2010/07/21

Eugene O'Neill, "Beyond the Horizon" (National Theatre, 2010.7.20)

Eugene O'Neillの最初の長編劇
"Beyond the Horizon"

Royal & Derngate Theatre, Northampton公演
観劇日:2010.7.20  14:00-16:40
劇場:Cottesloe, National Theatre

演出:Laurie Sansom
美術:Sara Perks
照明:Chris Davey
音響:Christopher Shutt
作曲:Jon Nicholls

出演:
Michael Thomson (Andrew Mayo)
Michael Malarkey (Robert Mayo, Andrew's brother)
Liz White (Ruth Atkins)
Joanna Bacon (Sarah Atkins, Ruth's mother)
Gavin Harrison (Ben, an employee of the farm)
James Jordan (James Mayo)
Jacqueline King (Kate Mayo)

☆☆☆☆☆ / 5

先日Tennessee Williamsの"Spring Storm"の上演を見たが、それと同じNothamptonの劇場が制作し、同じ演出家とスタッフ、そしてほぼ同じ俳優で上演されている。O'NeillとWilliamsという、アメリカ20世紀演劇を代表する劇作家の原点を示す作品を並べてみてもらおうという試み。"Spring Storm"は愛すべき佳品であったが、O'Neillのこの作品は大変説得力のある悲劇の傑作であり、今後も繰り返し上演されるに値すると感じた。彼の初めての長編戯曲だが、ピューリッツアーを受賞している。『夜への長い旅路』のような、後の複雑で屈折した心理を扱う大作とは違う、若いO'Neillのストレートな作品だが、大きな感動を呼び起こす力を持っている。

大筋は非常にシンプルだ。アメリカ北部にあると見られる小規模の農家が舞台。その農家の息子、Andrew Mayoは近隣の娘Ruth Atkinsに恋をしており、周囲も2人が結婚すると思っているようだ。しかし、Andrewの兄弟で、大学に通いインテリ・タイプのRobertもRuthを愛していた。望みがないと決め込んではいたが、彼は自分の気持ちをRuthに告白すると、彼女も実はRobertが好きだという。もともとRobertは遠洋航海の船員となって世界を見て回るつもりだったが、この結果により、Robertが農夫としてRuthと家族を支え、Andrewが船員となって家を離れることになった。

ところが、インテリで詩集を読んだりするのが趣味のRobertは、腕利きの農夫だったAndrewとは違い、農場経営の才が全くない。彼が懸命に努力しているにも関わらず、農場はどんどん荒れ果て、一家は貧困にあえぐようになる。RuthもRobertの無力をなじり、彼が本を読んで慰みを得ているのを非難し、更には、実は自分の本当に愛していたのはAndrewだったが結婚前はその事がよく分かっていなかったとまで言って、Andrewの帰宅を待ち望むようになる。しかし、毎日の、自分に合っておらず実りも無い労働に、心身ともに疲れ果てているRobertは、Ruthの変心を激しく非難する力も起きない。使用人のBenも、Robertの下で働いているだけで、地域の人々から笑いものにされる、と言って辞めていき、Robertがコミュニティーの中でも非常に孤立していることが推測される。

やがて、Ruthが待ち望んでいたAndrewが帰ってくる。Ruthは彼が農場を助け、更に、彼女自身にももう一度手をさしのべてくれるかも知れないと期待していたが、Andrewは次の目的地、ブエノスアイレスにすぐに旅発ってしまう。残された夫婦、そして彼らの病弱な娘Maryを次々と悲劇が襲う・・・。

Robertの希望の見えない必死の努力、彼の人柄の良さ、彼がたまたま背負ってしまった運命の過酷さが、強く胸を打つ。それを美男のMichael Malarkeyが実に切なく表現してくれた。一方のAndrewも海外で成功した時期もあったが、決して全てバラ色の結末ではなかった。また帰国時には、Ruthや故郷の農場が荒廃し、愛する兄弟がやつれているのを悲痛な思いで見ている。Robertの物語は、昔読んだジョン・スタインベックやアースキン・コールドウェルの農民に関する小説を思い出させ、Andrewの人生は、アメリカン・ドリームの成就と挫折の物語である。Ruthのキャラクターは、脚本ではやや自分勝手な人間として一方的に描かれている気がして、もう少し陰影を持った人物として描いて欲しかったが、それでも彼女も生活に苦しみ、やつれ、夢や家庭の幸せを失っていく様をLiz Whiteが名演。Whiteは"Spring Storm"では能天気の、明るくてセクシーな南部美人を楽しく見せてくれたが、今回は打って変わって、毒を含んだ役柄も上手に演じてくれた。

農家の居間の家具が段々古びて壊れかけ、またRobertとRuthの衣服もぼろぼろになっていくのが悲しい。最後には、ふたりは穴だらけの服をまとっている。"Spring Storm"の時も感じたが、照明も大変効果的に使われていた。この劇場のプロダクション、そしてこの演出家、Laurie Sansomは、今後も注目したい。

私は高校生の頃、スタインベックが愛読書のひとつで、コールドウェルの小説にも大変感動した記憶がある。今はそうした小説の内容はほとんど忘れてしまったが、さすがに『怒りの葡萄』の最後シーンに打ちのめされたことは記憶に残っている。この劇で、昔感じた懐かしい感動を呼び起こされた気がした。この劇も、日本語でもやってほしいと思える作品。

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