2012/02/20

Sara Paretsky, "Body Work" (Signet Books, 2011)

イラク戦争の裏側を描くクライム・ノベル
Sara Paretsky, Body Work

(2010; Signet Books, 2011)  517  pages.

☆☆☆☆★ / 5

サラ・パレツキーのV I Warshawski series。今手に入る一番新しいペーパー・バックスだと思う。ハードカバーではこれよりも新しい最新作が出ているようだ。今回も失望せず、楽しく読めた。ただ、パレツキー作品は、最初の頃に比べると、ヴィックの年齢が高くなると共に、がむしゃらに正義の実現に向けて突進する女性主人公の話ではなくなり、年齢に伴う人生の憂いを感じるようになってきた。ヴィックも、体だけでなく、気持ちの疲れとか経済的不安を見せることが多くなっているようだ。また、近年アメリカ社会が保守化するにつれて、極めてリベラルな作家であるパレツキーの苛立ちが表面に出ることも多い。そう言う点がこの作品、いや幾つかの近作の魅力でもあり、しかし、単純にエンターテイメントとして楽しみづらい感も残った。


タイトルになっているbody artistというのは、シカゴのいかがわしいナイトクラブでボディ・ペインティングのショーをしている女性のこと。彼女は自分の体に、クラブの客に絵を描かせるのを売りものにしている。このナイトクラブに、ヴィックの姪のペトラがアルバイトで雇われていて、ヴィックもクラブに顔を出した夜、殺人事件が起こり、否応なく彼女も巻き込まれることになった。body artistの体に絵を描いていた男が殺され、その罪を着せられたのは戦争でPTSDを負ったイラク帰還兵、チャドだった。殺人事件の背後には大がかりなギャング組織、そしてそうした組織とからんで資金を稼ぐ企業や豊かな弁護士達がいる。更に、大きな背景をなすのは、道義なきイラク戦争。パレツキーが、ミステリとアメリカ社会の今を見事に組み合わせている。特に、戦争でもうける死の商人と言うべき企業については、パレツキーの書くとおりだと思った。また、チャドの父親の息子への愛情には感動させられる。更に、もう一つのポイントとしては、信心深い家庭に生まれたレズビアンの女性の苦しみにも触れている。

強いて言えば、色々な社会問題を盛り込みすぎたのか、筋書きがやや込み入って分かりにくくなっている気がした(私の飲み込みの悪さや英語力不足もあるが)。また、姪のペトラ、body artist、その他の脇役達もあまり魅力が感じられなかったのも残念。私の方も、パレツキー作品にあまりにお馴染みになってしまったのかも知れないが。また、最初の頃のヴィックの作品も読み返してみたい。

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