2012/02/12

中世初期の文学とその「上演」スペース

(caminさんのTwitterの投稿に触発されて、私も幾つか投稿した。それをまとめておきます。)

中世文学はほぼ全てパフォーマンス芸術で、朗読したり、記憶して朗唱したりした。従って物理的上演空間の成立と切り離せない。12世紀頃から盛んになった恋愛叙情詩など私的な作品の上演には、小さな居間、私室等の成立と共に起こる必要があった。演技者、聴衆、そして上演空間があって成立した。

中世前期、例えばアングロサクソン時代は、貴族の城館も大きな広間で生活の多くがなされた。そもそも小さな暖炉や煙突による換気がなく、貴族でも大部屋で一族が大勢で寝起きするような生活形式だったと思われる。そういう上演空間では、プライベートな恋愛文学の朗唱など成立しにくいだろう。

中世テキストの「パフォーマンス」は近年しばしば議論されているようだが、そのパフォーマンスの場所、住居、そして特に居室の物理的形状も、読んだ読者/耳を傾けた聴衆と共に、作品の受容を考える上で、大事な論点だろう。近現代文学と同じ事。

イングランドについて言えば、ノルマン・コンクエスト以前の文学は基本的に「修道院文学」が大半。聴衆も、上演場所に関しても、恋愛を歌う文学の成立に適していない。

中世英文学の色々なジャンルが成立した物理的上演空間については、既に色々な議論があると思うが、私はまだまだ不勉強なので、今後考えたり、文献を読んだりしてみたい分野だ。特に、居間、個室、私室、等の誕生、そして部屋の形状は興味がある。イングランドやその他のゲルマン語圏など北方の文学の場合、暖房設備とも深い関係があると思う。大部屋でなく、私室を作るためには個別の暖房が出来ないと寒い季節に過ごせない。トルバドゥールの文学が南仏で始まった要因のひとつも、暖かな気候もあったかも知れないと思うがどうだろう? 小部屋を幾つも持つ大きな城郭を作る建築技術の発達や伝播も考える必要がありそうだ。

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