2014/04/06
“The Fall” (2013年、BBC Northern Ireland制作テレビ・ドラマ)
1時間のエピソードが5回で完結するシリーズドラマ。BBC北アイルランドの制作で、舞台になっているのもベルファスト。主演はGillian AndersonとJamie Dornan。と言っても、Dornanの方は私は全く知らず、このドラマに出た時点でほぼ無名の人らしい。スターは、Gillian Andersonだけ。脇役で、2、3人、他のドラマの脇役で見た記憶がある人が出ているくらい。
ベルファストで連続女性殺人事件が起こるが、地元の警察は犯人逮捕に繋がる手がかりをつかめず、ロンドン警視庁(The Metropolitan Police、略してMet)から敏腕刑事、DCI Stella Gibson (Gillian Anderson) が陣頭指揮を取るべくやってくる。彼女は最初から全く愛想のない冷たい態度で、まわりの男性刑事を圧倒するというか、畏れさせているように見える(英米の警察ドラマでは、こういう切れ者の女性上司は定番になった)。一方、視聴者には犯人は最初から知らされている。公務員のようだが、家族を犯罪や事故で亡くした人のカウンセラー(grief counsellor)をしているPaul Spector (Jamie Dornan)が一連の殺人を犯している。この2人は、目的は違うが、どちらも偏執狂的な一途さで、犯罪捜査と殺人の準備にあたる。かなりスローなドラマで、時にはそのもったいぶったあざとさにうんざりしかねない。にも関わらず、画面から目を離せない緊張感がずっと持続する。ユーモアや遊びの要素がかけらもなく、一貫して黒々としたサスペンス感が張り詰めたドラマ。暴力やセックスのシーンもかなりある。好き嫌いがはっきり別れそうだ。
私にとって特に興味深かったのは、このドラマの設定された場所や背景。まず、タイトルがThe Fallとなっているのだが、これは何を表すのか私には未だ判然としていない。人間の堕罪を意図しているのか。但、殺人が起こった場所のひとつに、The Falls Roadという通りがあるので少しは関係がありそうだ。調べてみると、これはベルファストのメインストリートのひとつらしく、しかも共和国派(つまりカトリック・コミュニティー)の牙城らしい。更に、途中では、プロテスタント (the loyalists) の牙城であり有名なShankill Roadも出て来て(The Falls Roadの近く)、Spectorがその通りにある、カウンセリングしているクライアントの家に行くと、カトリック系のならず者にからまれて、「用もないのに来ると命はないぞ」、と脅される。ドラマだから鵜呑みには出来ないが、未だに、こんな所もあるのかしら、と驚いたりいぶかったりした。こういう、歴史的にも暴力に支配された土地柄を背景にしているために、政治的犯罪を扱ってはいなくても、荒涼とした雰囲気が醸成される。
Anderson演じるStella Gibsonの力強いキャラクターが面白い。ずば抜けた能力と冷静さ、ドライさが、上役も部下も警察の男達を引きつけ、また反発させる。彼女は、捜査を始めた途端に、自分より若い既婚者の刑事に目をつけ、自分のホテルの部屋番号を言って誘い、何だか実用一点張りという感じの、ジムで運動しているみたいなドライなセックスをする(北欧ドラマThe Bridgeの女刑事Saga Norénを思い出した)。彼女自身がこの”one-night stand”を「女が男を抱いたのであって、その逆ではなかった」と表現している。やがてその若い刑事が殺され、彼女もふたりの関係について取り調べを受けるが、全く動じない。殺人犯のSpectorと彼女の間にはほとんど直接の接点は無いが、SpectorはGibsonに自分と似た要素があると感じ、惹きつけられる。しかし、視聴者は、Gibsonに感情移入は出来ず、またそれを期待されてもいない。
Spectorのキャラクターは、良き妻と2人の可愛い子供に恵まれているが、平凡な家庭生活の裏に、激烈な抑圧感を抱え込んで生きていて、それをDormanが見事に表現している。洋の東西を問わず、狂気としか思えない残忍な殺人があるが、こういう人が犯すのだろうか、と感じさせる脚本と役作りに仕上がっている。
ひとつ、大きく評価が分かれるのは、終わり方。Amazon.co.ukのカスタマー評を見ると、終わり方が気に食わないので嫌い、という人が大分いるようだ。確かに、はっきりしない結末。多分次のシリーズに含みを残すためだろうか。その第2シリーズは今年放映される予定のようである。
この前にブログに書いたデンマークのクライム・ドラマThe Killing 1と比べると、もちろんあちらの方が数段面白い。主人公達、特にサラ・ルンドは、Stellaより大変魅力的で、感情移入もできる。しかし、視聴者が共感しがたい冷たさこそ、Stellaの魅力でもある。The Prime Suspect(『第一容疑者』)ほどは面白くないが、主役のキャラクターから言って、その流れのドラマとも言える。かなり迫力あるドラマなのでクライム・ドラマの愛好者には勧められるが、例えば、『フロスト警部』とか、『モース警部』の類の、のんびり楽しめる一般的なエンターテイメントにはならないでしょう。
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