"Personal Enemy"
FallOut Theatre公演
観劇日:2010.7.5 19:30-22:15
劇場:The White Bear (Kennington, London)
演出:David Aula
脚本:John Osborne and Anthony Creighton
美術:Anna Hourriere
照明:James Baggaley
音響:Ed Lewis
作曲:Luke Rosider
衣装:Namiko Mitoma
出演:
Karen Lewis (Mrs Constant)
James Callum (Mr Constant)
Joanne King (Caryl Kessler, the Constants' daughter)
Mark Oosterveen (Sam Kessler, Caryl's husband)
Peter Clapp (Arnie Constant)
Genevieve Allenbury (Mrs Slifer, a Polish immigrant)
Steven Clarke (Reverend Merrick, a priest / Ward Perry, a librarian / an investigator)
☆☆☆☆ / 5
フリンジの劇場でのマイナーなプロダクション。しかし、友人との共作ではあるが、John Osborneの、"Look Back in Anger"以前の、滅多に見られない作品で、完全な形では世界初演とのこと。更にガーディアン紙のマイケル・ビリントンが高く評価していたので、行ってみることにした。冷戦期の1953年、赤狩りの嵐が吹き荒れるアメリカでは、田舎町の平凡な一家にも大きな影響があったという設定。時代設定等は異なるが、雰囲気や作者の意図は、Arthur Millerの『坩堝』を思い出させる作品。なかなか迫力ある台詞のやりとりで、大変楽しめた。
John Osborneと彼の友人Anthony Creightonは1954年にこの劇を書いた。Osborneが"Look Back in Anger"で注目を浴びるのは2年後の56年。当時はまだ演劇はLord Chamberlainの検閲を受けており、ホモセクシュアリティーへの言及などに関して、大幅な台詞の変更やカットを余儀なくされた後、1955年5月、北ヨークシャーの保養地、HarrogateのThe Opera Houseで初演されたが、評判にはならず、その後上演されないままであった。またOsborne達の、カット前のオリジナル脚本は行く方不明だったようだが、Lord Chamberlainに提出されたものが近年になってBritish Libraryで見つかり、始めて完全な形で上演の運びとなった。
舞台は1953年のアメリカの架空の小さな町Langley Springs。Constant夫婦は地元でも尊敬を集める豊かな中産階級の人達。結婚して近くに住む娘。そして自宅にいる十代と思われる息子のArnie。更にDonという長男がいたが、朝鮮戦争で戦死した。この劇の舞台になっているのは、Mrs Constantの誕生日で、朝から家族皆が彼女に暖かくお祝いを言い、プレゼントを渡し、一家は幸せいっぱいの雰囲気。Donの居ないことを思い出した時には悲しみに包まれるが・・・。隣人の賑やかなポーランド移民のMrs Sliferもやって来て、一層盛り上がる。彼女の自慢の息子はワシントンの国務省職員である。
しかしこの日、時間が経つに連れて、一家には次々と新しい意外な事実が分かる。Donは実は戦死したのではなく、朝鮮で軍を脱走し、帰還を拒否していることが明らかになる。また、DonもArnieも図書館員でインテリのWard Perryと大変親しくしており、Perryが彼らに贈った本に、「愛を込めて」なんて書いてあった。Donの脱走のニュースは一気に町の人々に広まる。間もなく、ワシントンの議会から反米活動委員会 (The House Un-American Activities Committee) に派遣されたらしい居丈高の役人がやってきて、一家を追及し、Donの部屋を捜索する。田舎牧師のMerrickもやって来て、息子の育て方を責める。こうしたことの対応をめぐり、家庭もばらばらになる。DonやArnieを責められずに自分の中に引きこもるMr Constant、考え方は非常に保守的だが、息子を信じたくて何かの間違いだと言い続けるMrs Constant、役人のように攻撃的で、両親を責める娘のCaryl、妻に引きずられながらも、これはおかしいと思い続けるSam Kessler。Arnieは自分の気持ちを誰にも理解されず、家を飛び出して行き、一家の苦悩は加速する。更に移民のMrs Sliferの息子も、おそらく赤狩りの影響で国務省を解雇されたとのニュースが入るが、一家はそれに同情する余裕も無く、町で唯一残された友人との間にも亀裂が入る。
特に見どころのシーンは、Mrs ConstantとKessler夫婦がWard Perryを自宅に呼びつけて息子達との関係について詰問するところ。但、Mr Constantはこれに参加することを拒否。特にCaryl Kesslerは目をつり上げ、声を張り上げて、まさに異端審問官である。つまり、田舎町の平凡な家庭と議会の反米活動委員会 (The House Un-American Activities Committee) が同じような事をやっているのだ。赤狩りはワシントンの一部の政治家によってだけなされたのではなく、その背後にはアメリカの多くの小市民の偏見があったと、OsborneとCreightonは言いたいのだろう。自分の殻に閉じこもり沈黙する父親、不快に感じつつも何も出来ない義理の息子、過激な娘とそれに引っ張られる母親––当時のアメリカの様々な市民の縮図だろうか。
この劇場は、パブの奥にある四角い部屋の2辺に2列に長いすを並べただけのスペース。収容人員は40人弱と思う。セットも低予算で出来るだけの事はしてあるが限界はあり、50年代のアメリカの家庭らしい雰囲気が出ているとはとても言えない。その点では、AlmeidaやCottesloeだったら格段に違っただろうと思う。それにもかかわらず、大変パワフルな台詞のやりとりで、堪能させてもらった。いくらか素人臭いところ、演技がやや過剰の俳優さんなどいたとは思う。また、Steven Clarkeが対照的な役を3役こなしたのは、使える俳優の数に制限があるためだろうけれど、やや無理があった。しかし、全体しては、大変良く演じられており、正味2時間半、退屈する時はほとんどなかった。物語と台詞に力があると思うので、これからも繰り返し上演されるに値する作品だと思う。朝鮮戦争の時代を背景にしており、ミラーの『坩堝』ほどではなくても、日本の観客にも訴えうると思うので、日本の劇団にも是非翻訳上演を検討して欲しい。と、誰も読まないブログで書いても仕方ないか(苦笑)。
ただ脚本でひとつ気になるとすれば、否定的に描かれているのがMrs Constant、そして特に攻撃的な娘Carylという2人の女性であること。たまたま女性がそういう役割になったというより、Osborneは女性の特性に偏狭さがあると考えていると取れないことはない。Osborneの女性差別意識を示していると指摘する評者もあった。
コスチューム担当は、日本人の方です。
以下はThe White Bearパブの正面。黄色を配色したなかなか華やかな色合いで、目立ちます。休憩時間、することがないのでコーラを飲みました(^_^)。こういう所は友達と行きたいですね。
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