2011/03/04

Peter HallとNicholas Hytnerの対談(NTオンライン)

今年の1月21日にナショナルで行われたPeter HallとNichokas Hytnerの対談のビデオが、ナショナルのウェッブサイトにオンラインで掲載されている。5つのパートに分けて載せられており、観客との質疑応答も含めて、かなり長い時間が視聴出来る。素晴らしいビデオなので、英語がそこそこ聞き取れる方には是非お勧めしたい。

前のポストでも書いたように、Peter Hallは80歳の米寿にして、未だにイギリス演劇の最前線で活躍し続けている巨人。彼の力がなければ、イギリスのsubsidised theatreは無かったかもしれず、まさに20世紀イギリス演劇の隆盛を作り上げた最大の功労者だ。80歳だから、少し耳も遠いようだし、会話もスローで、途中で話しが途切れたりもして、Hytnerが適宜繕ったりしている。しかし、彼の演劇に対する情熱は、全く衰えておらず、それだけで非常に感激した。また、Hytnerの捕捉したことも含め、ふたりが言うことには、教えられることも多い。

"Twelfth Night"に関して、Festeについて、Hallが私にはなるほどと思わせることを言っていた。フールの多くは、聖職者になり損ねた浮浪者(tramp)の様な者が多かった、というのである。確かに、初期の芸人は広い意味での学僧(clerks)が母体であり、その身分は卑しい河原乞食だった。しかし、特にフールと学僧を結びつけたことは無かったが、これは大いに頷かせられた。テキストを読み返して検討する価値がありそうだ。

Hallは大変謙虚な人との印象を受けた。とりわけ演劇や俳優に対しては、自分を押しつけず、作品や役者の意見を尊重するようだ。彼は、"concept theatre"が大嫌い、と言う。つまり、最初から演出家がアイデアを持ってきて、こうやれ、と役者やスタッフに命じるようなやり方は是としない。話し合いつつ、カンパニーとして公演を作っていくことを楽しみにしているようだ。それに関連して、オペラの演出と演劇の演出の違いにも触れている。一般的なオペラ歌手は、こう演じてくれ、というと素直にそれをやろうと努力するそうである。歌手達は、演技には素人という意識があるのだろうか。一方、俳優は色々な意見を言って、うるさいそうである。下手すると台本を書き直せ、とまで言う(これはHytnerが言ったことかもしれない)。しかし、Hallはそういう風にディスカッションをしつつ公演を作るのが大好きなようだ。また、今の彼は、演出家としての彼自身の個性など出なくても良い、あくまで劇の良さが出ていれば良い、と思っているようだ。それは"Twelfth Night"でも充分感じた。

ふたりとも言っていたのは、今のイギリス演劇界はスターによって動かされている(star-driven)、ということ。勿論、これはいつの時代もかなりそうなのだろうが、今のウエストエンドの商業劇場は、テレビやハリウッドスターの出演による集客で成り立っている。かっては、ウエストエンドの劇場特有のスターが居たものだが、とHallは言う。今はウエストエンドの商業劇場を中心にコンスタントに出演するスターはまずいない。Hytnerは、Claire HIgginsやSimon Russell Bealeの名前を挙げて、ナショナルなどsubsidised theatreでのみ活躍する演劇のスターがいることを指摘していた。subsidised theatreが増えた今、演劇界独自のスターは、商業劇場から、subsidised theatreに移ったわけだろう。また、俳優は演劇で経験を重ねることでのみプロの俳優としての実力を得られる、という意味の事をHallは言っていたと思う。

Hytnerは、昨今のドラマ・スクールの授業料の高騰を嘆いていた。授業料が高いために、金持ちの若者だけがドラマ・スクールに行くことになり、俳優の層が薄くなるというのだ。2人とも、文化に対して、金銭的な見返りを要求する世相(政府?)を批判している。

イギリス演劇ファンにはたまらない対談。オンラインで無料で見られるとは贅沢極まりない。

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