったのですが、ヒロインのVicって孤独な人なんですね。大体において、ハメット、チャンドラー、マクドナルドなどの描く古典的なハードボイルドの主人公は皆大変孤独な人物です。また、私立探偵でなくても、警察小説でも、P D ジェイムスのアダム・ダルグリッシュやスーザン・ヒルのSimon Seraillerなどもそうでしょう。社会や組織におさまりきれない正義感とか、強い個性の持ち主だから、読者を魅了します。しかし、Vicの場合、その時々、個性豊かな恋人が出て来ます。更にコントレラスさんというお節介の塊のような隣人が事実上の父親。2匹の犬も家族みたいなもの。そして、親友で、Vicの姉と母を兼ねたようなロッティとロッティの夫のマックスというもうひとつの家庭もあります。

コントレラスさんについては、以前、書いていてこのせわしなくお節介なキャラクターに作者ながらうんざりしてきて、もう退場させようと思ったことがあったそうです。そうしたら、パレツキーの旦那さんが猛烈に反対して(^_^)、その案は没になったとのこと。良かったですね。

彼女の第一作、"Indemnity Only" が出たのが1982年。従ってもう30年間このシリーズを書いているわけです。私は多分15年以上彼女の作品を読み続けています。P D ジェイムスのアダム・ダルグリッシュ・シリーズもかなり好きなのですが、何と言ってもこのVicのシリーズが最高です。パレツキーも認めていましたが、近作では、Vicも段々年齢を感じ、孤独の影も濃くなっています。恋人達とも長続きせず、自分に何か根本的な性格上の問題があるのだろうか、と自問しています。経済的にも自転車操業で不安を抱え、いつまでこういう生活をやれるだろうか、と疑問を感じてきています。イラク・アフガニスタンの戦争やアメリカの超保守派の脅威の影も忍び寄ってきて、初期の、がむしゃらで、もの凄くエネルギッシュなVicとは大分違ってきています。アメリカの、筋金入りのフェミニスト・リベラルのパレツキーの思いを反映しているのでしょう。そういう変化も、ある意味で大変興味深く、また今後Vicがどう変わっていくのか、是非見届けたいと思います。

とっても楽しい夕べで、身を乗り出して聞いていて、1時間があっと言う間に過ぎました。

私が一番最近読んだ彼女の作品は、"Hard Ball"で、ブログに感想も書いております。

(付記)オバマ大統領暗殺の脅威

オバマ大統領と親しいパレツキーが、アメリカの保守化、いや過激化の象徴的な証拠として言っていましたが、彼は、これまでの大統領に比べ、暗殺するという脅しなどを5倍も受けているそうです。既に英語版ウィキベディアでまとめられて「オバマ暗殺の脅迫」という項目まで出来ているほどです。

更に今年2月には、ジョージア州の都市Athensで開かれた共和党の下院議員Paul Brounのタウン・ミーティングで、聴衆の1人が、"Who is going to shoot Obama?"(誰がオバマを[銃で]撃ってくれるのか?)というとんでもない質問をしたそうです。それに対し、その下院議員ブラウンは何と、単に"The thing is, I know there's a lot of frustration with this president"(この大統領に不満を持っている人は沢山いるのは知っていますよ)と軽く答えて、次の話題に移ったそうです。国会議員がですよ! まるで、暗殺を半ば是認していると取ることさえ出来るではありませんか。オバマ大統領支持とか不支持とかを超えて、アメリカという国の恐るべき病巣を見た思いです。この件ではこちらのサイトなど参照。


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