2019/03/27

"Downstate" (Dorfman Theatre)

"Downstate"

National Theatre 公演
観劇日:2019.3.15 19:30-21:55
劇場:Dorfman Theatre, National Theatre

演出:Pam MacKinnon
脚本:Bruce Norris
デザイン:Todd Rosenthal
照明:Adam Silverman
音響:Carolyn Downing
衣装:Clint Ramos

出演:
Glen Davis (Gio)
K Todd Freeman (Dee)
Francis Guinan (Fred)
Tim Hopper (Andy)
Ivy (Cecilia Noble)
Felix (Eddie Torres)
Effie (Aimee Lou Wood)
Em (Matilda Ziegler)

☆☆☆☆☆ / 5

この劇が性犯罪を扱った劇であるとは知っていて、重苦しい作品だろうと予想はしていたが、想像以上にシリアスだった。最初はどういう場所で何が起こっているのか分からなかったが、性犯罪、特に未成年を被害者とする犯罪、で法を犯し、刑期を終えた人々が数人で暮らすグループホームが舞台となっている。皆それぞれ個性豊かだが、これと言って異常なところはなく、むしろ穏やかな人々に見え、高齢で車椅子を使っている住民もいる(Fred)。そこに丁度被害者のひとりAndyと彼の妻がやって来ていて、彼を子供の時にレイプしたFredと一種の和解の話し合いをしているが、まわりの住民の立てる雑音や話し声で度々さえぎられ、上手く進行しない。また、Fredもにこやかに「解ったよ」とは何度も言うが、まるで他人の昔話を笑いながら聞いているような表情で、彼に真の反省や懺悔の気持ちがあるとは思えない。こんな事で和解なんて出来るわけない、と観客としても思うが、案の定、Andyの内面にはもの凄い怒りが蓄積していることが後で分かる。その後、この地区を担当する保護観察官Ivyがやって来て、住民のひとりに図書館に行ったことについて注意したり、色々と聞き取りをしたりする。そこで分かるのは、刑期を終え、一応法的には罪を償った元性犯罪者達も、自由になってからも、実に様々な制約を課されていて、塀の外の世界も一種の牢獄であると言う事実だ。例えば、劇中の人物も、携帯電話は駄目、インターネット接続も駄目、図書館に近づくことも駄目、規則を破ると、身体に追跡装置の装着をしなければならなくなる。まだ若いGioは自分のビジネスを始めようと計画しているが、社会は彼らが普通に生活することを許さない。グループホームの窓ガラスは割れたままテープで補修してあるが、ショット・ガンで撃たれたためだ。時々電話が鳴るが、嫌がらせ電話だと分かっているので誰も取らない。

後半ではAndyがまたやって来て、Fredに自分が作った反省の誓約書を突きつけてサインしろと迫る。Fredは大人しく聞いて、深く悔いていると言い、サインしようとするが、FredをかばうDeeが「彼は刑期を終え、罪は償った。彼に再度刑を科すのか」と抵抗して、Andyと激しい口論となる。劇の幕切れでは自殺者まで出る。台詞を追い切れないところも多々あったが、それでも圧倒的な迫力で観客に迫る。今回の渡英で見た最高の舞台。

性犯罪の被害者(特にこの劇に描かれたような子供の時に被害を受けた人達)や殺人事件の被害者家族の多くは、犯人を一生許せないという事実、その一方、犯人を更正させ、正常な社会人として社会に復帰させるという(先進国の)法における理念。このふたつの間にある大きな隔たりと矛盾をえぐる。被害者から見ると、子供をレイプしたような性犯罪者は一生苦しみ続け、気が狂って自殺するくらないでないと許せないのかもしれない。まともに更正して、立派なビジネスマンになり、幸せな家庭を築いたりしたらどう思うだろう。登場人物のひとり、Gioはそういう方向を目指しているかも知れない。自分の罪の重さに一生苦しみ続けるような人生を送るならば、気が狂ってもおかしくないだろうと思う。答のない問いをこの劇は突きつける。

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